ー15年前の4月某日ー
腹筋:50回
腕立て伏せ:50回
スクワット:30回
(※ユノに裸を見せたことで途端に、自分のたるんだ身体が気になったのだろう)
コインランドリーに行く。
冬物の毛布を洗う。
大学生協へ、教科書の注文。
・
今日はユノが恋人と会う日だ。
その結果をわざわざ僕に報告はしないだろう。
ユノは多分、そういう奴だ。
僕から電話をかける。
「どうだった?」と訊いたら、「終わったよ」と返答。
電話を切ろうとするユノに、「これから会えないか?」と尋ねた。
「今日はそんな気分じゃないや。
ありがとう、ごめんな」
そりゃそうだよなぁと思ったけれど、少しだけ傷ついていた。
ユノに断られ、ユノの失恋モードに僕は参加させてもらえないのかと、残念に思った。
傷ついているのはユノなのに、そう思う自分が嫌になった。
ユノの様子を見に、出かけることに決めた。
地元で買った手土産(名物の漬物)を持っていく。
玄関ドアを閉めかけた時、電話が鳴る。
予感がした通り、ユノからだった。
「やっぱり、会いたい」だって。
「独りでいると、いらないことばかり考えてしまうから」、だって。
先日のファミレスで待ち合わせ。
・
僕がCCの結婚を知って、特にどん底に落ちていた10日間を思い出してみた。
その頃のページを繰ってみたけれど、大した記述はなかった。
話しかけられても反応のない僕に構わず、毎日僕の部屋に顔を出してくれた。
チャイムを鳴らしても応答しない日は、玄関ドアのノブに食べ物の入った買い物袋がひっかけていった。
見苦しい身なりを見かねて、床屋へ連れて行かれた時もあったなぁ。
苦しい感情の扱いに困っていて、ユノの親切に気を配る余裕はなかったようだ。
ちゃんとお礼は言ったんだっけ?
今度は僕がお返しする番だ。
・
ユノ、ぎこちない笑顔。
泣いていなかった。
(もし僕だったら、恋人と別れた直後は泣いているだろう。
僕は誰かと付き合ったことがないから、そう想像してみただけ)
「話の前に、まずは腹ごしらえだ」
ユノはメニュー表を広げて、「何にしようかなぁ?」とつぶやきながら、注文するものを選んでいた。
僕「僕がおごるから何でも選んで」
ユノ「なんで?」
僕「え~っと、ユノは傷心中だから。
陣中見舞いだよ」
ユノ「お見舞いだろ?」
僕「そうそう。
美味しいもの食べて、身体だけは健康でいようよ」
ユノ「チャンミンはぼろっぼろだったからなぁ。
あの時は酷かった」
僕「ユノに助けてもらったね。
今さらで遅いんだけど、今までありがとう。
ユノのおかげでここまで来られた」
どさくさに紛れて、話の流れを利用して、ユノにお礼を言った。
ユノ「そうだそうだ。
俺のおかげだ。
俺はチャンミンの命の恩人だ。
今日からはチャンミンが俺の面倒をみるんだぞ」
と、いばった風に言ったかと思うと、テーブルに顔を伏せてしまった。
僕は手を伸ばして、ユノの頭を撫ぜた。
ウエイトレスさんが料理を運んでくるまで、ユノは大人しくじっとしていた。
・
【注文したもの】
・僕
煮込みハンバーグセット
ビール
・ユノ
エビのトマトクリームパスタ
レモンサワー
・シェア
ベーコンとほうれん草
フライドポテト
ツナとコーンピザMサイズ
キャラメルハニーホットケーキ
時間をかけて、お腹いっぱいになるまで食べた。
・
食事の後、その場で解散するのも寂しくて、ユノの部屋まで彼を送っていった。
ここで数秒、僕らの間で迷いの空気が漂った。
僕はこのまま帰るべきか。
・
結局、ユノの部屋に寄った。
僕もユノも、何やってんだろう?
だって、やらずにはいられないんだ。
・
帰宅してからこれを書いている。
ユノの部屋に泊まるのは遠慮した。
気持を整理したかった。
会話の内容を忘れないように、真っ先にノートを開いた。
PCは購入した日に、セットアップで電源を入れたっきりだ。
小説家になろうと意気込んでいたくせに、肝心なストーリーが下りてこない。
僕はユノのことをどう思っているんだろう。
いい加減、真正面から考えてみないと。
ユノの気持ちを探る前に、僕がはっきりしないと。
そうしないことには、他所様の恋愛ストーリーなんて思いつきっこない。
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