10.恋人のTシャツ

 

身体を丸めて眠るあなたを起こさないよう、

マットレスを揺らさないよう、

そっとベッドから降りた。

 

すやすやと眠るあなたが、あまりにも美しかったから、

つるんとしたおでこに軽く唇を押し当てた。

 

昨夜、僕らが脱ぎ捨てていった衣服を、順番に拾い上げていく。

 

胸に沁みる甘い余韻。

 

ちょっとしたイタズラを思いついた僕。

 

きっと驚くだろうな。

 

そして、ちょっとだけ怒るだろうな。

 

でも、あなたのことだから、最後には笑顔になってくれるはず。

 


 

目覚めたら隣には彼はいなくて、

半身を起こしてぼんやりした頭で昨夜のことを思い出す。

 

長期出張から戻ったばかりのチャンミンに、性急に求められるまま身を預けた。

 

私たちが抱き合うのは1か月ぶりだったから、それはもう...。

 

重だるい身体も、甘い余韻だ。

 

コーヒーのいい香りが漂ってくる。

 

床に散らばっているはずの下着を探したけれど、見当たらない。

 

困ったな。

 

「起きた?」

 

チャンミンが寝室に私を呼びに来た。

 

「朝ごはんが出来たよ。

キッチンまでおいで」

 

慌てて私は布団にもぐりこみ、顔だけ出した。

 

抱き合う時は、いくらだって裸の姿をさらけ出せるのに、一夜明けて、昼間の光の下では恥ずかしい。

 

「私の服は?

とってくれる?」

 

とお願いしたら、チャンミンったら。

 

「それがないんです」

 

って、眉を下げて困った顔で言うんだ。

 

「ない?」

 

意味が分からなくて、首をかしげていたら、

 

「全部、洗っちゃったんです。

僕のものも、あなたのものも」

 

ふふふ、っとチャンミンは笑う。

 

「え!?」

 

「僕のTシャツを貸してあげますよ。

さあ、早く起きた起きた。

お腹が空いたね。

ご飯にしましょう」

 

手渡されたTシャツに袖を通すと、チャンミンの匂いに包まれて、甘やかな気持ちになる。

 

 


 

 

「素敵な眺めですねぇ。

僕が貸した服を着た恋人って、色っぽいものですねぇ」

 

「恥ずかし過ぎる!」

 

チャンミンが引いてくれた椅子に、Tシャツの裾をぎゅっと引っ張りながらそろそろと腰かけた。

 

「はい、コーヒー」

 

「ありがとう」

 

チャンミンが淹れてくれたコーヒーは、熱くて濃くて、美味しくて。

 

青いニットを着たチャンミンの背中を見つめる。

 

私のために、美味しいものを作ってくれるチャンミンの背中。

 

こういった、日常のちょっとした景色の1カットを、

チャンミンと過ごすひとときを、大切にしたいと思った。

 

 


 

 

「乾燥機が壊れちゃったんですよね。

乾くまでに...半日はかかるでしょうね」

 

と言ったら、

 

「帰れないじゃないか!」

 

って当然ながら、あなたは怒った。

 

「困りましたね。

どこにもでかけられませんね」

 

そう言ったら、あなたは僕の作戦に気付いて、

 

「仕方がないなぁ」

 

って苦笑した。

 

僕は、あなたのちょっと困った顔が大好きなんだ。

 

ブラインドを閉きった窓ガラスの向こうは、初夏の景色。

 

今日も暑くなりそうだけど、

 

エアコンの効いた快適な部屋で、

 

僕らは一日二人きり。

 

さあ、何をして過ごしましょうか?

 

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