(4)俺の彼氏はオメガ君

 

 

<俺を煽らないでくれの巻>

 

 

ポジティブな要素しかないアルファに生まれたことを嘆く者は、ほとんどいない。

 

アルファとは力の象徴だ。

 

一方、オメガとは妊娠し子を産むための存在。

 

アルファ(時にはベータ)の力にねじ伏せられ、獣じみた性欲に流され、望まない妊娠を強いられることもある。

 

多くのオメガたちは、オメガ属としてこの世に生まれ落ちたことを嘆いた。

 

特にオメガの男性は、外見が男性であっても、女性を妊娠させることはできない。

 

アルファ又はベータの男性、又はアルファの女性に...言葉は悪いが『種付け』される役目なのだ。

 

ベータだった過去があるが故、チャンミンのショックは大きかった。

 

チャンミンは初潮を迎えた日、夕食も食べずに布団にもぐり込み、さめざめと泣いた。

 

ユノはチャンミンの背中を叩いてあやした。

 

(チャンミンは泣き始めて30分後には寝入ってしまった。

ユノは、チャンミンがいつ目を覚ましてもいいように、一晩中目を覚ましていた。

チャンミンは朝までぐっすり眠っていた)

 

長い期間、オメガ属は他属からの冷遇に耐え忍んできた。

ところがここ数年前ほどから、その状況が変化してきた...。

長くなるのでその解説は後述する。

 

 

(僕はこんな目にあっているのに、ユノは何の変わりがないなんて!

それどころか、前より逞しくなったし、イケメン度が増した。

ユノばっかりズルい...!

 

僕なんて、身体の線が丸くなったような、アレが小さくなってきたような。

ユノのモノなんて、絶対に前よりサイズアップしてる!

ユノばっかりズルい!

ズルいよ!)

 

チャンミンは17歳でオメガに転性して以来、ユノへの妬みがどうしても消えてくれなかった。

 

ユノが全身全霊、チャンミンに尽くしてくれたとしても、オメガであるが故の哀しみを消すことはできないのだ。

 

チャンミンはユノに当たり散らしてしまうのを止められず、ユノはこれまでずっと、チャンミンの嘆きを受け止めてきた。

 

オメガになりたての頃は、怒りの沸点が低くて常にカリカリしていたのが、1年もすれば落ち着いてきた。

 

生理の手当てにも慣れてきた。

 

ユノを伴って、オメガ専門店へ買い物に出かけることもある。

 

ユノは抑制剤を入れるピルケースをワクワクと選ぶチャンミンを、温かい目で見守っているが、内心でため息をつくこともあった。

 

チャンミンを守りきれるか、自信を失いそうになる時がある。

 

アルファは万能な存在ではない。

 

知力や体力、そして精力が優れているだけで、ベータ以上の精神力や愛情を持ち得ているとは限らない。

 

優しさに欠けている者が多い、ということだ。

 

エリート意識が高く、オメガと見ればねじ伏せようとするアルファが多い中、ユノは心優しきアルファだった。

 

(...その優しさはほぼ、チャンミンに注がれている)

 

アルファとオメガの結びつきは、愛情よりも生殖本能...孕ます者と孕まされる者...によるところが大きい。

 

ところがユノとチャンミンは、アルファとオメガになってしまった以降も、愛情で結びついており、立場も対等なままだった。

(ユノのチャンミンへの溺愛度と、チャンミンの姫度がUPした)

 

ベータとして生きてきた過去が、世のアルファとオメガカップルと比較して、精神的な繋がりを強くしているのだろう。

 

 

時は変わって、現在。

 

ここは社員寮のユノの個室。

 

ふたりはベッドに並んで腰をかけていた。

 

ユノは電話中だった。

 

ユノの実家から、次の3連休に、引っ越し作業の手伝いに来るようにと、連絡があったのだ。

 

高齢のひとり暮らしは心配だからと、父方の祖母がユノの実家に身を寄せることになったという。

 

「う~ん、分かった、うん、うん。

じゃあな」

 

電話を切ったユノは浮かない表情だった。

 

「どしたの?」

 

チャンミンは大盛り牛丼をかき込んでいた箸を止めた。

 

早くて明日、明後日にヒート(発情期)を迎えるチャンミンは、食欲を抑えられずにいたのだ。

 

ヒート前のオメガの身体は、妊娠に備えて栄養を欲する。

 

食欲が増したチャンミンは、社員寮の大盛りセットだけでは足りず、テイクアウトをしてきたもので腹を満たしていた。

 

「ユノ...顔が怖い」

 

「あ~、うん。

ちょっとね」

 

「怖い顔をしていても、ユノはカッコいいけどね」

 

小首を傾げて、赤い舌をぺろ。

 

(可愛いんだよ、こんちくしょー)

 

ユノは内心で悶絶する。

 

「チャンミンもカッコいいよ」

(「可愛いよ」と言いたいところを我慢した)

 

「メシ、足りるか?」

 

「食べても食べても、お腹が減るんだよね~。

嫌になっちゃう」

 

「好きなだけ食え」

 

チャンミンは一粒も残さず綺麗に平らげ、「あ~、美味かった」と、膨れた腹を撫でた。

 

食欲が満たされた次は、性欲だ。

 

(ご飯は美味しいし、ユノも美味しそう。

ムラムラする!)

 

「ゆのぉ!!」

 

チャンミンは勢いよく、ユノの首にかじりついた。

 

チャンミンは発情抑制剤を服用してはいるが、完全には性欲とヒート臭を抑えることはできないのだ。

 

特に性欲が高まると、ヒート臭は強くなる。

 

「おっ!」

 

ユノは、不意打ちのチャンミンの動作に、ぶわりと広がったヒート臭をまともに嗅いでしまった。

 

「うっぷ...」

 

とっさに鼻を覆ったが時すでに遅し。

 

胸がムカムカしてきた。

 

ユノは常用している抑制剤の副作用により、ヒート臭過敏症になっていた。

 

胃の腑からこみ上げてくる吐き気で、ユノの顔色は真っ青になっている。

 

「ごめん!」

 

チャンミンは冷蔵庫から、イチゴを取り出してきた。

 

こんなこともあろうかと、牛丼ついでに購入してきたのだ。

 

(ユノの部屋には自前の冷蔵庫がある。この中に、抑制剤のアンプルが冷蔵保管されている)

 

「おえっ、おえっ」

 

「これ食べて」

 

気持ち悪いし、ムラムラするしで、ユノは背中を丸めてうずくまっている。

 

「いきなり抱きついてごめん」

 

チャンミンはユノを抱き起すと、よく冷えたイチゴをユノの口にねじ込んだ。

 

イチゴ果汁で赤く濡れたユノの唇に、チャンミンの後ろがキュンとした。

 

チャンミンはイチゴにかぶりつき、ユノに口づけた。

 

(イチゴの口移し(きゃっ))

 

「チャンミン!

駄目だ!

駄目!」

 

ユノの下半身は、瞬時に膨張率100%の臨戦態勢。

 

(やばいやばい!)

 

このままだと、欲に流されチャンミンを襲ってしまう。

 

「チャンミン!」

 

ユノはぐいぐい唇を押し付けてくるチャンミンを引きはがした。

 

「俺を煽るなよな~」

 

「ごめんごめん」と、チャンミンは両眉を下げて謝った。

 

(危なかった...チャンミンを襲うところだった)

 

ユノは額に浮いた冷や汗をぬぐった。

 

(いててて。

勃ちすぎて痛い...)

 

 

ヒート期中の性欲は、『人間、止めました』レベルの凄まじさだ。

 

(チャンミンは「濡れちゃって困るの」などと、ユノを煽る台詞を吐くから、困ったものだ)

 

オメガのヒート期は、アルファも正気を失う。

 

(チャンミンを襲うわけにはいかない)

 

ヒート期のオメガとの性交は、妊娠率100%。

 

(チャンミンとの将来が未確定な今は、チャンミンを孕ませるわけにはいかない!)

 

アルファとオメガの『番(つがい)』制度についても後述する。

 

(ヒート期のチャンミンを抱きたい!

抱きたい!

抱きてぇ~!)

 

これがユノの本音だ。

 

ユノはその衝動性を抑えるために、チャンミンのヒート期は普段の3倍もの抑制剤を服用しなくてはならなかった。

 

 

実家からの電話に、ユノが浮かない顔をしていた理由については、次回にまわす。

 

 

BL小説TOP「僕らのHeaven's Day」