(18)時の糸

 

 

~ユノ~

 

 

午前中は、全く仕事にならなかった。​

 

計測の手順を間違えてばかりで、機器のアラーム音を何度も鳴らしてしまった。

(たった2日の寝不足が、三十路にはこたえる...)

コーヒーのがぶ飲みで、トイレも近い。

少し前、作業着を泥だらけにしたカイを見かけたが、クリーンな今の時代、なかなか見られない姿だ。

やることの多くが手仕事、力仕事で、うちの職場の平均年齢が若い理由もうなずける。

催促されている報告書も仕上がっていない。

時刻を確認すると、あと15分でお昼休憩だ。

(ちょっと早いけど)

​俺はランチが入ってるバッグを持って、ドームへ向かうことにした。

ドームの回廊ベンチで、Mは既にランチを終えたばかりのようだった。

(早っ!)

今日のMは、パステルピンクのワンピース姿で、ゆるく巻いた髪を複雑に編み込んだヘアスタイルにしてる。

(一種の職人技やな。

Mこそ、現場仕事が向いてるんじゃないかな)

 

​Mのヘアスタイルを見て、いつもそう思う。

「ユノ!

お先~」

「受付カウンターを無人にしといていいの?」

Mの隣にドスンと腰を下ろして、俺もお昼ご飯を取り出した。

「アポなしで来る人なんてほとんどいないから大丈夫」

俺がノーマルだったら悩殺もののMの笑顔。

「あんたの神経は図太いけど、ちんまりしか食べんのやな?」

「万年ダイエッターですから」

「Mは痩せんでもよろし。

​胸がでかいのは、羨ましいかぎりだって。

カイ君なんかあんたの胸にくぎ付けよ」

「やめてよユノ。

彼、若いからね、24だっけ?

性欲バリバリの年ごろじゃない。

...私は年下には興味がないの。

やっぱり年上よね~...Tさんみたいな?」

Mは不敵な笑みを浮かべて俺を見る。

「本日のTさんは、どうだった?」

「まままままま。

それはまぁ...いただきます!」

Tさんネタを今は振って欲しくない俺だったから、大きな音をたててサンドイッチの封を開けた。

「あら!珍しい...ほらユノ!」

「何?」

ピンクのマニュキュアのMの指さす方向を見る。

​ドームの中央辺りの小道を、チャンミンとカイ君が談笑しながら歩いている。

そういえば、昨日のトラブルの復旧作業をカイ君が手伝うとかなんとか、今朝Tさんが話していた。

あの時、チャンミンはものすごく不機嫌そうな顔してたっけ。

感情をほとんど表に出さないから、珍しいと思ったんだっけ。

Mは二人の様子を眺めながら言う。

「チャンミンと会話が成立するのかな?」

「相手次第なんじゃない?」

「ねぇ、なかなかの光景じゃない?

​二人とも、いい男なんだよねぇ」

「そうかもね」

(興味ないふりも難しい)

 

「カイ君はマメだからモテるよね、絶対。

チャンミンは...むっつり君。

プライベートではオオカミなのよ...こわ~い」

サンドイッチを齧りながら、俺もMと一緒になって眺める。

チャンミンもカイ君も、頭が小さく、抜群にスタイルがいい。

 

二人ともきれいな顔立ちだけど、タイプが違う。

チャンミンの頬骨は高く、目鼻口のパーツが大きくて、鼻筋も太いのに対し、

カイ君は、奥一重なのに大きな目で、女の子のような細くて高い鼻梁。

といった風に。

(って、おい!

ちゃっかりしっかり観察してるんだ、自分ってば)

 

あれこれ考えこんでいたら、Mが俺の背中を叩く。

「Tさんのこといい加減に諦めて、二人のうちどっちかにしなよ、ユノ~」

「うぐっ」

「年下も新鮮でいいかもよ~」

口いっぱいにサンドイッチを頬張っていたから、むせてしまう。

 

「俺は男だぞ?

俺に迫られて、困るのは二人だろうが?」

 

「そんなの、迫ってから心配しなさいよ」

 

「アホか」

 

世の中、Tさんのように人間が出来ている奴ばかりじゃないのだ。

「ユノはどっちが好み?」

Mはとても楽しそうだ。

 

「分かんないよ。

そういう目で見たことないし...」

​「私だったら~、チャンミンかなぁ。

奥に秘めてる感がそそるじゃない?

で、ユノは?」

顔が熱くなっているのが分かる。

(おいおい。

なにドキドキしてんだ!)

「お、俺は...カイ君かなぁ?」

 

「えーそうなんだー」とケラケラ笑うMをよそに、

(なぜそこで、逆を言っちゃうんかなぁ)

​赤面しているのがバレないよう、ゴクリと水を飲んだ。

 

(つづく)

 

 

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