(9)僕の失恋日記

 

リアルの世界とは、当然だけど生々しい。

 

温かみや湿り気、弾力。

 

それを素肌で感じて、密着できる間柄に悦びを覚える。

 

 

CCを見つめ続けていられたのは、彼から生々しさが感じられなかったからだ。

 

だから、CCとの思い出には生々しさがない。

 

CCと築いた思い出に浸るものというより、CCを見上げ、追い求め続けた僕自身の感情の記憶に浸っている。

 

最初、あのニュースを知った時、CCと結婚が結びつかなくて混乱した。

 

結びつけるには、ひどい苦痛を伴った。

 

僕を襲った悲しい気持ちを、丁寧に解きほぐしていくと、沢山の種類の悲しいが詰まっていた。

 

その中のひとつに、失望感があった。

 

結婚したいと望むなんて...CCもただの人間だったか。

 

人間臭さは欲しくなかった。

 

ここでもやはり、ユノの言葉が僕の頭にリフレインする。

 

「ウンコしてるCCを見たいのか?」

 

ユノのたとえ話はいつも的を得ているけど、色気がない。

 


 

ー15年前の3月某日ー

 

僕はユノと寝た。

どうしてこうなってしまったのか、うまく説明ができない。

とても自然な行為だった。

 

 

僕らのキスはすぐに熱を帯び、とても自然な流れでベッドに横たわった。

身体のあちこちを触る前に、ズボンを脱いでいた。

「ちょっと待って」と言って、僕から離れると、必要なものを持って戻ってきた。

「ああ、そっか、そうだよね。

ユノには恋人がいるんだもの、持ってて当然だよね」と、納得していた。

 

「チャンミンは?

...あるのか?」

 

ユノは僕に、『経験はあるのか?』と尋ねているのだ。

 

「ある」と答えると、ユノは「それなら、よかった」と言った。

(※相手はバイト先の3歳年上の人だった。

なんとなく好意が持てた人で、男同士の行為を経験してみたかった好奇心が大きかった。ユノと出逢う以前の話だ)

 

片方は未経験で、アレするのに挿れられなかったり、手間取ったり、加減したり...が邪魔だったんだ。

僕らは、思いっきりヤリたかったんだ。

とても自然な流れで、僕は受け入れる側となった。

経験があると言っても、慣れた身体じゃなかったし、久しぶりのことで手こずるかな、と心配は不要だった。

ユノがうまかったこともある。

ひとりでする時に、前よりも後ろを使っていたおかげもある。

一度目は下を出しただけの、服を着たままだった。

こんな風にユノは、恋人とヤッてるんだろうなぁ、と寂しい気持ちになったのは確かだ。

不思議なことに、恋人を思って僕とヤっているんだ、と卑屈な気持ちには一切ならなかった。

ユノは、相手が僕だったからヤッてるんだ。

僕もユノと今すぐ、ヤリたかった。

どちらの唾液か分からなくなり、つかまれた腰にユノの爪が食い込んでいた。

リアルな肉体を持ってぶつかってくる感触に、僕は溺れそうになった。

「なんだこれは?」と思った。

 

 

手の届かない世界にいる人物に...果たして、リアルに存在するのか?...恋をし、失恋した。

僕が恋をし、追っていたのは、あくまでもイメージだったんだと、実感した。

責任を持たなくて済む恋だ。

僕が好きになろうと嫌いになろうと、CCには一向に影響はない。

とても自由で、気楽な恋だったんだ、実のところ。

 

 

30分程の休憩ののち、僕らは再び抱き合った。

2度目は服を脱いでヤッた。

3度目は2度目より、時間をかけてヤッた。

イク瞬間、ユノは「チャンミン」と僕の名前を呼んだ。

 

 

夜明けの時間で、白く曇った窓ガラスの外が明るくなりかけていた。

部屋の中なのに、息が白かった。

僕らはユノの小さなベッドで、身体をくっつけあっていた。

ユノの手は僕の背中やお尻をくすぐっていた。

部屋の隅にある、ファンヒーターのスイッチをどちらが入れにいくか、布団の中でじゃれていた。

床には二人分の洋服と、ゴムの空き袋が散らかっていた。

ユノには恋人がいるんだよなぁと、ユノと寝たことでややこしいことになってしまったなぁと思った。

ユノの存在が五感をともなって、グッと接近してきたことで、CCへの失恋どころじゃなくなった。

甘っちょろいこと言っていられるか、って。

以上が、1泊目の話だ。

 

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