~チャンミン~
「...っつ」
こめかみが疼く。
「はあ...」
ユノに何度、真っ裸を見られたことか...。
見せるものは全部見られてしまった、ってことか。
キッチンカウンターに常備している、頭痛薬を水なしで飲み込んだ。
ユノのために追加の毛布を用意しようと、寝室へと移動した時...。
ベッドが目に入った。
今朝ベッドメイクしたそこは、真っ白なシーツと布団カバーでしわひとつなく整えられている。
ベッドは2人分、ゆうに横たわれるダブルサイズだった。
「......」
それから、入浴中のユノを意識した。
ちょっと待て...ぼんやりしていたけど、つまり、その...。
僕が置かれている状況とは、その、つまり、えっと...。
つまり、そういうことだ。
困ったな。
僕が覚えていないだけで多分、最低2人の女性と恋人関係にあったらしい。
つまり僕は...全くの未経験ではないらしい。
ところが、そういう行為の手順というか、どういう流れですすむのかとか、さらには「そういうこと」をした時の感覚が、僕の頭には残っていないのだ。
さらに問題なのは、ユノが男だということ。
僕が調べた限りだと、同性同士の恋愛は少数派だそうだ。
かつての時代よりずっとスムーズに、結婚やお互いが望めば妊娠出産も叶うのだとか。
男性の肉体構造では不可能なことを、どうやって可能に変えてゆくのか、その技術に興味をそそられた。
でもその時は、妊娠出産云々以前の交際段階について調べ物をしていたため、後回しにした。
恋愛関係が深まっていくと、肉体的な接触を求め合うようになる。
...ユノにハグやキスを求める僕は、その通りだと頷いた。
より深まっていくと、肉体の内部で繋がりあい、共に快感を分かち合いたくなる。
...その通りだ。
僕が困ってしまうのはここからだ。
ユノが女性ならば、僕の経験の有無は問題にならない。
だって本能的に身体が動くものだろうからだ。
ユノも僕も男だ。
ひとつだけ確実に言い切れるのは、ユノの身体にもっと触れたいし、僕に触れて欲しい。
答えが知りたくて、手に入る限りの情報を求めてみたが、どこも似たり寄ったりな事ばかり。
僕のあそこが形とサイズを変えて疼くのは、身体が欲しているのだ。
ユノは男と恋愛するのは初めてなんだろうか...常に恋愛対象は同性なんだろうか。
ベッドに腰掛けて、僕は頭を抱えた。
僕はユノに触れたい欲に突き動かされて、これまでに何度かユノを押し倒してしまっていた。
自分があそこまで情熱的な男だとは、思いもよらなかった。
ユノが好きだという感情が、肉体にまで侵食してきたのだろう。
ユノに止められてからようやく、性急さにハッとなっていたのだ。
...そうか。
僕はよほどユノのことが、好きなんだなぁ。
でも、男女と同様の行為をしたければ、ひと手間が必要になる。
(...今から間に合うかな...)
タブレットに手を伸ばした時...。
「チャンミン...?」
寝室の戸口に、僕が貸したパジャマを着たユノが立っていた。
(よかった、サイズはぴったりだ)
僕が悶々と頭を悩ませているうちに、入浴を終えていたんだ。
右ひざを曲げているのは、義足を外しているからだ。
立ちあがった僕はユノに近づくと、彼を肩の上に担ぎ上げた。
「こら!
一人で歩ける!
俺は荷物じゃないんだぞ!」
胸の位置で抱きかかえるのは、なんだか気恥ずかしかった。
「わっ!」
ユノったら半身を起こすものだから、バランスを崩してしまう。
そして、ユノをベッドの上に、投げ出すように落としてしまった。
僕に背負い投げされたユノは、ごろんと一回転して着地した。
「あのなー!
荷物じゃないって言ってるだろうが!?」
「ユノが暴れるからだよ」
「......」
立ったままなのは変だよな、とユノの正面に胡坐をかいて座った。
「......」
「なあ。
チャンミン、もしかしてめちゃめちゃ緊張してたりする?」
覗き込むユノの目が三日月型になってるから、明らかに僕をからかってる。
「うるさいなぁ。
そう言うユノこそ、どうなんだよ?」
薔薇色の頬と濡れた髪のせいか、幼く優しい面立ちになっていた。
純粋に可愛い、と思った。
「明るいのは恥ずかしいな。
電気を消してくれない?」
寝室の中をキョロキョロ見回すユノの声も、上ずっているからきっと、彼も緊張しているんだ。
「う、うん」
ベッドサイドのパネルを操作して、互いの輪郭と表情がぎりぎり分かる程度まで照明をしぼった。
参ったなぁ...ドキドキする。
僕とユノが急接近してから一か月ほど。
ユノとこんな風になるなんて、思いもよらなかった。
僕の太ももに、ユノの手が乗せられた。
ユノの顔がすっと、近づいた。
僕と同じ香りがする。
(つづく)
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