~僕は奴隷だ~
上では互いの舌を出入りさせ、下ではユノのものが出入りする音をたてている。
ユノと繋がっている感動と、昼間の屋外で行為に至っているふしだら感が合わさって、僕は興奮の真っ只中だった。
それでも、昨日のように無我夢中になり過ぎないよう、快感を逃すためたくし上げたTシャツを噛んだ。
「んっ...んっ...」
ひと振りされるごとに声が漏れ出てしまって、噛みしめていたTシャツがぱさりと落ちた。
僕の腰をつかんだユノの手が、僕の胸を這う。
「やっ...そこは、だめ!」
ユノの爪先に両胸の先端をひっかかれ、僕の背中が痙攣する。
「きっつ...。
締めすぎだよ。
感じすぎ」
僕をからかうように言って、ユノは全体重を僕の背に預けると、僕の身体をガクガクと前後に揺する。
ユノの腰の律動に合わせて、僕はひんひん喘ぐ。
川のせせらぎ、頭上を走り去る自働車、蝉の鳴き声...これらの音のおかげで、どれだけ大声を出したって大丈夫だ。
強弱つけて前後するユノの腰骨が、僕のお尻に打ちつける音もそう。
コンクリートブロックに両手をついて、崩れ落ちないよう必死で身体を支える。
項垂れた僕の目に映るのは、足首までずり落ちたデニムパンツと下着と、踏ん張るスニーカーの足先だけ。
ユノは「服が邪魔だ...」と苛立たし気に言った。
僕のTシャツは胸上までまくし上げられ、完全に脱ぎ切らないままでユノは手を放してしまった。
僕の頭はTシャツに覆われて、胸下を裸にさらした格好となった。
Tシャツに包まれて、目に映るものは真白な生地だけで、周囲の音からも遮られた。
自然と僕の全神経は、ユノと繋がるあの一点だけに集中することとなる。
「...あん...あっ...あん...ああ、ああっ...」
歓喜の呻きが、布地の中に閉じ込められて、僕の耳にダイレクトに届く。
自分の喘ぎ声に興奮してどうするんだよ。
ここは外だぞ?
「気持ちいいか?」
耳元でユノの低音に囁かれ、僕は振り子のように頷く。
「...うん、もっと...もっと、頂戴」
ずくんずくんと腹底から弾ける痺れ。
「これは...?」
腰を高く引き上げられて、僕の両手は支えを失い宙に浮いてしまう。
「ひゃぁっ...ん!」
入り口直ぐの底面ばかりを狙って、浅突きされた。
「そこっ...そこ、だめ...そこ、だめっ...だめだめだめぇ」
くの字に折った僕の身体は、玩具のようにぐらぐらと揺れる。
立っていられるのも、やっとだった。
遮二無二に肉欲を受け止める自分の、濫(みだ)りがましさを軽蔑する。
日常の僕は常識的で大人しくて、できるだけ道徳的な人物であろうとしていた。
冷静沈着さを装い、醒めた表情を取り繕いながら、むくむくと、密かに育ててきたものがあったのだ。
辱められたい、いたぶられたい、はしたなく乱れたい。
心の奥の襞と襞の間に、ひた隠してしてきたそれを、今ここで吐き出せる自分に悦んでいた。
真昼間に、屋外で、ガードレールから身を乗り出して見下ろせば見られてしまうかもしれない状況にも興奮した。
僕はユノに耽溺していた。
絶頂の際に口をついて出てしまった「好きだ」の言葉。
その返答は得られず、逆に諌められた。
にもかかわらず、ユノは僕の色欲を煽って、浅ましい僕の中に侵入してくる。
混乱する。
宙ぶらりんとなった僕の気持ちの始末に困っていた。
それならばと、ぽっかりと空いた心の隙間を埋めたかった。
言葉で通じないのなら、僕の身体をもって恋情を伝えるしかない。
前戯のイロハを知らない僕だった。
ユノを愛撫する余裕もなかったし、その隙も与えられていない。
やみくもに穴を差し出すことしかできない、自分の青臭さと不器用さにつくづく呆れる。
僕の中に渦巻く不安と焦燥、そしてユノへの恋情をぶつける方法が、今はこれだけしか思いつかない。
「くっ...」
ユノの喉から、くぐもったうめき声が漏れた。
それを耳にした僕の入口が、きゅっと閉まったようだ。
「締まるなぁ。
チャンミンのここ...女みたいだ」
両膝はがくがくになっており、今にも崩れ落ちそうな僕の爪先が、足元の川砂を乱す。
「だめっ」
僕のものに伸びてきたユノの手をかわそうと、身体を捻った。
勢いで、ユノのものがずるりと抜け去ってしまった。
脱ぎかけのボトムスが僕の足首をもつれさせ、バランスを崩した僕は尻もちをついてしまった。
視界を覆っていたTシャツを脱ぎ捨てた。
裸のお尻に、日光にあぶられた川石が熱い。
見上げた先に、濡れそぼったユノのものがてらてらと天を向いている。
たまらず、飛び起きた僕は正面から彼に抱きついた。
「チャンミン...どうした?」
たまらなくて、ユノの喉に吸い付いた。
息を荒げることなく、余裕たっぷりなユノを征服させたい。
その肌のきめ細かさと、静脈が透けて見える薄い皮膚を間近にすると、赤い痣でいっぱいにしたくなる。
「興奮し過ぎだろ」
「...うるさいっ...!」
ユノの喘ぎ声を聴きたくなった。
むしゃぶりつく僕のうなじをつかまれ、引きはがされた。
ユノの眼は濃いサングラスで覆われている。
白い顔にそこだけぽっと色づく唇を、片端だけくいっと持ち上げた。
「服が邪魔だ。
脱げよ」
「......」
...ユノには逆らえない。
命じられた僕は、デニムパンツを下着ごと脱ぎ捨てた。
裾にひっかかったスニーカーも脱いだ。
橋脚の間を吹き抜ける風が股間をなぶる。
真昼間の屋外で、僕はなんて恰好をしているんだ。
滑稽で情けないやら...それなのに、ぞくぞくと興奮した。
触れてもいない僕の先端から、透明な水滴が光っている。
ユノは僕の腰を抱えて持ち上げると、擁壁に押し付けた。
僕はユノの首にぶらさがり、両脚で彼の腰を抱え込む。
僕のお尻が左右に割られ、露わになった箇所にユノの先端が円を描いて遊ぶ。
「挿れて欲しいか?」
「...っうん、挿れて...早く!
...うっ...んんっ...」
僕の返事を待たず、押し入ってきたものに僕の内臓が持ち上がる。
抜けるギリギリまで腰を引いたのち、ずんと一番奥まで刺し貫かれる。
「ふ...あっ」
背筋に強すぎる快感の電流が走る。
どうして僕を攻めるの?
僕の身体がいいから?
僕はね、ユノの雄を刺激している自分が気に入っているんだ。
ユノを煽っている自分に悦んでいるんだ。
ユノの腰に絡める両膝に力を込めると、同時に入口にも力が入って引き締まる。
それまで固く引き結ばれていたユノの唇が開いた。
そして、低く掠れた湿っぽい呻き声が...。
ユノの感じている表情を見るのは初めてで、勇気づけられ、肉欲が煽られた。
ここは屋外で、川石がゴロゴロ転がるところで横たわることもできない。
限られた体位でしか繋がることができない点がもどかしくて、かえって興奮材料となった。
「...チャンミン。
誰かに見られちゃうぞ?」
「!」
ユノの囁きに、一瞬我に返った。
「誰かこっちにくるぞ?
渓流釣りの人かなぁ...」
「えっ...!?」
ここは川遊びに絶好の場所だけど、大の大人が水着もつけずに全裸でいるのは不自然だ。
しかも、性交の真っ最中なのだ。
「やっ...離して!」
腕を突っ張っても、足を揺らしても無理だった。
「ガードレールから、下を覗いているぞ。
チャンミン...どうしてお前は、服を脱いでいるんだ?」
「!」
ユノの腰に絡めていた両脚を下ろそうとしたが、彼の強靭な腕にそれを阻まれた。
「だって、ユノが...脱げって」
「嫌なら、イヤだって拒めばいいのに。
脱いだのはチャンミンなんだぞ?」
外気は暑く、前髪から汗がしたたり落ち、ユノの指摘に羞恥で熱くなった全身からさらなる汗が噴き出るのだ。
「...梯子を下りて来たぞ。
どうする、チャンミン?
見られちゃうぞ?」
ユノに命令されたからその通りにしたんだ、服が邪魔だったから脱いだんだ...それから、恥ずかしいことをしたかったから裸になったんだ。
そう認めなくても、ユノにはお見通しなんだ。
「締まってきた。
いやらしいなあ、チャンミンは...」
うねる僕の中が狭まったのか、ユノのものが膨張したのか、その両方なんだろう。
「見られちゃうぞ?
どうする?
おっと...また締まった」
「んっ...離して...見られちゃうから」
ユノは抱えた僕の腰を、ゆさゆさと揺らす。
「...あぁ、ダメだって...あっ...そんな...」
「早く終わらせないと、見つかるぞ?
厭らしいなぁ、チャンミンは?
興奮してるのか?」
僕の腰をきつく引き寄せて、奥深くまで挿入したままで、ぐるりと円を描く。
ダメだと思えば思うほど、止めないで欲しいと請う。
「どスケベだな。
お前はど変態だ」
「...ひっ...や、やっ...見られちゃう、見られちゃう!」
「チャンミンのはしたない尻の穴も、丸見えだぞ?
チャンミンは男にヤられてるんだ。
太いものを突っ込まれて、悦んでるところを見られちゃうなぁ?」
青い空、四方は濃い緑の山々に囲まれた、涼し気な水音を立てる清流。
僕の目には、風光明媚な景色など一切、映っていない。
中が苦しい。
気持ちよすぎて、苦しい。
僕は何をしているんだ?
前を出しただけの青年に、僕はカエルになってしがみついている。
ユノを前にすると、何でもできてしまう自分にくらくらする。
もっと辱めて欲しい。
僕はユノの、奴隷だ。
(つづく)