【短編】僕といて幸せだった?

 

僕はシベリアンハスキー。

 

僕のご主人は、チャンミンという男の人だ。

 

ご主人が20何歳かの時に、子犬だった僕がご主人の元へやってきた。

 

(僕は犬だから、人間の年齢のことはよくわからない。

僕のご主人は、年をとってもずーっとご主人だ)

 

飛びついたり、吠えたり、噛みついたり、めちゃくちゃに走ったり、ものを壊したり、僕はご主人をいっぱい困らせた。

 

僕はワンパクだったからね。

 

でもね、

今は走りたくないんだ。

 

吠える元気もないんだ。

 

白内障、とかで、ご主人の顔もよく見えないんだ。

 

近頃、ご主人が優しすぎて僕は困ってしまう。

 

おしっこを失敗しても怒らないし、

 

僕の大好きなクリームパンを食べさせてくれるんだ。

 

どうしちゃったの?

 

困っちゃうよ。

 

ああ、

眠いなぁ...。

 

全くもって、眠いなぁ。

 

僕の頭を、ご主人が撫ぜてくれる。

 

気持ちいいなぁ。

 

幸せだなぁ...。

 

僕のご主人がチャンミンで、本当によかったなぁ...。

 

 

 

 

...なんて思っていてくれたらいいな。

 

僕は君にぴたりと身体をつけて、君の隣に横たわっていた。

 

毛皮のお腹をかいてやる。

 

お腹がゆっくりと上下している。

 

その動きも、次第に弱々しくなっていくだろう。

 

クリームパンをあげようか?

 

好きだろ?

 

ポテトチップスもピザも、なんでも食べていいんだからな。

 

枯れ草みたいな匂いがする、君の喉元に僕は顔をこすりつけた。

 

君が僕にするみたいに。

 

君が見ている夢の世界に、僕はするりと飛び込んだ。

 

君は僕を後ろに従えて、力強く、気持ちよさそうに走っていた。

 

ピンと尖った耳、シルバー色の艶やかな毛皮。

 

馬鹿力の君だから、めちゃくちゃに引っ張られてつんのめった僕は、転んでしまった。

 

自由を得た君は、散歩紐を引きずって公園内を走り回っていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

後に僕の恋人となる人が、駆け寄ってきて立ち上がる僕に手を貸してくれた。

 

君が繋いだ「縁」だよ。

 

恋人のTシャツの上でおしっこをして、僕に怒られた。

 

僕と恋人が眠るベッドに勢いよくダイブしてきて、僕に怒られた。

 

僕が大事にしていたプラモデルのコレクションを、バラバラにぶち壊された時は、僕は泣きそうだった。

 

ヤキモチだったんだろ?

 

大丈夫だよ。

 

君への愛情は減ってないから。

 

君に甘い恋人は、笑うばかり。

 

休日の昼下がり、読書をする僕らの間に陣取って、君は恋人の膝に頭を、僕の膝にはお尻をのっけて、悠々と昼寝をしていた。

 

月に一度のシャンプーが大嫌いだったよな。

 

大暴れする君を、僕と恋人で抱きかかえてやっとのことで、連れていったよな。

 

太りすぎたから、「人間の食べ物」が禁止になって、犬用ビスケットが唯一のおやつだったね。

 

今ならいいよ。

 

アイスクリームでもなんでも、食べていいからな。

 

どうして君は、僕らと一緒に年をとってゆけないんだろう。

 

僕を見上げる瞳は、水色で綺麗だった。

 

僕を頼り切った、疑いのない目。

 

君は絶対に、僕を裏切らない。

 

そう。

 

君は僕がいないと生きていけないんだよな。

 

まぶたは閉じられてしまい、もう白く濁った瞳は見えない。

 

鼻の下に指を当てると、よかった、温かい湿った空気。

 

「チャンミン...。

今夜はそこで寝るんだ」

 

僕の恋人は、君を挟んで横たわり、ふわりとかけた毛布に、僕と君と恋人は包まれた。

 

僕は君と十数年過ごした。

 

君のためにもっとしてあげられたことは、あったのかな。

 

君は幸せだったかい?

 

僕はいい飼い主だったかい?

 

君の尻尾が、パタパタと床を叩く。

 

よしよし、いい子だ。

 

君は最高の犬だったよ。

 

生まれ変わって、僕の元にまた戻っておいで。

 

待ってるからな。

 

 

(おしまい)

 

 

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