~縛られて~
目尻に涙を溜めて、僕はユノに哀願の眼差しを向けた。
能面のように無表情だったユノの頬がきゅっと上がって、笑ったのが分かる。
「チャンミンの願いを叶えてあげるよ」
「願い?」
仰向けになった僕は、両腕を頭の上で固くきつく縛られている。
こんな風に拘束された自分の姿を、第三者の目で想像してみたら、とても興奮した。
僕の性癖は、歪んでいるんだろうか?
誰もが皆、縛られて興奮するものなのだろうか。
「チャンミンのって小さいけど、真っ直ぐで硬くて、美しい形をしているね」
ユノは僕のペニスをゆらゆらと揺らしていたかと思うと、ぺろりと先端を舐めた。
「ふっ...!」
腰が反応して、ぴくりと震えた。
少しずつ少しずつ、僕のものがユノの口内に飲み込まれていく。
僕のものを飲み込みながら、ユノは僕から目をそらさない。
欲を浮かべたユノの目を見返す僕の目も、同様に違いない。
僕自身がユノの中に飲み込まれていくのか、それとも僕自身がユノの中を貫いているのか。
この眺めだけで、イッってしまいそうだった。
「ふぅ...」
快感のひと波をやり過ごした。
僕の根元まで咥え込んだユノは、きつく吸い上げた。
「ひっ...あっ...」
ユノのねっとりとした動きに合わせて、僕は嬌声を上げる。
アイスキャンディーのように、美味しそうに頬張るユノの瞳がギラギラと光っている。
どう猛なのに、美しい眼だ。
「...はっ...ああっ...!」
「チャンミンはフェラチオに弱いなぁ...」
ユノはくすりとほほ笑む。
「ああっ!
ダメ!」
悲鳴をあげたのは、僕の睾丸を握られたからだ。
「潰れる...潰れるって...!」
じわじわと力を込めるユノの指に、恐怖が喉までせり上がってきた。
「痛いか?」
「やめっ...ダメ...ううっ...!」
両手を拘束されている僕は、身をよじるしかなく、ユノを蹴り飛ばしたくても、僕の膝に腰を落とした彼に動きを封じられていた。
「潰れっ...痛いっ...いたっ、駄目っ...ああーーっ、駄目っ!!」
涙がにじんできた。
「本当に駄目なのか?
痛いだけか?
...本当は...気持ちいいんじゃないのか?」
「うっ...」
苦痛の先に待っていたのは、愉楽の世界への扉。
恐怖の裏側に潜んだ卑猥な快楽の境地に、1歩足を踏み入れた瞬間だった。
「...いいんだろう?」
ユノは先端を咥え、片手で陰嚢を握り、もう片方でペニスを素早く上下に動かす。
「やーっ...やめっ...やめっ...おかっ...かしくなっる!」
緩んだ入り口から体内に残されたゼリーがとめどなく、お尻を汚す。
「変に...っ変、変になる、なるからっ...イクっイクっ、イっちゃうっ...駄目っ、やっ...ああーーっ、あっ...」
僕の視界は真っ白で、わけのわからない言葉を発し続けた。
「...はあはあはぁ...はっ...はあぁはぁ...っく...っ...」
「...チャンミン、もうイっちゃったのかぁ...。
やれやれだ」
耳の穴を唾液が濡らす。
「仕方がないなぁ」
呆れたように首を振り振りユノは立ち上がり、彼の肌の上を艶めかしい黒い影が舐める。
戻ってきたユノは、僕の傍らに膝をつき、力を失った僕のものに何かを施し始めた。
「なにっ!?
何するんだ!?」
「射精コントロールしてやるしかないな」
窮屈感に下を見下ろすと、僕の根元が白い紐のようなもので縛られている。
「嘘だろ...」
それは僕の傷を覆っていた包帯だった。
「頭がおかしいんじゃないの!?」
ユノを非難するそばで、実は卑猥な期待感で腹の底がぞくぞくとしていたのだ。
僕の方こそ、変態で頭がおかしいんだ。
「こうでもしなきゃ、すぐにイっちゃうんだから。
まだまだ終わっていないんだよ」
そして僕の身体は、うつ伏せにひっくり返された。
「ぼさっとしていないで、尻を突き出せよ」
お尻を叩かれて、慌てて四つん這いになった。
手首を縛られているから、両肘をつくしかなくて、自然とお尻を高々と突き出した格好になってしまう。
額から汗がぽたぽたと、手首の革ベルトに落ちる。
「何もしなくても、穴がぽっかり...そんなに挿れて欲しかったんだ?」
「っ!」
ふり返ると、僕のお尻を覗き込んでいたユノと目が合った。
ユノと肌同士を重ねたいのに、彼は僕の身体をいじりまわすだけなんだ...それだけが不満だった。
腰をつかまれ、僕の胸は期待で踊る。
「かっ...はっ」
ずぶずぶと僕の穴に埋められる
僕の中が美しい人のもので満たされた。
ユノは腰を深く沈めたまま、円を描く。
「ん...あっ...あっ...」
うねるように四方から締め付ける粘膜を擦られて、これはこれで気持ちがいいのだけれど、もっと背筋を貫くような刺激が欲しい。
「はあはあはあ...」
物足りなくて、お尻を左右に揺すった。
「駄目だ、チャンミン。
じっとしてて、いい子だから」
と、僕の肩をマットレスに押しつけた。
僕のお尻はもっと高く突き出された。
立ち上がったユノは僕の腰を抱え直したことで、突き刺さる角度が変わり、彼のペニスの先が僕の底面に当たっているのが分かる。
「んふっ...」
でも、腰は振らない。
とんとんと軽く刺激するだけだ。
ユノに従って、頭も肩もマットレスに付けて大人しくしていても、すぐにじっとしていられなくなる。
「ユノっ...!」
両手を握り締める度、腕の傷に痛みが走った。
「...お願いだから...うっ...」
身をよじりたくてもユノに制された僕は、熱い喘ぎをこぼすだけだ。
焦れている僕を面白がって、ユノは腰を左右にくねらす。
「は...ぁっ...!」
「可愛いね」
焦れる僕の表情に満足したのか、ユノは僕の背中に覆いかぶさってきた。
ユノの重みが加わり、腕に傷口に痛みが走る。
そして、僕が待ち望んでいたピストン運動が開始された。
「あっ、あっ、あっ...あっ...」
揺さぶられるたび、視界が歪むほど気持ちがいい。
ごぼごぼと結合部から厭らしい音が鳴る。
「あ...!」
僕の中から引き抜かれたかと思ったら、再びひっくり返されて、仰向けになったユノの上に僕は乗っていた。
「動いたら駄目だぞ」
両手を封じられていて、バランスがとれずにいる僕を見かねたユノに腰を支えられた。
逞しいユノの胸に頬をこすりつけ、乳首を吸い、全身の窪みに指を這わせたいのに...手首を縛られている僕にはそれが叶わない。
激しく突き上げられたい欲求を、ぐっとこらえた。
「あ...あ...あっ...」
耐えきれなくなって腰を上下に揺らしてしまうと、その度にお尻を叩かれる。
「動くな」
上擦った声が漏れる。
ユノのものがゆるゆると出入りする粘り気のある音が、聴覚から僕を煽る。
(もう...駄目だ)
恨めしそうにユノを見上げると、ユノは瞳を揺らめかして僕に微笑みかける。
今のユノの瞳は、紺碧色になっているに違いない。
そうだった。
ユノの瞳は、色を変える。
不思議な肉体の持ち主だ。
ユノの身体が深く沈み込んだとき、ぐりっと固い箇所に当たって、短い悲鳴が出た。
「ひっ...」
ユノが腰をくねらしながら、大きなスライドで上下し出した。
ぺちぺちとユノの腰が僕のお尻にあたる音が、静寂の廃工場に響く。
「あっ...あ...あ...いいっ...いい...」
性感のとりこになってしまった僕は、ユノの動きに合わせて切羽詰まった喘ぎをこぼすばかりだ。
(もう我慢できない)
僕は自身の腰を上下に振り出した。
僕の中に注入されたローションが、溢れ出てユノの陰毛を濡らしていく。
「...っく...んっ...」
両肘をユノの胸について、お尻を振る。
手が使えないから、バランスを崩してばかりで、思うように動かせなくて苛ついた。
「わかったよ、わかったから」
ユノは僕の尻をなだめるように軽く叩いた。
「しょうがない子だ」
ユノは僕と繋がったまま、上体を伸ばして僕の手首に手をかけた。
そして、僕の手首をぎっちりと縛り付けていたベルトを外してくれる。
拘束がとかれて、手指に血流が戻ってきた。
強張ってきしむ肩の痛みに顔をしかめながら、ユノの頬を包み込んだ。
そして、優しいキスを贈る。
ユノと一体になりたい。
なみなみとたたえられた黄金色の蜜の池の底に、静かに沈んでいく光景が浮かぶ。
セックスに支配された僕はもう、浮上できない。
平凡な日常を不満げに生きてきた僕の目の前に、突如として現れた人。
理解が追い付かないまま、僕の身体に刻みつけられた肉体の繋がりから生まれる幸福感。
身体の芯まで貫かれ、目覚めさせられて、僕はもう日常に戻れないと思った。
(つづく)