(3)俺の彼氏はオメガ君

 

 

<ナプキン事件の巻>

 

 

チャンミンの両親も妹たちも祖父母も、現存している一族全員、ベータ属だ。

 

一般的で多数派の、珍しさの欠片もない、ごく普通のベータ一族にオメガが誕生した。

 

世の人間だれしも過去を辿れば、アルファやオメガのご先祖にいきつく可能性はあるため、ユノだったから、チャンミンだったから特別に、ファンタジーな現象が起こったのではない。

 

17歳にして突如、本来の属性が顔を出し、変異してしまう現象は、世界各地で報告されている。

 

ただし、それは非常に稀なケースだが。

 

 

 

 

オメガになって3か月目、チャンミンに初潮が訪れた。

 

タイミング悪く学校で“その時”が訪れた。

 

2人は男性であり、生理用品なんて当然持ち合わせていない為、その調達に学校を抜け出すしかなかった。

 

チャンミンをコンビニエンスストアの前に待たせて数分後、ユノは堂々と目当ての物を手に入れてきた。

 

茶色の紙袋を抱えている。

 

(ユノ...すごい勇気と度胸だ。

『姉に頼まれて』とか、言い訳しながら買ったのかな)

 

「公園のトイレに行こう」

 

2人揃って個室に籠る不自然さは、コンビニのトイレよりも公園のバリアフリートイレの方がまだマシだ。

 

ユノはもぞもぞ歩くチャンミンのペースに合わせ、ゆっくり歩いた。

 

公園には、遊具で遊ぶ子供たちとその親らしき男女、縄跳びをするご老人がいるだけだった。

 

チャンミンは彼らを遠目に、こう思った。

 

(あの男...オメガだったりして...。

あの女の人がアルファだったりして...)

 

現実には、そう簡単にオメガをお目にかかることはない。

 

(...まさかね)

 

「チャンミン、早くしろ!」

 

ユノはチャンミンの襟首をむんずとつかむと、個室へと引きずり込んだ。

 

「これはふつうの日用で、これが夜用。

へぇ、羽根つきってこういう感じなんだ」

 

ユノは紙袋から取り出したものを、洗面台の上に次々と並べていった。

 

パッケージ入りのボクサーパンツもある。

 

ファンシーな色と柄のオンパレードに、チャンミンはくらりと眩暈を覚えた。

 

「どれがいいか分からなくて...。

お店の女の子に訊いたんだ」

 

「ユノ!?

キミって人は!」

 

「店ん中でぐだぐだ迷って、ウロウロしてる方がハズイだろ。

こういう時は先輩に訊くのが、一番早い」

 

「う~、そうだけどさ...」

 

「オメガ用のナプキンは、さすがにコンビニに売っていなかった。

やっぱ専門店じゃないと駄目か...」

 

「そんなの、コンビニも...ドラッグストアだって同じだ。

そんなの並べたって、買う奴なんていないよ!

 

オメガなんてちょびっとしかいないんだ」

 

チャンミンの言う通りだった。

 

「後で買いに行こうか?

今んとこ、応急処置だ」

 

「う...ん」

 

大いに気が進まん、と言った風に渋々、チャンミンはレース模様のものを手に取った。

 

「タンポンも勧められたんだけど、それじゃあ...」

 

ユノは、チャンミンの尻をちらっと見ると、「塞いじまう」と言った。

 

「ユノ!!

なんて無神経な奴なんだよ!」

 

チャンミンは手にしたナプキンを、ユノに投げつけた。

 

「僕はこんなの...こんなのしたくない!

僕は男なのに。

男なのに...。

ユノは自分のことじゃないから、平気なんだよ。

僕がどれだけ落ち込んでいるか、分かんないんだよ!

ナプキンナプキンって!」

 

チャンミンはパッケージからナプキンを取り出すと、次々とユノに投げつけた。

 

「チャンミン!」

 

ユノは器用に、そのひとつひとつをキャッチした。

 

「ナプキンナプキンって!」

 

その光景は、まるで運動会の玉入れ競争のようだった。

 

「俺が悪かった!」

 

「ユノのバカバカ!」

 

濡れたお尻が気持ち悪かった。

 

チャンミンは情けなかった。

 

オメガになるとは...妊娠できる身体になるとは、こういうことか...。

 

投げつけるモノが無くなると、うな垂れて黙り込んでしまった。

 

ユノはかける言葉が見つからず、チャンミンを見守るだけだ。

 

チャンミンはひとつ深呼吸をつくと、ユノが腕に抱えたものからひとつを取った。

 

覚悟を決めたのだ。

 

「自分で出来るか?」

 

「出来る」

 

「外で待ってるよ」

 

チャンミンは、個室を出ようとするユノの襟首をひっつかんだ。

 

「ここに居て!

行かないで。

僕のそばにいて」

 

「ああ。

ここに居る」

 

チャンミンはベルトを手早く外し、すとんとスラックスを落とした。

 

「......」

 

下のものを全部脱いでしまうと、「新しいパンツ、取って」と手をひらひらさせた。

 

「おっ、おう」

 

ユノは慌ててパッケージを破ると、真新しいボクサーパンツを手渡した。

 

「......」

 

パンツに足を通し、「それ、取って」と再びユノへ手を伸ばした。

 

チャンミンの顔は怒っていた。

 

ぺりぺりと開封した中から現れたものを摘まみ上げ、無言でそれを眺めていた。

 

「......」

 

(ああ...ベータだった僕はとうとう、消えてしまった)

 

「チャンミン...できるか?」

 

勝手が分かっていない手つきは不器用そのもので、よれたり、折れ曲がったり、2個無駄にした。

 

「もう!!」

 

「チャンミン?

俺がやったろか?」

 

「やだ!」

 

チャンミンを手伝おうと伸ばしたユノの手は、払いのけられた。

 

「いくらユノだって、手伝ってもらうわけにはいかないよ」

 

「わかった...ごめんな」

 

「...ムカつく。

自分がムカつく。

ムカつくけど、僕はオメガだ。

とっても珍しい人種なんだ。

ぐすっ...負けないもん」

 

 

 

「帰ろうか」

 

ユノはチャンミンの肩を抱いた。

 

自分のことなど二の次で、チャンミンのことが心配でたまらなくても、ユノはチャンミンの哀しみを代わってあげることは出来ない。

 

「家に帰ろう」

 

「学校は?」

 

「サボる。

チャンミンにアレが来た日に、体育なんてできるかよ」

 

ユノの隣を歩くチャンミンは、笑顔になっていた。

 

「う~ん。

体育は辛いね」

 

(分かる...女子たちの気持ちが今の僕なら分かる)

 

チャンミンはそっと下腹を押さえた。

 

朝から悩まされているこの鈍痛は、自身の肉体の奥底で、想像がつかないことが起き始めている徴だ。

 

「1日目って辛いっていうじゃないか。

だるいとか、腹がいたいとか。

うちの妹も、毎月寝込んでるよ」

 

「うん...うちの妹も、月に一度、扱いにくい奴になってる」

 

「俺は、お前の心の痛みとか、身体の変化についてゆけなくてもがいたり...そういうのを真の意味で理解してやることはできない。

でも俺は、お前を全力で守るから。

アルファの名をかけて」

 

「うん。

僕を守ってね」

 

ユノはチャンミンの手を取り、指を絡めた。

 

「今から専用のやつを買いに行く?」

 

「ううん。

家帰って寝る。

だるいんだよね~。

だって1日目だからさ~」

 

「あったかいもの飲むか?

腹を温めるといいんだって」

 

「僕んちに来ても、生理中だからアレできないからね」

 

「ばっ!

何言ってるんだよ!」

 

「ふふふ。

冗談だよ~」

 

 

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