~1.5個目の穴の巻~
ベータのみで構成されていた世界に、アルファとオメガが誕生することになった原因の追究に、学者たちの研究は不要だった。
アルファとオメガは人為的に生み出された属性だったからだ。
人為的に誕生させられた、と言っても過言ではない。
なぜか?
恋だ。
恋が不足していた。
世の人間たちは恋を忘れつつあった。
誰しも手近に手軽に、エンターテインメントに触れることができるようになり、リアクションを予想しづらい生身の人間同士の付き合いよりも、都合よく物事が進むバーチャルの世界から抜け出せなくなり、自然と性欲も薄れ、子を成す行為も減り...。
(性欲を解消する手段はバーチャルで十分)
その結果、人口減少。
加えて、女性の比率が減ってきた。
このままでは、人類が滅びてしまう。
そこで、巨額の費用が投じられ、生殖に関する研究が加速したのである。
結果、生殖本能を著しく高めたアルファ属、オメガ属が誕生したのである。
アルファとオメガが性的に惹かれ合って当然なのだ。
じゃあ、恋はどこにある?
アルファとオメガに恋はないのか?
ある。
ここで、アルファとオメガだけが結ぶことができる「番(つがい)」という契約が関わってくる。
ベータ属には無いことだ。
番うとは、アルファが特定の刻印を、オメガの肉体に残すことを言う。
見ず知らずの者同士であっても、2人の間に恋が生まれる。
番の契約が結ばれた時、誰も引き裂くことは出来ない関係性が出来上がる。
片方が命を落とせば、もう片方もいずれ死んでしまうほどの強固なものだ。
さらに、「番」には最上級クラスの「番」が存在する。
運命の番という。
(学術名 unmei-no_tsugai)
運命の番とその場の雰囲気に流され結ばれた番とでは、格が違う。
番うための契約とは?
番った後の2人の変化は?
運命の番とは?
そのあたりの説明は、長くなるので後述する。
・
引っ越しの助っ人に呼ばれたユノ。
ユノが浮かない表情をしていた理由の2つ目は、ヒート期に突入するチャンミンをひとり社員寮に残すことへの不安だ。
ヒート臭を嗅ぎ分けられるのはアルファに限らず、ベータの中でも嗅覚が敏感な者も含まれる。
オメガのヒート臭は、アルファだけでなくベータをも狂わせる。
ぷくぷくに肥えた子羊(オメガ)を丸刈りにし、バターとハチミツをたっぷり塗って、10日間絶食をさせ飢えたハイエナの群れ(アルファやベータ)に放り込むようなもの。
厄介なのは、ヒート期のオメガは犯されたくないと心は拒否していても、身体は襲われたがっていることだ。
「気分はよくなった?」
「なんとか...」
(通常、アルファはオメガのヒート臭を嗅ぐと、尋常ならぬ性欲に襲われ、その衝動性は、とても理性で止められるものではない。
ところがユノは、過量の抑制剤の副作用によりチャンミンのヒート臭に過敏反応を起こし、まともに嗅いでしまうと激しい吐き気に襲われる。
そうであっても、ユノは雄々しきアルファだ。
嘔吐感に襲われながら、下半身を膨らませているのはなかなか辛い。
吐き気止めの服用よりも、新鮮イチゴかレモンにかぶりつく方がよく効く。
オメガのヒート期中、性の奴隷と化してしまう彼らについての解説は後述する。
「チャンミン、今回のヒートは軽そうだな。
なら、大丈夫かな」
アルファの鋭い臭覚のおかげで、ヒート臭の濃度から「重い」「軽い」がユノには分かる。
「大丈夫って、何?」
「チャンミン、すまない。
明日からの休みはお前のそばにいられないんだ。
チャンミンはお留守番だ」
「え!?
なんでなんで!?」
「さっきの電話だけど、実家から呼び出されてしまって...」
「まさか!
とうとうバレちゃった!?」
目も口も大きくまん丸にしたチャンミンに、ユノは「それはないない!」と否定した。
アルファに変性してしまったことは、家族には絶対内緒だ。
(なぜ内緒なのかは、後述する)
バレないように細心の注意を払い続けて、はや数年。
「独り暮らしをしていたばあちゃんが家に引っ越してくることになったんだ。
それの手伝いだよ」
ユノの実家(チャンミンの実家も同様)は遠いため、日程はどうしても1泊2日になってしまう。
「チャンミンはヒートに入っちまうだろ?
そんな時にお前を独り残すのは、マジで心配なんだ」
チャンミンは眉をひそめ、ユノをじぃっと見つめる。
色白肌に薔薇色の頬、赤毛の癖っ毛...まん丸カーブを描いた大きな眼はキラキラだ。
ユノがプレゼントしたバンビ柄のパジャマを着ている。
ヒート期前後のオメガは、実に魅力的。
(か...可愛い...)
ユノの心と根元の奥がキュンとした。
「僕...寂しい」
チャンミンはベッドから下りると、ユノの膝に身を投げ出した。
「寂しいよぉ。
ユノがいないと...怖い...」
チャンミンはユノの太ももにすりすり、頬を擦りつけた。
「そうだね、怖いね」
ヒート期のオメガは、よだれを垂らしたハイエナたちに取り囲まれているようなもの。
「でも、僕...頑張る。
頑張るからさ。
ご褒美ちょうだい」
「褒美が先なんだ?」
「うん...」
この甘えた仕草は、ユノを煽ろうとする意図的なものではなく、「素」のものだから始末が悪い。
チャンミンを溺愛しているユノは、惚れる一方だ。
オメガに変性して以降、ウエストから腰にかけてくびれができたチャンミンだった。
床に横座りしたことで、S字にひねった身体のラインの色っぽいこと。
ユノの恋愛対象は男性だが、ヒート期のオメガを前にすると性別を問わなくなるため、本能的に女性らしさにも欲を覚えてしまう
(この点が、チャンミンを不安にさせる)
(俺...ヤバイかも)
ユノは、いよいよチャンミンの色気に流されそうになり、「ヤクを打たないと抑えられない」と、抑制剤を取りに立ち上がろうとした。
ところが、チャンミンに膝を抱えられて立ち上がれない。
「ユノ~ん」
「チャンミン、離れて!
俺、耐えらんね~から。
...っぷ!」
ユノは腕で鼻を覆った。
「おえっ、おぇっぷ」
チャンミンの首筋からゆらり立ち昇るフェロモンは、目に見えそうな程の濃さ。
「ユノ~」
(ったく...)
手の甲でチャンミンの頬を撫ぜると、熱々に火照っている。
(この様子じゃ今夜中に始まるな...)
チャンミンが心配で帰省を見送ろうか、ユノが迷っていたところ...。
「ユノ...ちょっとだけでいいから、ここに...」
ユノの指はチャンミンの秘密の入り口に誘われた。
「ここに指ツッコんで」
「駄目だよ、チャンミン。
俺を誘わないで」
「ううん。
いじってくれるだけでいいからぁ」
「それじゃあ、おさまんないんだよ。
チャンミンを襲っちゃう」
「う~ん」としばし、ユノは迷ってみせたが、チャンミンの魅力に既に屈していた。
「その前に注射を打たせて」と、通常の倍量の抑制剤を注射した。
「ズボン、べっちょべちょ。
脱いでみせて?」
ユノのお願いにチャンミンは素直に従い、下のものを全て脱いでしまった。
「とろっとろじゃん」
オメガの洪水はその名の通り。
チャンミンの内ももから床へ、「オメガの蜜」が滴り落ちカーペットにシミを作っていた。
「えっろ」
ユノは、指ですくいあげた蜜を、ちゅるりとすすってみせた。
「だってぇ...」
「チャンミンのここ...女の子みた~い」
「そうだもん、穴の奥に女の子の穴ができちゃったんだもん」
チャンミンは穴の縁に指を引っかけ、入り口を広げて中を見せつけるのだ。
中は真っ赤でぽてぽてに熟れており、うねっている。
オメガの男性には、1.5個目の穴がある。
外見上、排泄のための穴が1つだけに見えるが、入口から指の第一関節分奥に、脇道がある。
挿入されやすいようオメガの男性が「濡れる」のは、そこから「オメガの蜜」が大量に分泌されるためだ。
そして、アルファやベータの男性にはない器官が、脇道の先にある。
子宮だ。
オメガの男性が特別なのは、子宮を有し、子孫を宿せることにある。
アルファ、又はベータから放たれた精子は、1.5個目の穴の奥を目指す。
・
ユノの欲情はぐつぐつ煮えたぎり、間もなくピーっと沸騰音が鳴りそうだった。
(ヤバイヤバイヤバイ!)
「すとーーーっぷ!!」
ユノはチャンミンの尻から後ろに飛び退いた。
「待て待て待て待て!
話が途中だよ!
実家の手伝いの話!
チャンミンの留守番の話!」
「あ...そういえば!」
交尾の真似事が本気の交尾になりそうなところで、ギリギリ耐えられた。
チャンミンのヒート期前後は、ついつい欲に流されそうになって、まともな話し合いができないことが常だった。
...今回も前置きが長く、ユノはなかなか実家の手伝いに行けずにいる。
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