【34】NO?

 

 

~僕の胸、君の胸~

 

~チャンミン~

 

 

「民ちゃん...?」

 

僕は今、民ちゃんに後ろから抱きつかれている。

 

民ちゃんの意図が分からない。

 

でも、ドキドキする。

 

30代のいい年した大人なのに、ドキドキした。

 

嬉しさが込みあげてくる。

 

民ちゃんの両手が、僕の両胸にぴたっと押し当てられている。

 

僕のドキドキがばれるんじゃないかな。

 

「...チャンミンさん」

 

民ちゃんが僕の耳元に唇を寄せて、ささやいた。

 

民ちゃんの吐息が耳にかかって、ゾクッとした。

 

僕と民ちゃんは身長がほぼ同じだから、彼女の顎が僕の肩にかかっている。

 

近い近い!

 

「何?」

 

「触らせてください」

 

「触る!?」

 

民ちゃんの手が、さわさわと僕の胸を撫でまわし始めた。

 

「民ちゃん!」

 

「辛抱してくださいよ」

 

「くすぐったいから!」

 

民ちゃんの手首をつかんだら、「放してください!」と怒られた。

 

仕方なくされるがままになっていた。

 

胸の筋肉に沿って指を滑らせたり、弾力を確かめるように揉んでみたりするから、くすぐったいったら。

 

民ちゃんに胸を触られているうちに...。

 

なんだか気持ちよくなってきた...かも、しれない...。

 

変な気持ちになってきた...かも、しれない...。

 

まずい...。

 

「はぅん!」

(※チャンミン)

 

民ちゃんの指先が乳首をかすった時、そんなつもりはなくても変な声が出てしまった。

 

ぴたっと民ちゃんの手が止まった。

 

「チャンミンさん、乳首が立ってますよ」

 

(ミミミミミミミンちゃん!

そういうことは口にしたらダメだって!)

 

「ひゃぅん!」

(※チャンミン2回目)

 

僕の2つのボタンをポチっと押した民ちゃんの指を、手ごと押さえつけた。

 

(ミミミミミミミンちゃん!

変な声が出ちゃったじゃないか!)

 

「チャンミンさん...」

 

民ちゃんがぼそっと言った。

 

「私より胸が大きいって、どういうことですか!?」

 

「へ?」

 

振り向いたら、民ちゃんが眉間にしわを寄せて、ぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「ずるいです!」

 

「ずるいって?」

 

民ちゃんは両手で顔を覆ってしまった。

 

「ずるいです...うっうっ...」

 

「民ちゃん、泣かないで」

 

僕の胸の方が大きいと言って、怒って泣く理由が全然分からない。

 

「民ちゃん、どうしたの?」

 

僕は民ちゃんの頭を撫ぜてやるしかできない。

 

「チャンミンさんの会社はサプリを作っているんですよね」

 

「そうだよ。

気になるものがあるんだったら、社販してくるよ」

 

「あのですね、絶対に笑わないでくださいね」

 

民ちゃんのことだ、とんでもないものを欲しがるのでは...と愉快な気持ちで民ちゃんの言葉を待っていると。

 

「...が欲しいです」

 

「声が小さくて聞こえないよ」

 

「おっぱいです」

 

「へ?」

 

「チャンミンさんも知ってるでしょ?

私のおっぱいが小さいってこと」

 

「うーん............そんなこと...ないよ」

 

「目が嘘ついてます」

 

(ぎく)

 

「おっぱいが大きくなるサプリが欲しいです」

 

「おっぱい...?」

 

「そうです」

 

「民ちゃん、急にどうしたの?」

 

「どうもしません」

 

「サプリだけでそうそう簡単に、胸は大きくならないんだよ。

そのままでいいじゃないか?」

 

「よくないです!」

 

民ちゃんの胸のあたりについつい目をやってしまって、それに気づいた民ちゃんは隠すように腕を組んだ。

 

「チャンミンさんにひとつお尋ねしますよ」

 

「うん、どうぞ」

 

「もしも、ですよ。

もしも、チャンミンさんの彼女さんが...あっ!

リアさんのことは、脇に置いといてくださいね。

もしも、その人の胸が小さかったらどうします?」

 

そんなシチュエーションを想像してみてみる。

 

「どうもしないよ」

 

「ホントにホントですか?」

 

僕にずいっと顔を近づけて、民ちゃんは念をおす。

 

「ホントだって。

胸のサイズが、彼女選びの条件に入っていないもの」

 

「ホントですか?」

 

「うん。

付き合う子の胸が、たまたま大きければ、ラッキーって思うけれど...(しまった!)」

 

「ふ~ん...」

 

民ちゃんは疑わしそうに、細目で僕を見る。

 

先日、ちょっとしたハプニングで民ちゃんのお胸を、ちらっと、いや、ばっちりと拝見したことがあって、その映像をプレイバックしてみる。

 

民ちゃんのお胸は、『ほぼ、ない』に等しい(民ちゃん、ゴメン)。

 

民ちゃんがノーブラでいたのも納得の、『ぺたんこ』お胸だった。

 

中性的な身体付きで、それはそれで魅力的だと僕は思う。

 

現にそんなお胸であっても、僕は民ちゃんから色気を感じたんだけれど。

 

っていうことを、民ちゃんに説明しても、民ちゃんは納得しないだろうな。

 

「やだな、民ちゃん。

急にどうしたのさ、胸がどうのこうのって。

民ちゃんのすらっとしたスタイルを、羨ましがる女子も多いんじゃないかな?」

 

「女の子に羨ましがられても、全然嬉しくありません!」

 

まずい。

 

民ちゃんの表情が曇ってきた。

 

「パッドを入れるとかさ、補正下着ってあるじゃないか?

うちの通販でも取り扱っているよ...(しまった!)」

 

「下着で解決できれば、話は早いですよ」

 

ノーブラ民ちゃんが突然、胸のサイズを気にし出すなんて、何か大きな理由があるに違いない。

 

まさかだとは思うけど、鎌をかけてみることにした。

 

「裸になる予定でもあるのか?」

 

「あわわわ」

 

民ちゃんは両手で口を覆うと、僕に背を向けてしまった。

 

民ちゃんは分かりやすい。

 

白金の柔らかい髪からぴょんと飛び出た両耳が真っ赤だ。

 

僕の胸が、ひやりとした。

 

「例の『彼』と!?」

 

民ちゃんったら、いつの間に!

 

民ちゃんは嘘を付けないタイプだとみてるけど、肝心なことは口を開かない子のようだ。

 

上手に嘘を付いたり、はぐらかしたりするのが下手だから、最初から口にしない、ということか。

 

「違います!」

 

ソファに突っ伏して、僕から顔を隠している。

 

不快だった。

 

じわっと全身から汗がにじんで、胸中にモヤモヤが渦巻く。

 

動揺していた。

 

 

(つづく)

 

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