(13)時の糸

 

 

~ユノ~

 

 

(どうにかなりそう!)

 

火が出そうに顔が熱い。

 

俺の心臓はバクバク、喉から飛び出しそうだった。

チャンミンのマンションを出た途端、どっと疲れが出た。

涼しい顔を保つのも、ここまでが限界。

あまりに恥ずかしくって、恥ずかしがってるとこを見られたくなくて、平静を装ってみたけど、まぢでキツかった。

俺の馬鹿!

​あんな醜態をさらすなんて!

​自宅への道を、大股で歩いた。

いくら死ぬほど心配だからって、不法侵入した上に、だ、抱きついてしまうなんて!

おまけに、泣くなんて!

いい年した大人が何やってんだ。

しゃがんだ膝に顔を伏せた。

「落ち着け~」

いつの間にか、息が荒くなってた。

興奮してんじゃねーぞー。

​​

自分に正直になろう。

チャンミンの裸をバッチリ見ちゃった。

バッチリ記憶に焼き付いているんだから。

ぐふふふふ。

顔がニヤついてしまう。

でもなぁ...。

全裸の男が、魅力的な男に抱き付かれたりなんかしたらさ。

 

欲望にボッと火がつき、彼を押し倒す...。

 

​ってのが、普通だろが!

全くそんな気配の、けの字もなかったし...。

待て待て、俺は何考えてんだ!

俺は男にドキドキする質だけど、チャンミンの性癖は知らん。

 

男に抱きつかれたりしたら普通、ドン引きするよなぁ。

それに、エロい雰囲気になるのをぶち壊したのは俺だったし、大泣きしちゃってたからなぁ。

バスルームの床に伸びてるチャンミンを予想してたから、洗面台の前に立っている彼を見てまずビックリ。

さらに、全裸でビックリ。

驚愕過ぎて、一瞬頭の中が真っ白になっているにも関わらず、チャンミンの全身を舐めるように観察してしまったし。

サンキュー、チャンミン。

いやぁ、いいモン見させてもらった。

ひょろっと縦に長いから、薄っぺらくて、なよっとしてるかと予想していた。

 

ところがどっこい、いい意味で予想を裏切ってくれたぞ、チャンミン。

めちゃくちゃ鍛えてるじゃないの。

静的で大人しいのに、ジムに通い詰めてんのかな?

ギャップ萌え。

抱きついたときの胸、背中、お腹の堅い筋肉具合といったら。

ごちそうさまです、存分に堪能させてもらいました。

欲求不満たっぷりの三十路男の妄想。

おいおい、俺は乙女か!

ここで、一応言い訳。

チャンミンが無事と分かって、腰が抜けるくらいホッとした。

膨らませに膨らませた悪い予想が裏切られて、ケロッとしているチャンミンを見て、彼に対しても、自分に対しても腹が立ったし。

目をまん丸にして、あの驚いた顔があまりにも可愛らしくて。

そんないろんな感情がぐちゃぐちゃに混ざって、チャンミンに突進してしまった。

昨夜、チャンミンがずぶ濡れの子犬みたいに弱ってて、俺に抵抗できずに結局言いなりになってて。

可愛いんだもの。

日頃のむっつりした彼を見ているから、ギャップ萌えだな、やっぱり。

きっと頭のネジはゆるんで、どこか彼方、宇宙まで飛んでいってしまったに違いない。

俺は知らぬ間に、彼にやられてしまったらしい。

俺は、チャンミンに「男」を感じてしまった。

 

俺も男だけどね。

まずいなぁ。

今回のハプニングでうっかり油断してたら、こうなるんだもの。

チャンミンは、単なる...単なる...?

好きなったりしたら、面倒なことになるのに!

 

 

 

 

​リストバンドが、メッセージ着信を震えて知らせる。

送信元は確認しなくても、分かってる。

 

俺は大きく舌打ちをしてつぶやいた。

 

「このタイミングに、これだもの」

​俺はタクシーを呼ぶと、自宅へ向かっていた足をUターンさせて大通りへ出た。

 

 

(つづく)

 

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