(2)19歳-出逢い-

 

あまりに精巧なチャンミンに驚いてしまったのには、理由がある。

 

ちょっと前まで、俺には「お守り役ロボット」がいた。

 

そのロボットは確かに人間の姿をしていたけど、3つ以上の関節を同時に動かせなくてぎくしゃくしていた。

 

俺が難しい質問をするとメモリが足りないのか、しばらくフリーズしてしまう。

 

反応があるまで待つのはイライラするし、駆け回って遊ぶことも出来ないし、その他いろいろ問題があって、結局お払い箱になったんだ。

 

どうして俺に、「話し相手」だとか「遊び相手」が必要だって?

 

俺の家は、針葉樹だらけの山深い中にあって、近辺には誰も住んでいない。

 

一番近い学校までは、車だと2時間、飛行機だと20分くらいかかる場所にある。

 

だから俺は、自宅でネット回線ごしで授業を受けている。

 

俺に限らず、よその子たちも似たようなものだ。

 

それに加えて、俺には兄弟がいない。

 

広い屋敷の中で、子供は俺だけだ。

 

そんな俺の遊び相手として、両親はチャンミンを買ってくれたんだと思う。

 

先代の『お守り役ロボット』と比べものにならないくらい、チャンミンはホンモノの人間に近い。

 

近いどころか、人間そのものだった。

 

 


 

 

俺はたちまち、チャンミンのことが大好きになった。

 

チャンミンは優しくて、物知りで、力持ちだった。

 

チャンミンに肩車されて、裏山を散歩する。

 

チャンミンはとても背が高いから、木の枝に頭をぶつけてしまうこともある。

 

「わぁ!

すみません、ユノ!」

 

慌てたチャンミンは肩から俺を下ろして、俺の頭をすみずみまで点検した。

 

「チャンミン...!

くすぐったいったら」

 

耳の穴まで確認しようとするチャンミンの手を押しのけて、俺は笑いころげる。

 

「安心しました...。

あなたに怪我をさせたら...」

 

チャンミンは俺を引き寄せると、ぎゅっと抱きしめた。

 

大人の男の人にぎゅっとしてもらうことは経験がなくて、俺はびっくりした。

 

(俺の父さんはそういうことはしない人なんだ。いつも遠巻きに俺を見ている)

 

チャンミンの胸は、母さんのものと違って固かったけど、温かくて、頼もしくて、安心できた。

 

「よかった...無事でよかった」

 

俺のほっぺの下で、チャンミンの心臓がドキドキしていた。

 

(そうなんだ。

チャンミンは、俺の身体と同じように、人間みたいに胸がドキドキするんだ)

 

「チャンミン...苦しい...放して」

 

呻くと、チャンミンは「すみません」と謝って腕を離した。

 

「たんこぶくらい、全然平気だよ」

 

「たんこぶが!?」

 

チャンミンの顔色が、さーっと青くなった。

 

「嘘。

俺は男だし、強いんだ。

平気だよ」

 

「もー。

焦りました」

 

チャンミンは尻もちをつくみたいにその場にへたり込んで、後ろにごろんと寝転がった。

 

とても子供じみたことをするから、俺は可笑しかった。

 

「チャンミンは心配性だね。

俺の母さんより心配性だ」

 

俺もチャンミンに習って、隣に寝転がった。

 

落ち葉がカサカサと乾いた音をたてた。

 

ぐるりと囲んだ木々の梢の真ん中から、うす青い初冬の空が広がる。

 

心配性のチャンミンによって、俺はコートにマフラー、帽子とむくむくに着ぶくれていた。

 

「ユノに何かあったら、僕はここにいられなくなるんですよ?」

 

「ええぇっ!?

なんで?」

 

俺は飛び起きて、地面に寝転がったままのチャンミンの肩を揺すった。

 

「それはですね。

僕が『アンドロイド』だからですよ」

 

チャンミンはそう言って起き上がると、俺の服についた枯れ葉を払いのけながら言った。

 

「アンドロイドは心配性なの?」

 

7歳の俺には『アンドロイド』の言葉の意味がよく分からなかったけど、人間とは違うものだってことは知っていた。

 

召使みたいなものだって。

 

「アンドロイドは、人間に危害を加えたらいけないのです。

そういう、絶対的なルールなのです」

 

「叩いたり?」

 

「そうです」

 

振り返ってみると、確かにチャンミンは俺に手を挙げたことは一度もない。

 

父さんに頬を張られたことは何度もあるし、女中頭のKは母さんが見ていない隙に俺の脇腹をつねったりする。

 

他にもいっぱい...俺んちにはいろんな大人が訪ねてくる...痛いことをしてくる人がいる。

 

チャンミンの背中に乗って、滅茶苦茶に髪の毛を引っ張ったり、お馬さんだとお尻をスリッパで叩いたり、プラスチック弾のピストルの的にしたりしても、チャンミンは困ったように笑うばかりだった。

 

「ユノには擦り傷ひとつ、負わせられません」

 

「ルールを破ったら、どうなるの?」

 

「ルールを破らないように...」

 

チャンミンは、ちょんちょんと自身の頭を指さした。

 

「プログラムされてますから。

余程の不可抗力がない限りは、危害を加えることはあり得ません」

 

フカコウリョク...キガイ...?

 

チャンミンの言っている言葉が難しくて、俺は分かったような分からないような顔をしていた。

 

「僕の仕事は、ユノの心配をすることです。

ユノの仕事は、子供らしく遊んで勉強をすることですからね」

 

お尻についた落ち葉を払うと、俺の方に手を伸ばした。

 

「チャンミンは...」

 

「なんですか?」

 

「チャンミンも子供の時、いっぱい遊んだ?」

 

「え?」

 

俺と手を繋ぐチャンミンの頭は、うんと高いところにある。

 

チャンミンも俺みたいに小さい時があったのかなぁ、って知りたくなったんだ。

 

「チャンミンは何して遊んだ?」

 

俺たちは立ち止まり、俺はチャンミンを見上げて彼の答えを待った。

 

「...子供の時ですか。

...もう忘れました」

 

チャンミンは肩をすくめて、ひっそりと浅く笑った。

 

とても寂しそうな笑い顔で、「聞いてはいけないことを尋ねてしまった」と7歳の俺は後悔した。

 

「大変です、ユノ。

鼻水が出てます」

 

チャンミンの大きな親指で、俺の鼻下が拭われる。

 

チャンミンは俺を背負うと、「しっかりつかまっているんですよ」と駆け出した。

 

「風邪をひいたら大変です。

お家に帰って、ホットレモンを飲みましょうね」

 

 

 

チャンミンは俺を叩かない。

 

それなら、俺もチャンミンを叩いたりするのはよそう、と心に決めた。

 

チャンミンの首に回した腕に力をこめた。

 

「大好きだ」っていう気持ちをうんと込めて。

 

チャンミンは大人だけど...。

 

チャンミンはアンドロイドだけど、俺の大事な友達だから。

 

 

(つづく)

 

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