宴会会場に向かう前に、浴衣に着替えることとなった。
ところがチャンミンの奴、頬を赤らめもじもじしているのだ。
「見られていると恥ずかしいです...」
もじもじする仕草...左右の人差し指を擦り合わせるあれだ...をする奴を、俺は初めて目にした。
「男同士だろ?」
「でもっ。
ユンホさんを抱くのは、お風呂の後です。
身を清めてからがいいですから」
(抱く!?)
ウメコの奴め...。
何が何でも仕込まれたやつを回収せねば、と決意を固めたのだった。
チャンミンの言葉に目を剥きそうになったが、涼しい顔をしてスルーした。
「俺たちは着替える『だけ』だ。
『抱く』とか『抱かれる』とかって...この場でするには相応しくない話だ」
「...そうですね」
チャンミンはどことなく残念そうに、しゅんと肩を落とした。
『抱く抱かない問題』を掘り下げてみたいのかもしれないが、今は保留だ。
俺たちはそれぞれ背中を向けて、着替えに取り掛かることにした。
温泉は夕めしの後にしよう、仕方がない。
チャンミンに付き合っているうちに、宴会開始まで10分を切っていた。
チャンミンにはああ言ったが、俺の方こそ『抱く抱かない問題』を議題に挙げたくて仕方がないのだ。
(...まてよ)
俺はチャンミンの方を振り返った。
チャンミンは猫背になってシャツのボタンを外し中で、そのうなじはいつ見ても床屋に行きたてみたいに整えられている。
勘違いさせたまま放置しておくのは危険だ、と思い至った。
チャンミンのキャラ的に、頭の中でのイメージトレーニングを開始しているかもしれない。
ボタンを外し終えるとチャンミンは、シャツを脱ぎ予想通りインナーTシャツ姿になった。
(インナーTシャツを脱げば、例のものがあるかもしれない...!)
「チャンミン...こんな時になんだが、ひとつ確認させてくれ」
「なんですか?」
チャンミンはボトムスのボタンを外しながら、こちらを振り向いた。
「...ウメコに何を仕込まれた?」
明らかに肩をビクッとさせた。
(ビクつく動きのお手本中のお手本)
「な、なんのことでしょう...?」
チャンミンの目が泳いでいる。
分かりやすい。
(チャンミンは嘘をつくのが下手だ、と心のチャンミン録にメモを追加した)
「ウメコから受け取ったものがあるだろ?」
「はて...何のことでしょう」
くるりと背を向けてしまうチャンミンに、
「ウメコから聞いたんだ。
でさ、俺もどんなものか見たいなぁ、って興味があるんだ」と食い下がる俺。
「......」
チャンミンは俺を無視して、てきぱきと着替えていく。
俺の『例のモノ』探索レーダーはチャンミンの背中、腰、太ももへと舐めていく。
後ろ姿を見る限り、細い身体付きだなぁと思った。
「チャンミン、聞こえてる?」
「......」
恋の媚薬事件の時、至近距離で見たチャンミンの半身が蘇ってきた。
あの時は今のようにインナーTシャツ越しだったけれど、大量にかいた汗のせいで布地が裸に張り付き、身体のラインがまるわかりだった。
いい具合に筋肉をつけていて(インナーTシャツを着ているダサさと生真面目さはともかく)、チャンミンのキャラクターとのギャップに胸をときめかしたのだ。
ボトムスを脱いだチャンミンはパンツ一丁になり、畳に畳まれた浴衣に手を伸ばした。
小さい尻だなぁ、と思った。
「お~っと!
そろそろ宴会のお時間です。
さささ、ユンホさん急ぎましょう」
わざとらしく腕時計を見て、目を丸くして言う。
俺はそんなチャンミンを無視して、答えを聞くまでは譲らないぞと彼を見据えたままだ。
「そんなに見たくて仕方がないのでしたら...」
チャンミンは引き返してくると、両手で俺の頬を包みこんだ。
慌てて周囲を見回したのは俺だけで、チャンミンは余裕の表情だ。
ヲタク部屋のここには俺とチャンミンしかいない。
「目で確かめてみてはいかがでしょう?」
「!」
大胆発言で俺を動揺させようたって...そうは問屋がおろさない...。
(はっ!
俺にもチャンミン語が伝染ってしまった!)
「認めたな」と、俺は内心でニヤリとした。
チャンミンはそのことに気付いた風はなく、頬を挟んだまま親指で俺の唇をなぞった。
「押し倒すなり、裸に剥くなりして...。
その目で確かめてみてはい、か、が?」
肩に羽織っただけの浴衣の片方を広げ、パンツ一丁の裸を見せた。
俺はチャンミンから身を引き、両腕をクロスさせパーカーを脱いだ。
その下のTシャツも脱いだ。
チャンミンの目はまん丸で、「ほぉ...」といった表情で固まっている。
「チャンミンの期待に応えてあげないとなぁ」
次いで、靴下とボトムスを脱いだ。
チャンミンの視線はねっとりと舐めるように、俺の首から足先までの間を一往復した。
「ユン...ホさん...」
ぽかんと口は開きっぱなしで、そのうちよだれでも垂らすんじゃないかな。
「え..えろい...です」
見開いたままの眼はらんらんと光っているし、頬も紅潮している。
「押し倒して欲しいんだ?」
チャンミンの喉仏がごくり、と動いた。
チャンミンはきっと、「その気」になったとき、『例のもの』を発動させるつもりだ。
俺はチャンミンの顎をつまみ、唇が触れるすれすれまで顔を寄せ、セクシーに囁いた。
「俺に押し倒されて、裸に剥かれたい?」
チャンミンはこくん、と頷いた。
(やべぇぇぇ...可愛い)
「はっ。
とっくに裸みたいなものだね。
浴衣を脱げよ」
俺の方は敢えて浴衣を羽織った。
チャンミンの眉が、さも残念そうに下がる。
「それとも、俺を押し倒したいのかな?」
チャンミンはこくこく、と頷いた。
「どっちがお好みだ?」
「ユン...ホさん」
チャンミンの声は掠れている。
「...好きです」
「!!!」
出たよ...チャンミンの不意打ち愛の告白(俺はこれにめっぽう弱いのだ)
廊下の向こうが騒がしい。
チャンミンはぶるぶる首を振った。
「ユンホさん、お胸を隠しましょう」
チャンミンは開きっぱなしだった口を引き締め、俺の浴衣に手を伸ばした。
「?」
そして、俺の首を締めんばかりに浴衣の両襟を合わせたのだった。
あと少しだったのに...!
(つづく)
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