48.こっちにおいで-TIME第2章-

 

 チャンミンは幾ページ分かスクロールした後、目当てのページを見つけた。

 

「ほら、これだよ」

 

チャンミンの長い指が指し示したのは、管理棟の平面図だった。

「それが、何?」

「昼間、タキさんから水圧が弱いって言われたんだ。

僕は、てっきり上水のことだと思い込んでた。

でもさ、ドームで散水で使っている水は、上水だけじゃない」

「わかった!雨水を溜めているやつ!」

「そう、雨水タンク!

管理棟の屋上に並んでいるやつ。

雨水タンクのパイプは、管理棟の壁面を沿って地下のポンプ室に引き込まれている」

チャンミンは、画面を管理棟からポンプ室が位置するドーム端まで、画面を移動させた。

冷水のせいで、指先は真っ赤になっている。

「そのパイプは…なるほど!

換気ダクトの上を通っていて…。

調節バルブかパイプが破損してたりしたら…」

「タイムタイム!」

シヅクはチャンミンの腕を引っ張る。

「のん気に原因究明なんか、あとにしよう。

あんたの話は、あったかいところで聞くからさ。

早く帰ろう、チャンミン!」

チャンミンは、真っ白な顔をして震えるシズクにやっと気づいた。

「ごめん」

シズクとチャンミンは、ざぶざぶと水をかき分け、入口ドアまでのステップを上がる。

ステップも水中に沈んでいる。

「あれ?」

ドアのレバーを手前に引こうとした。

「ドアが開かない」

シヅクは片足をドアにかけて、力いっぱい引っ張ろうとしたがびくともしない。

「水圧だ」

「どうすんだよ!

私らここから出られないのか?

​おぼれ死ぬのか、凍死するのか?」

シズクの脳裏には、チャンミンと死体となって水中を漂う光景が浮かぶ。

「助けを呼ぼう!」

シヅクはリストバンドを操作しかけるが、

「繋がんないじゃん!」

「ここは圏外なんだよ」

「おい!どうすんだよ!」

相変わらず滝のように放水し続ける、換気ダクト口をチャンミンは見やる。

「おい、あんたは頭がいいだろ?

計算してみな。

タンクの水が全部、この部屋に流れこんで来たら、私の身長を超えるか?」

「うーん」

「こらこら、考え込むな、不安になるだろう!」

水を吸った洋服は、水の重みでずっしりしている。

「密閉された場所じゃないから安心して」

「なんて災難なんだよ。

凍え死ぬなんて、絶対に嫌だからな!」

「ごめん」

じっとしていると凍り付きそうになるため、シヅクは水中で足踏みしていた。

「チャンミン!

排水ポンプみたいなのは、この部屋にはないのか?」

「あるよ。

使い物にならないのがね」

「なんで使えないの?」

「ホースがない」

「はぁ?」

「ホースがあったとしても、水を捨てる...」

 

チャンミンは、肩を揺らして大股で壁際まで行った。

「僕は大馬鹿だ!」

足先で、壁沿いの床を探り出した。

「どうした?」

「僕は大馬鹿だ!

とっくの前に気付いてていいはずだったのに!」

「ここから出る方法があるのか?」

「どこかに排水口があるはずなんだ」

チャンミンは、水に浸る前のポンプ室の様子を思い出そうとする。

​「地下室っていうのは、ちゃんと排水ができるようにできているはずなんだ」

水漏れ箇所を探そうと、ひざまずいた時の床はどうだったっけ?

「シヅク!

床と壁の境あたりに排水口があるかもしれないから、冷たくて悪いんだけど、探してくれる?」

「お、おう!」

二人は、あごまで水に浸かりながら、壁に沿って床を手探りしていった。

この間も、換気ダクトからは滝のように水が降り注いでいる。

「ない!」

シヅクはかじかんで真っ赤になった手に、ふうふう息を吹きかけた。

体の芯まで冷えて、ぞくぞくと震えがのぼってくる。

はぁはぁと吐くチャンミンの息も白い。

「あ、あるとしたら、こ、ここか?」

シヅクは、あごをしゃくって鉄の塊を指す。

震えのせいで、言葉がうまく出てこない。

「発電機だ」

「......」

三辺が各1メートル程の旧式タイプの発電機を、チャンミンはじっくり眺める。

​その7割方は水中に没している。

「停電したときの非常用だろうね」

チャンミンは、発電機のフレームを持って揺すってみるがびくともしない。

(排水口があるのに、役目を果たしていないってことは、これが塞いでるに違いない。

どうしてもっと早く気付かなかったんだろう)

発電機は、壁にぴったりと付けて置かれている。

「僕らでなんとか動かすしかないね。

シヅク、そっち持って」

「......」

「シヅク?」

 

唇まで真っ白にしたシヅクが、両腕で抱きしめてガタガタと震えていた。

 

「チャ...ミ...ン」

「シヅク!」

チャンミンは、水をかきわけシヅクの側に駆け寄る。

「さ...さ...む...い」

歯の根が合わないシヅク。

チャンミンは逡巡する間もなく、腕を伸ばした。

「シヅク、こっちにおいで」