俺の腹の上に跨ったチャンミンは、石になってしまった。
勢い任せで俺を押し倒したものの、この次に何をしたいのかまでは考えていなかったのだろう。
迷子になってしまったチャンミンは、少し驚いた表情のまま静止している。
「......」
「......」
チャンミンの出方を試すかのように、無言で待ち続けるのは可哀想だ。
かと言って、「チャンミンはこれから何をしてくれるのかなぁ?」と、からかうのも可哀想だ。
大好きで大切な人が俺の上に跨っていて、熱っぽく潤んだ眼で見つめられ(今はびっくりまなこだが)、さらには...。
脱ぎかけたパンツが両腿の開脚を妨げているせいで、俺の腰を跨ぎきれないチャンミンは、ほぼ俺の上に乗っかっている状態になっている。
すると、どうしてもこうなる。
俺の痛いくらいに反応したものが、チャンミンのちょうどそこに当たっている。
チャンミンは気づいていないだろうけど。
「ああ、やっぱりチャンミンは、そっち側になるんだ」と、判断基準にするには疑わしい感覚で納得したというか、確信を持てたというか...。
純粋培養で美しいこのアンドロイドについて知らなかったことを...つまり、人間と同じような肉体と欲を持っていたことを、俺の目と指で知ることができた。
押し倒され煽られて、愛しさと滅茶苦茶にしたい衝動で沸騰間近。
俺はチャンミンを腰の上に乗せたまま半身を起こし、シャツを脱ぎ捨てた。
湿った肌がシャツの滑りを悪くして、少しもたついてしまった。
両腕をクロスさせ、頭がシャツの襟首を通り、シャツの裾から顔が出た時、すぐ間近にチャンミンのウットリと緩んだ顔があった。
恥ずかしさのあまり、脱いだシャツを胸にかき寄せたくなった。
へそから顔まで、俺の半身を舐めるように見ていたのだ。
俺の裸など7歳の頃から見てきて何の珍しいこともないのに...あれ?
そうでもないことに気が付いた。
ひとりでシャワーを浴びられるようになってからは、チャンミンの介添えは必要なくなった。
さらに、寄宿学校に入学し、色気づく年ごろになって以降は、気恥ずかしくてチャンミンの前で着替えをすることができなくなっていた。
...うすうすチャンミンの視線の中に、色気が含まれていたことに気づいていたということか...。
その色気混じりの目で今この時、見つめられていると思うと、肌表面が火照ってきてじっとしていられなくなった。
視線を落とすと、チャンミンのパンツのウエストから顔を出しているものが目に飛び込んできた。
無垢で大人しい顔をしているのに、「たまらない...」と思った。
レストランの予約時間まで、ちょっとだけの触り合いで済ませるつもりでいたが、このまま流れにのってしまおうと思った。
寸止めは辛いなぁ、と。
「どうせなら、全部脱いじゃおうか?」
「えぇっ!?」
「いいじゃんいいじゃん」
脱がしにかかる腕から逃れようと、俺の上から身をひるがえしたチャンミンは、簡単につかまってしまった。
脚の付け根まで下ろされたパンツを、勢いよく膝下まで引き落とした。
「やっ!」
チャンミンは両手で顔を覆ってしまった。
洋服をすべて剥かれたチャンミンは、カタツムリのように身を丸めている。
日が沈む時間まで2時間ほどある外は明るくて、チャンミンの真っ白な背中と形のよい...男のものにしては優しい尻が露わになっていた。
俺は窓際のカーテンに飛びつき、カーテンを閉め切った。
カーテンの生地を通過したわずかな外光で、室内は真っ暗というほどではない。
今夜の宿泊者たちはチェックインしていない者が多いだろうし、そうじゃなくても食事や遊びで出かけており、無人の客室ばかりだろう。
まだ日が明るい時刻から、俺たちのように部屋で過ごしている者はほとんどいないと思う。
ラジオも付けておらず、会話と言っても互いの耳元で語り合う俺たちのささやき声だけだ。
車の往来の音が、地上4階の分厚い外壁に隔たれたこの部屋まで聞こえてくるほど静かだ。
互いの息遣いまで聞こえてくる。
一旦は躊躇した。
迷ってしまったワケは、チャンミンと初めてするデート、お泊り、セックス...「初めて」とは一生に一度の特別製の記憶だ。
チャンミンに口づけながら俺は、心と身体が心から欲しているものと、理性との狭間で行ったり来たりしていた。
一生の思い出として刻まれるその時を、時間に追われるような形で、予定外のタイミングで成されていいのだろうか?
もっとロマンティックに完璧に仕上げたかったのだけれど、10代の欲求と愛情の強さに負けてしまいたい。
・
『今がよければいいじゃないか。
楽しめる時に楽しんでおこうよ』
と、旧友たちは、時を大切に過ごすこと、ひとつひとつの出来事に慎重な俺の背中を叩きそうだ。
友人ドンホなら、
『理想も大切だけど、勢いも大事だよ。
その時を大切にする、ってそういうことじゃないかな?
前もって計画するものじゃない
君は未だ17歳なんだから。
もっとのびのびとやりなよ』と、苦笑しそうだ。
・
書き物デスクの上の古風な置時計が、レストランの予約まで1時間を知らせていた。
ちらりちらりとそこに視線をやるチャンミンに、俺は彼の目と口を同時に塞いだ。
「...んっ...んっ」
俺が口を塞いでいるから、チャンミンの喘ぎ声は喉の奥で鳴る。
「そっちじゃなくて、俺の方に集中してよ」
17歳風情で、気障な言葉を口にしているなぁ...と、後で振り返った時、大赤面しそうなセリフだ。
「レストランの時間が...!」
「いいのいいの。
もうちょっとだけ。
間に合うよ」
「ホントに間に合いますか?
約束は守らなきゃ...お店の人に迷惑をかけてしまいます」
「うん、分かってる。
あともうちょっとだけ、こうしていたい」
あとからあとから湧いてくる欲は抑えられるはずもない。
レストランの時間など無視してしまえ。
[maxbutton id=”23″ ]