~ユノ34歳~
これは怒りと喪失感をぶつけるためのものだった。
それから、X氏との行為を経て、刻みつけられた身体の記憶を消し去りたくて。
...そんなこと、出来るはずがないのに。
言葉で責められない代わりに、チャンミンの身体を攻めようとしているのだろうか?
チャンミンにもそれは分かっていたんだろう。
過去の痕跡を消し去って欲しい、気持ちが離れていかないよう繋ぎとめたい。
...そんな意気込みが感じられた...俺の思い込みじゃなければ。
心は哀しみで押しつぶされそうに苦しいのに、俺のそこは皮膚が張り裂けそうなほど膨れ上がっていた。
その猛々しくなったものを、チャンミンのそこにねじり込む。
潤い不足で、互いの粘膜が引きつれて痛みを伴った。
深く挿入できず唾液を足して、じわりじわりと埋めていく。
「くそっ...」
諦めて腰を引こうとしたら、「いいから、挿れてっ」と、チャンミンは自ら尻を左右に割った。
チャンミンは唾液をからませた指で自身のそこを濡らすと、俺のものを握って誘導する。
紅く鬱血した縁を目にして、一瞬萎えかけたが、俺の中で膨れ上がった欲と怒りと悲しみに突き動かされて、それは固さを取り戻す。
チャンミンを滅茶苦茶にしたかった。
時間をかけて抜き刺ししながら入り口を緩めた。
チャンミンの中に腰を全て沈めた時には、俺の全身から汗が噴き出ていた。
できるだけ負担をかけないよう根元まで埋めたまま、チャンミンの腰に振動を与える。
「あ、あぁ、あぁ、あああ、あ、あっ...」
たぐりよせた枕に顔面を押しつけたチャンミンは、間断なく喘ぐ。
「どうだ...痛いか?」
チャンミンを滅茶苦茶にしたがる暴力的な嵐の合間に、人間らしいいたわりの感情も顔を出す。
「ううん...いいっ...そのまま...もっと、もっと」
チャンミンがそう答えることを知っていて、俺はそう尋ねたのだった。
今度は、抜けるぎりぎりまで腰を引いては、力を蓄えた上で突き刺す。
俺の腰骨とチャンミンの尻がぶち当たる音が、ばちんばちんと響く。
不規則なリズムで、チャンミンの尻を打つ。
チャンミンは甲高い悲鳴をあげる。
「チャンミン...。
Xさんにも...こうやって抱かれていたのか?」
「...いいえっ...違う!」
征服するためのセックス。
「嘘をつくなっ」
チャンミンの中から引き抜いて、今度は親指を突っ込んで彼の弱いところばかりこする。
「...そこっ、そこダメっ...だめぇ!」
マットレスに両肩を沈ませ、だらしなく開いた口から流れ落ちる唾液で、シーツに染みを作っていた。
両膝がガクガクと痙攣し、支えてやらないと崩れ落ちてしまいそうだった。
「ここだろ?
お前のいいとこは...ここだろ?」
2本の指をぐるりと回転させた。
「っひゃあっ...ダメ...あぁっ、あああぁ」
半開きになったチャンミンのまぶたから、涙が流れている。
2本の指で押し広げたそこは紅く熟れている。
あの男の痕跡はないか、探っているかのようだった。
・
チャンミンはなぜ、X氏を誘う真似をしたのか。
俺にはなんとなく分かっていた。
出会ったばかりの頃、チャンミンに対して抱いていた印象は、正しかったのだ。
チャンミンはプライドが高い。
プライドは高いが、自分には自信がないから、相手がどんな反応をするのか気になって仕方がない。
敢えて相手を煽るような言動を取り、気のないふりをして、彼らの表情や言動に注意を払っている。
そんな気がした。
だから、チャンミンはX氏に近づいたのは、俺への嫉妬を誘うためじゃない。
チャンミンは自身がどんな見た目で、それがどう周囲に影響するのか、知っているはずだ。
もちろん、男同士の行為に興味があったこともあるだろうが...。
・
マットレスが揺れる。
叩きつける俺に合わせてチャンミンの身体が揺れている。
17歳の少年に、俺は欲をぶつけている。
この気持ち。
俺の中で小爆発を起こす不快なもの。
胸が痛い。
涙と鼻水、唾液にとチャンミンの顔面は濡れている。
半眼はうつろで恍惚を浮かべ、17歳の少年とは思えない程の色気を発散している。
X氏のことは、はらわたが煮えかえるなんて生易しい
相応しい言葉がみつからないほど、怒りと絶望、喪失感でもみくちゃにされていた。
だからと言って、チャンミンにそれをぶつけるわけにはいかないのだ。
なぜなら、悪いのは俺の方だから。
そう思っておきながら、俺はチャンミンの中を荒す。
いたわりの気持ちは消えてしまった。
「あっあっあっ...ああぁぁぁぁ」
チャンミンの腰がぶるっと震えても、俺は容赦しない。
既にチャンミンは2度達している。
「これっぽちしか出ないのか?
さっきまであいつとヤッてきたんだろ?」
シーツに放たれた小さなシミに、俺の苛立ちがつのる。
「ちがっ...ヤッてな...い、ヤッてないっ」
そう言い張るチャンミンだったが、それが嘘だと俺は分かっている。
甘い悲鳴をあげるチャンミンを、俺は後ろから攻める。
広げた両膝を抱えさせた上で、攻める。
のけぞった喉に吸い付く。
痕がついてしまっても、構わない。
視界がにじむ。
~チャンミン17歳~
義兄さんは怒っている。
乱暴に僕を抱くことで、怒りをぶつけているんだ。
義兄さんに叱られたかった。
僕がしてきたことを...それがとても悪いことであっても、認めて欲しかった。
僕がやってきたことがとても悪いことだって、義兄さんに認めて欲しかった。
僕を叱りつけてくれたら、僕は「ごめんなさい」と謝って、義兄さんに抱きついて許しを乞うことができるのに。
謝って許されることじゃないけれど、「馬鹿野郎」って怒鳴られて、義兄さんの怒りを浴びたかった。
怒ってくれれば、僕は正々堂々と謝れるのに。
義兄さんに知られてしまうのをあれだけ恐れていたのに、知られてしまったら彼に嫌われるんじゃないかって、あんなに恐れていたのに。
いざ知られてしまった今は、義兄さんのいたわりのこもった眼差しが、僕の心を苦しめた。
義兄さんはきっと、湧き上がった怒りを飲み込んでしまったんだ。
僕の気持ちは、行き場を失ってしまった。
義兄さんの方も、怒りが宙ぶらりんになってしまったんだ。
きっとそうだ。
怖くなって僕は、義兄さんの背中に抱きついた。
僕らの間にピンと張り詰めた緊張感に耐えられなかった。
そして、「したいです」とお願いしたんだ。
怒りを飲み込んでしまった義兄さんにどう接したらいいか分からなくなった。
滅茶苦茶に抱かれて、この緊張感を払拭したい。
僕を求めて欲しかった。
・
義兄さんの荒い呼吸音。
熱い吐息、熱い唇が僕の全身を舐める。
快楽にもたらされた涙と哀しみがもたらした涙で、義兄さんの肌を濡らす。
・
僕はこれからどうすればいいのだろう?
X氏が吐いた言葉が心に刺さっている。
『君はとんだ尻軽猫だ』
義兄さんが好きなのに、心と身体を裏腹に出来た僕。
X氏は、しゃぶる僕の顎を大きな指で捕まえて、自身の方へ振り仰がせた。
そして、こう言った。
『君に夢中になってしまった私が、いつまでも手放したがらないんだと、思っていたんだろう?
それは大間違いだよ。
会いに来ていたのは、君の方なんだよ?』
苦しい、苦しいよ。
・
くるくると体位を変えては、義兄さんは僕と繋がり直す。
弱いところばかりなぶられるのと、興奮している義兄さんに感じてしまう僕。
フットライトだけの光量乏しい中。
義兄さんの黒目がちの眼は、熱に浮かされたように潤んでいて、僕から決して反らさないのだ。
僕らは今、セックスをしている最中で、興奮と快楽に浸っているはずなのに、義兄さんの眼差しは泣き出しそうな、悲しそうなんだ。
僕の中は、義兄さんのものでぎゅうぎゅうに埋められているのに、空虚な感情に襲われる。
切羽詰まったかのような義兄さんの表情に、僕の胸は苦しくなる。
それなのに、抱かれ慣れた僕の身体...罰を受けているんだと意識するたび、僕のあそこはきゅっと締まる。
その度義兄さんは、動きを止めてしまう。
僕は2度3度と達しているのに、義兄さんといえば、一向に絶頂を迎えてくれない。
義兄さんから与えられる愛撫に、僕はこんなにも感じているのに、彼の恍惚の呻きが得られない。
僕の腰をつかむ義兄さんの指が震えていた。
僕の背にのしかかった義兄さんは、繋がったまま後ろから抱きしめた。
「...なんてことしてくれたんだよ...」
振り絞るような義兄さんの声。
「...義兄さん...?」
義兄さんはむせび泣いていた。
「...チャンミンっ...」
僕の背に体重を預け、義兄さんは身体を震わせて泣いていた。
「なんて...ことを、してくれたんだよ...!」
僕の胸に回されていた義兄さんの腕が緩んだ。
「...なんて...ことをっ...」
「ごめんなさい...」
「どうして...俺を頼らなかった?」
僕は馬鹿野郎だ。
義兄さんを傷つけた。
1年もの間、義兄さんを裏切り続けていた。
黙っていれば済むと高を括っていた。
「...そうだろうなぁ...こんな俺に、言えるわけないよなぁ...っ...。
そうか...そうだろうなぁ...」
17も年上の人を、僕は泣かせてしまった。
ねえ義兄さん、僕を嫌いにならないで。
赦さなくてもいいから...僕を手放さないで。
(つづく)