~ユノ~
俺はいわゆる、情事の後の腕枕をしていた。
ここはチャンミンの住まいであり、ラブホの一室ではないが、元ラブホであるため、まるでラブホでアレした後、事後の余韻に浸る2人のように見える。
俺は今夜、脱・童貞を果たした。
初めてを捧げた相手は、なんと男。
2日前の俺だったらとてもとても想像できやしない、範疇を大きく外れた出来事。
しわくちゃのシーツに手を滑らせると、ねばついたものが指を汚す。
俺たちの全身を光らせているものは汗だけじゃなく、アナル専用ローションだったりする。
後でシャワーを浴びよう。
それにしても暑い。
ヘッドボードの温度調整のつまみを、手探りでひねった。
「......」
鼻先にくるんとした毛先が触れてくすぐったい。
視線を斜め下に傾けると、彫りが深いせいで眉骨の下からのぞく長いまつ毛と鼻先しか目にすることができない。
もっと顔を寄せてみれば、素晴らしく可愛らしいお顔を拝見できるのだが...。
距離の取り方がいちいち近いチャンミンに辟易としていたくせに、一度身体を重ねてしまった以降、その抵抗感が消えうせた。
俺はチンコを見せることもそうだが、物理的な距離を詰められることに抵抗があったのかもしれない、と自己分析。
長身痩躯の身体を横たえ、チャンミンの弛緩したチンコが頭を垂れている。
俺は自身のチンコに目をやった。
同様にしぼんでいる。
「......」
俺はもう童貞ではない!!!
もっと喜ばしい事実がある。
俺は『初めて』をこの男に捧げた。
これは『恋』なのだろうか。
身体から始まる恋。
2日前の俺だったら、反吐が出そうに軽蔑に価する関係性。
俺の気持ちは、というと『悪くない』だ。
悪くないどころか、『すげぇ、よかった』
人生初めてのHは...最高だった。
腰が溶けるかと思った。
慰めと生身の身体とでは雲泥の差。
特にフェラチオがヤバかった。
俺のチンコを咥え、上目遣いで「どう?」って...たまんねぇ。
思い出してきたら、俺の股間が充血してきた。
(2回目...いっちゃう?)
大事な人は、優しく扱ってあげたい。
俺がリードして、そいつに最初から最後まで気持ちよくなってもらいたい...一応、これが理想だった。
実際は、俺の方がマグロになっていた(恥ずかしい!)
イク瞬間、俺は野獣のような声をあげていた。
体位は騎乗位一本。
チャンミンの下で俺はただただ腰を動かし、弾ける快感に我を失ってしまった。
初回はこんなものだ。
2回目からは、もっと余裕をもったHにしよう。
身体を繋げたからこそ、心の結びつきがより高まりそうだ。
心が繋がってゆくにつれ、Hの充実度も高まろそうだ。
触らなくても分かる、俺のチンコはフル充電完了。
・
チャンミンちに向かう道中、ある考えがずっと引っかかっていた。
「男遊びが激しくて尻の穴が緩い奴」と、前カレがチャンミンのことを称していた。
チャンミンもそれを否定していなかった。
本来なら、深くかかわり合いたくない類の人種。
ふわふわの銀髪頭にぴっちぴちのズボンを穿き、胸元をはだけていた。
出会って以来、俺を求めていた(最初のうちは全然、気付いていなかったのだけれど)
それが下衆な動機だったとしても、この男は悪い奴には全然見えない。
過去に何十人もの男たちに抱かれてきたらしいし、元カレだか前カレだかに恨みを買っているらしいし...つまり、オトコ関係にだらしのない奴なんだけど、
無邪気というか。
彼のお上品で綺麗な顔がそう思わせているのかもしれないがな...うん。
そこで俺は考えをあらためた。
『そういうヤツ』だったこそ、俺と出会ったのだ。
・
俺の上でなまめかしく腰を動かすチャンミンを眺めていたかったのに、次々と押し寄せてくる快感の大波にさらわれた挙句、理性のストッパーが外れてしまった。
こいつが男だってことを忘れた。
性別など一切無視、ひとりの人間とぶつかりあっていた。
穴の正体にこだわる必要はなかった。
きゅうっと締め付けられて、温かくて、ぬめぬめしていて...。
堪らなさ過ぎて、叩きつけるように腰を激しく動かしてしまった。
(...しまった!)
チャンミンがずっと無言でぐったりしているのは、俺が乱暴過ぎたせいなのだ!
射精の後はお約束の賢者タイムに突入し、さっきのHを振り返ってみたりと自分のことしか考えていなかった
Hはなんと我を失わせるものなのか。
『運命』を連呼していた俺が、大切にしなければならない運命の人、『初めて』を捧げた人を二の次にしてはいけないだろう?
「大丈夫か?」
チャンミンの肩を揺さぶると むくっと頭を起こした
(涙目!)
「ひどいよ、ユノ...。
僕を殺す気?」
「すまん!」
俺は弾かれたように身体を起こし、土下座した。
「気持ち良すぎて、あんたのことを考えていなかった。
すまん!」
俺はもう一度頭を下げた。
「冗談だよ。
大袈裟な。
頭を上げて。
いたたた...」
チャンミンは顔をしかめ腰を押さえながら、そろりと起き上がる
「痛そうだな」
「痛いよ...。
どうしよう。
仕事できるかな」
とチャンミンはつぶやいた。
こいつの勤め先が老人ホームだったことを思い出した。
腰を痛めた状態で、じいさんばあさんを抱えるのは難しいだろう。
「ホントにすまん」
「たまにあることだから、心配しなくていいよ。
明日は休みだから」
過剰な心配をかけさせまいと、強がっているんじゃないかと、チャンミンの表情から本音を探る
「ユノのおちんちんが凄くってさ。
裂けるかと思ったよ」
チャンミンの下ネタに赤くなるどころか、「腰が立たなくなることが、『たまに』ある」のワードに引っかかってしまった。
軽い男だったからこそ、「運命の人」に相応しいなんて言っておきながら、早速のヤキモチかよ。
先が思いやられた。
「それよりか、僕こそ謝んなきゃ」
「なに?」
「ナマでやっちゃってゴメン」
「?」
チャンミンはつんつん、と俺の股間を指さした。
「いろいろあるからね、ゴム付けるのが常識なんだけど、余裕がなくってさ」
「そういえば...!」
「ゴメン。
だからシャワー浴びようか」
「おっけ」
チャンミンについてベッドを下りようとしたら、肩を押された。
「5分待って。
先に後処理だけさせて」
「後処理...」
「お尻のね!
ユノってホント、何も知らないんだね?」
呆れた風に言うチャンミンに、「俺にとってはどれもが初めてなんだよ」と俺はむくれた。
(ああ...。
唇を尖らせるとか、今までの俺じゃあり得ない。
チャンミンの癖が移ってしまったのかもしれない)
「ふふっ」
チャンミンの顔がすっと近づき、俺の唇をチュッと軽く吸った。
「そういうユノだからこそ、ユノがいいと思ったんだよ」
・
シャワー中、いちゃいちゃの末の第2ラウンドへとなだれ込むことなく、俺たちは作業的にシャワーを浴びた。
...多分、お互い気恥ずかしかったのかもしれない。
浴室が寝室より明るいせいで、互いの裸体を鮮明に見てしまえる。
さっきまで俺のチンコが挿っていたチャンミンの尻に目がゆかないよう、彼に背を向けて、ざぶざぶと股間を洗った。
・
シャワーを浴びてさっぱりした俺たちは、身の上話をすることにした。
話題は互いの職業について。
俺たちはまだお互いをよく知らない。
友人になりかけたところで深い関係を持ってしまったが、圧倒的に情報不足だ。
出身地や子供時代、家族構成、好きな色や嫌いな食べ物、それから初恋のこと。
知りたいことがいっぱいだ。
...俺はチャンミンと真剣に交際するつもりでいる。
(つづく)
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