あなたのものになりたい(18)

 

 

~ユノ~

 

 

絶頂の間際で口にした言葉。

 

「好きだ」と。

 

愛おしくてたまらない。

 

興奮のあまり口走ってしまったような、刹那的なものではない。

 

素面ではとても口にできなかったのが、下半身が繋がりあい、感情も肉体も興奮で昂ったあの時ならば可能だった。

 

...知らなかった、俺は照れ屋な男らしい。

 

どれだけの時が経とうと、チャンミンとは友人同士でいようと、彼を俺の家に連れてきた時にそう心に決めた。

 

チャンミンの元々の身分を思えば余計に、俺たちの間に性的な繋がりを持ったらいけないのだと。

 

俺は世間知らずのチャンミンを見守ることも多く、自然と保護者役になってはいた。

 

チャンミンの正確な年齢は分からないが、明らかに俺の方が年上で、兄と弟に近いかもしれない。

 

とは言え、俺たちは「友人同士」で「同居人」だ。

 

そう何度も言い聞かせてきた。

 

ところが、チャンミンと性的な関係を持つようになった時、その自制は壊れた。

 

チャンミンにのめり込みかけていた時で、その堰も脆くなっていたから、たやすく壊れた。

 

 

抱き合っている時の俺たちは、より対等に近づく。

 

チャンミンの話しぶりから判断するに、誰かと恋愛関係を結んだ経験はないだろう。

 

俺が『犬』になったのは、20代初めだったから、『犬』以前...10代半ばに淡い恋心を抱いた経験があるにはある。

 

だから、恋愛感情がどのような感覚が湧きおこるのか、なんとなくは知っているのだ。

 

チャンミンの言う「好き」には、どのような感情を含まれているのか。

 

チャンミンに尋ねないと。

 

気持ちを知りたくなった。

 

 

何度交わっても足りない。

 

攻められるのを好むチャンミンに合わせているのではない。

 

俺自身、攻める行為を好む。

 

俺のサディズム傾向とチャンミンのマゾヒズム傾向が合体した時、行為がどれほど激しいものになるか。

 

もちろん、血を流すようなハードなものではない、どこまでも甘美なものだ。

 

苦痛を越えた快感に沈むチャンミンは、美しい顔を惚けたものへと成り下がっている。

 

その色気ある表情を、たまらなく美しいと思った。

 

愛情を注ぎ、肉欲を満たすために思いつく、ありとあらゆる体位で繋がった。

 

俺の下で尻を突き出すチャンミン。

 

赤く腫れあがった尻をしたチャンミン。

 

人の関節とは、こうも可動域があるのかと、軟体動物と化したチャンミン。

 

「お兄さん、もっと...もっと」

 

甘い悲鳴をあげるチャンミン。

 

今の俺の眼はもう、かつての無数の客たちと重ね合わすことはなくなった。

 

チャンミンの首でダイヤモンドのチャームが揺れる。

 

チャンミンはあれの装着を嫌い、彼の中に直接注ぎ込むことになる。

 

2度も3度も達した時、チャンミンのそこから白濁したものが彼の内ももを汚す。

 

 


 

 

~チャンミン~

 

 

僕は今、とても怒っている。

 

お兄さんと僕の家に、女の人がやってきた。

 

僕は女の人が大嫌いだから、睨みつけてやった。

 

ぎりりと音がするんじゃないってくらい、力いっぱい睨んでやった。

 

僕をたしなめるように、お兄さんも怖い顔をしたけれど、僕は構わず女の人を睨んでやった。

 

ついさっきのことだ。

 

僕はいつもの恰好で...Tシャツとパンツだけ...勉強をしていた。

 

勉強に疲れたら、うっすら痣が付いた手首をうっとりと眺めた。

 

昨夜の僕たちは凄かった。

 

目をつむって思い出しては微笑んでいたら、僕のおちんちんが大きくなってきた。

 

お兄さんを誘おうかな、と思った時、お兄さんがやってきて「人が来るから服を着ろ」と言った。

 

「人?」

 

僕らの家に、誰かが訪ねてくるのは初めてだったから、とても驚いた。

 

「さあ、服を着ろ」

 

「え~、嫌です」

 

渋っている僕に、お兄さんはてきぱきと服を着せてしまった。

 

「チャンミンはテレビでも見ておいで」

 

お兄さんと女の人は、お兄さんの書斎に閉じこもってしまった。

 

僕はドアに片耳を押しつけて、どんな微かな音も聞き漏らさないよう集中した。

 

ぼそぼそと何やら話をしている。

 

お兄さんの書斎は寝室と繋がっている。

 

寝室にはバスルームもある。

 

血の気がひいた。

 

お兄さんとあの女の人は、えっちをしているんだ!

 

今すぐドアを開けて、寝室へ乗り込んでゆきたかった。

 

でも、そんなことをしたらお兄さんはもの凄く怒ると思う。

 

僕は廊下の壁にもたれて座り、書斎のドアが開くのを待った。

 

1時間ほど経った頃、ドアが開いた。

 

直ぐにそこに僕が待ち構えているから、女の人は目を丸くし、お兄さんはため息をついた。

 

お兄さんも女の人も髪の毛が乱れている風には見えなかった。

 

それでも疑わしい。

 

僕はベッドのシーツの匂いをくんくんと嗅いだ。

 

アレの匂いには敏感なんだ、すぐにわかる。

 

「何やってるんだ!?」

 

お兄さんの怒鳴り声を無視して、シーツの真ん中の辺りをくんくん嗅ぎ続けた。

 

「犬みたいな真似はよせ!」

 

お兄さんにうなじをつかまれて、ベッドから引き離されてしまった。

 

「...だって」

 

僕は膝を抱えた腕に顔を埋めた。

 

「お兄さんとあの女がえっちしていたんじゃないかって...!」

 

お兄さんはため息をついた。

 

「『あの女』なんて言い方はいけないよ。

彼女と俺が...するわけないじゃないか」

 

「お兄さんのコイビトですか?」

 

「...チャンミン」

 

「そうですよね。

お兄さんみたいなカッコいい大人なら、コイビトがいて当たり前ですよね」

 

「...違う。

あの人とは仕事上の関係だ、それだけだ。

俺が出向く代わりに、彼女がここに来てくれただけの話だ」

 

「本当の話ですよね?」

 

「ああ。

本当の話だ」

 

シーツにはお兄さんと僕の匂いしかしなかった。

 

「よかったです...」

 

「チャンミン」

 

お兄さんはひざまづいて僕の肩を抱いた。

 

「俺は『犬』時代は女性を抱くこともあったが、それ以外では抱いたことはない」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。

俺はもう『犬』じゃない。

俺が抱くのは『恋人』だけだ」

 

「コイビト...」

 

お兄さんの言葉の意味を理解するまで、頭が悪い僕には少しだけ時間が必要だった。

 

「お兄さんは僕のことをコイビトだって、思ってくれてるんですね?」

 

「そうだよ」

 

 

(つづく)

 

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