~潤いの大洪水の巻~
次の休日、引っ越し作業の助っ人に呼ばれたユノ。
実家に帰ることに気が進まない理由は、手伝いが面倒なわけでも、家族と不仲なわけでもない。
理由は2つあった。
1つ目は、アルファの能力を隠すために神経をすり減らさないといけないことだ。
オメガ属に仲間入りして2度目の生理が終わった頃、チャンミンの身体にさらなる変化が起きた頃を振り返ってみる。
ベータ時代、学力はチャンミンの方がやや上だったが、転性した以降の初めての中間試験で、ユノの学力がとんでもなく急上昇していたことが判明した。
そのことを知らなかったユノは、うっかり満点をとってしまったのだ。
職員室前に貼り出された成績一覧表に、ユノとチャンミンは喜ぶどころか内心で大汗をかいていた。
一番端に、ユノの名前があったのだ。
学年成績の中間あたりをウロウロしていたユノが、いきなりの学年トップ。
生徒たちはザワザワ。
(...マズい)
ユノはカンニングを疑われ、職員室に呼び出されたほどだった。
その日の放課後、チャンミンはユノを緊急ミーティングに呼び出した。
「手を抜かないとアルファだってバレるよ」
「気を付ける」
「普通でいるんだよ。
分かった?
目立ったら駄目だよ。
お馬鹿なフリをするんだよ」
「お馬鹿ぁ?
ベータだった時の俺は、馬鹿だったってことか?」
チャンミンは抑制剤をピルケースに移す作業の手を止め、拗ねたユノをなだめた。
「違うよ。
アルファ目線のお馬鹿は、ベータで言う“中の中”レベルってこと。
意識して手を抜きなよ、ってことだ」
(お兄さんぶるチャンミン...かわゆす)
「分かった」
以降、宿題は2回に1回は忘れる、教諭に指されたら「分かりません」、試験では3問に1問は敢えて間違える...。
学問については注意深く中の中の維持を心がけていたが、それ以外の能力UPに関して油断していた。
部員不足の陸上部の助っ人に、無理やり出場させられた陸上大会の800m走。
大会出場選手の多くはベータ属で、公平を期する為アルファ属は事前申告が義務付けられている。
ユノはベータとして出場。
そして、ぶっちぎりの1位。
大会新記録、地区新記録を叩き出してしまったのだ。
(アルファ...すげぇ)
結果、ニュース記者や大学のスカウトマン、大会関係者の注目を浴びてしまった。
その夜、ユノはチャンミンにこってり絞られた。
2人は向かい合わせに正座し、ユノはしょぼんと背を丸めている。
「だ~か~ら!
本気を出したら駄目だって」
「ごめん...」
「ユノがアルファだってことは、秘密なんだからね」
「分かってるって」
「ホントに気を付けてね!
分かった?」
「分かったよ」
「僕はいつも心配してるんだからね」
(お兄さんぶってるチャンミン...すげぇカワユス)
「じゃあ、チャンミンのいう事聞くから、キスしていい?」
チャンミンは、にじり寄ってきたユノを一旦押しとどめると、ユノの唇に人差し指をあてた。
「いいけど...。
ディープはダメ」
「なんで?」
「えっろいキスすると、お尻が変になるんだ」
「どんな風に?」
「キスしながら、お尻に触ってみてよ。
どこが変なのか、よく分かるから」
「触っていいの?」
オメガになってから、チャンミンの尻の触り心地が変わってきた。
ユノはその触り心地が好きで、隙あればさわさわもみもみしていた。
「うん...いいよ。
触って...」
チャンミンはもじもじと、頬を赤らめ俯いた。
「よしよし。
抱っこしてやるから、ちこう寄れ」
手招きするユノの傍へ、チャンミンは四つん這いになって近づいた。
そして、ユノの広げた両脚の間にすっぽりとおさまった。
ユノはチャンミンの顎に手を添え、自身の方へ振り向かせて口づけた。
唇を重ねなおすたび、チャンミンの甘い吐息が漏れる。
(甘たれ坊やなのに、こういう時は色っぽいんだよなぁ。
なんなの、このギャップ)
ねっとりと粘着質なキスを交わしながら、ユノの片手はチャンミンの後ろに落とされた。
ユノの指と手の平は、制服のスラックスの上からチャンミンの感触を楽しんだ。
(やわっこ~い。
小さなお尻は変わらないのに、触り心地は最高だ)
オメガになってから、チャンミンの尻は明らかに変化した。
丸みを帯び、柔らかな揉み心地となった。
(ほっぺを楽しんだ次は、谷間を...。
パンツに手を入れるのはまだだ)
ベータの頃からもそうだったが、アルファになってからのユノは、よりチャンミンの身体に夢中になっていた。
人目がある所のユノは、チャンミンに危険が及ばないよう常に周囲に目を光らせ、まるで過保護な兄然としている。
ユノの苦労を知らず、呑気で無邪気なチャンミンの突飛な言動に、ユノは毎度肝を冷やしている。
神経を擦り減らした結果、ユノは恋人気分を味わうどころではない。
だからこそ、2人きりになった時は、ここぞとばかりチャンミンの身体を堪能してしまうのだ(まるで、エロ親父のような表現をしてしまった)
ユノの指は、チャンミンの谷間をそろりとなぞった。
「はあぁ...ん」
「!!!」
初めて聞くチャンミンの声に、興奮するどころか正気に戻ってしまったユノ。
「はあはあはあ...」
ユノの首筋に吹きかかるチャンミンの吐息が熱い。
「はあはあはあ...」
先ほどより深く、谷間を探ってみた。
「あっ、はぁぁぁん!」
「!!!!」
チャンミンはユノの肩に頭をもたせかけ、呼吸を乱していた。
まぶたは半分落とされ、潤んだ目はうつろ。
(うつろどころか...白目になってる...!)
伏せた長いまつ毛の先が震えていた。
(チャンミン!
目がいっちゃってるぞ!)
唇を離すと、きつく吸った覚えがないのに鬱血し赤くなっている。
半開きの口の端から、唾液がだらだら垂れている。
チャンミンのこれほどエロい顔は、初めて目にしたユノだった。
「チャンミン...大丈夫か?」
「はあはあはあ...ゆのぉ。
...変、変なのぉ。
僕の後ろがぁ...」
チャンミンの腰がガクガクと震えている。
「ほら!」
チャンミンに手首を掴まれ、谷間の奥へと誘導された。
「お漏らし!?」
「馬鹿ぁ!
違うよ!」
ユノは濡れた指先...人差し指と親指...をすり合わせた。
「びっしょびしょじゃん」
「そうなんだよ。
お漏らしはお漏らしなんだけど、前じゃなくて後ろなんだよ」
「見せてみろ」
ユノは後ろ抱きしていたチャンミンの背を押し、四つん這いにさせると例の箇所に顔を近づけた。
スラックスの後ろが、濡れてグレーから黒に変わっていた。
「うむ...」
ユノは腕を組むと、「う~ん」と唸った。
「濡れてる。
チャンミンのソコから出てる」
チャンミンのスラックスは、じわりじわりと内側から湧き出るもので、滴りそうに濡れている。
「...これって...!?」
チャンミンは、オメガに転性した際に配布された資料を思い出した。
通常、男性のそこは分泌液で濡れることはないため、関係を持つ際は潤滑ローションが必須だ。
ところが、オメガの男性は違うのだ。
性的に興奮した時やヒート期になると、スムーズな挿入のために大量の粘液が分泌される。
当てた指を離すと、つーっと糸がひいた。
「これがいわゆる『オメガの洪水』だ」
「うそだぁ...。
僕...女の子になっちゃったの?」
「そんなんじゃない!」
「チャンミンは絶対泣く」とユノは予想して、きっぱりと否定した。
「チャンミンはオメガになっただけだ。
女の子になったんじゃない。
オメガになるとは、こういうことなんだよ。
受け入れるしかないんだよ」
「......」
チャンミンは顎をしわくちゃにさせ、唇をへの字にひきむすんでいる。
ユノはぼりぼりと頭や首筋を掻き、言葉を探した。
「チャンミンのソコがぬるぬるになったってことは、魅力的になったってことさ。
ぬるぬるって、最高じゃないか。
俺もチャンミンも両方、気持ちいいぞ~、きっと」
「う~~」
「直接触ってもいい?」
「だ~め」
伸ばしたユノの手は、ぱちんとはじかれた。
「お風呂に入ってくる。
べちょべちょで気持ち悪いから」
チャンミンはユノを自室に残したまま、シャワーを浴びにいってしまった。
(気難しいなぁ...。
でも、気難しくなって当然か。
身体の変化に心がついてゆけなくて辛いんだ。
俺が支えてやらないと)
はじかれた手の平がじんじんした。
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