(10)僕の失恋日記

 

15年前も今も、僕はユノとの会話がとても好きだ。

 

疲れている時や苛ついている時、興味がない時は、適当に聞き流したり、話を遮ってしまうけどね。

 

ユノが言いそうなことは大体予想がつくくらい、彼の隣で日々を送ってきた。

 

どんな返答がくるのかわかっているけれど、僕はユノの言葉が好きなのだ。

 

たまに突拍子もないことを言いだすから、そこも面白い。

 

小説家を目指すと宣言して以来、日記帳に綴られた文章に変化があらわれてきた。

 

ボイスレコーダーを仕込んでいたのでは?と疑ってしまうほど、詳細が記録されている。

 

脚色はしているだろうけど、話題の本質的なものの再現率は高いと思う。

 

だって、今の僕もそうやって日記を書いているのだから。

 

 

「好きが先か、寝たのが先か、どちらだったっけ?」と、あいまいだった記憶がよみがえってきた。

 

僕という人間は、堅物で真面目で、手順にこだわるタイプだと思っていた。

 

アレするのならその前に、気持を確かめ合いたい、って。

 

その順序が逆になってしまったけれど、あの場の雰囲気と湧いてきた欲求に逆らわずにいただけのこと。

 

僕とユノ、同時に同じことを望んでいたこと...これが重要ポイントなんだ。

 

若者らしいなぁと、15年前を振り返っている。

 


 

 

ー15年前の3月某日ー

 

【ユノの部屋に泊まった翌朝】

午前10時まで布団の中で過ごす。

お尻が痛い。

裸でいることが恥ずかしくなって、ユノと顔を見合わせて照れ笑いした。

「君には彼氏がいるだろう?

それなのに、どうして僕と?」

とは、絶対に訊かない。

ユノも昨夜のことに触れない。

代わりばんこに入浴する。

 

 

どうしてユノとしたかったのか、その理由を考えるのは今じゃないと思う。

深く追求したところで、ネガティブな理由しか思いつかないからだ。

 

(※失恋心を引きずる僕を励ますために?

恋人とうまくいっていないユノを慰めるために?

20歳そこそこの青年が、成り行き上で寝てしまったことに、意味深がる必要はない。

『やりたかったから』

それで十分じゃないか?

...そう言えるのも、過去のことだからだろうね)

 

 

ユノとバイトに行く途中、ファストフード店で昼食を摂る。

 

【ユノの話】

前夜の電話の相手は恋人だった。

ユノからかけた電話だった。

週末に恋人と会う約束をした。

関係を終わらせると、心に決めた。

「よかったね」と言うのは無神経だから、「そうなんだ」としか言えない。

好きな奴との別れは辛いけれど、怯える関係をおしまいにできるんだから、ユノの為になる。

前に進まないと。

 

 

20:00

バイト終了

ユノと同じ部屋に帰る、変な感じだ。

僕らは前夜のことにはお互い一切触れておらず、何事もなかった顔をしている。

僕もユノも困っている。

 

 

ファミレスで夕飯。

 

 

ユノと2回した。

火がついてしまって止められなかった。

とても気持ちがよかった。

ユノも満足そうだった。

終ったあと、顔を見合せて大笑いした。

ユノは僕に「ありがとう」と言った。

僕も「ありがとう」と言った。

何に対しての「ありがとう」なのか分からなかったけど、ユノにお礼が言いたくて、次いで出てしまった「ありがとう」なのだ。

 

 

【今朝のこと】

目覚めたら、隣にユノがいた。

ユノはまだ眠っている。

いつもなら目を覚まして、頭がクリアになってゆくうちに、胸に靄がかかってくる。

心の中でつぶやく。

「そっかぁ、CCは結婚したんだった」

ふと手を休めた時も、同じ台詞をつぶやいている。

僕の日常に、CCへの嘆き心が組み込まれている。

オートマティックに頭にCCが浮かんでくる。

悲しい辛い感情も、オートマティックだ。

癖になっているんだ。

 

 

今朝は違っていた。

ユノの寝顔を見ていた時に、「あれ?」と思った。

「CCが結婚してしまった、悲しいよ」の感情が湧いてこなかった。

よかった、やっとでCCを忘れられたと喜ぶのはまだ早い。

ユノと肌と肌とをくっつけあっているからだ。

生身の人間ほど凄いものはない。

ユノって...生きているんだなぁ、と当たり前なことに感動していた。

リアルって凄い、って。

CCとは、霞(かすみ)なのだ。

 

 

眠っているのをいいことに、ユノの顔をじっくり観察した。

眉毛・・・弓型のきれいな形。

眼・・・濃いまつ毛

(ユノは一重まぶた?奥二重?)

鼻・・・鼻筋がすっと通っている。

唇・・・小さい。ふっくらとしている。

ユノはとても綺麗な寝顔をしている。

すぐ側にいる者に勝るものはない。

近づけば、見たくないものまで見えてしまうとユノは言っていたけれど、今のところ、ユノからはそういったものは見当たらない。

もっと長い間、一緒にいれば、見えてくるのだろうか。

もしかしたら、誰かと深いかかわり合いを持ったのは、ユノが初めてかもしれない。

(※僕はユノ以外の男と、付き合った経験がない)

初めて関係を持った先輩の顔が思い出せない。

 

駅でユノと別れる。

 

以上が、ユノと過ごした2日間だ。

最後まで書くことができて、ほっとしている。

 

 

明日から3日間、帰省する。

 

 

BL小説TOP「僕らのHeaven's Day」