~チャンミン~
ランチタイム。
僕はカイ君とハウスを出て管理棟へ戻るところだった。
カイ君は僕の隣で、カボチャの原種がどうだとか、熱く語っている。
ふと、回廊を目をやると、ユノとMがベンチで昼食をとっているのを見つけた。
(ユノ...)
短い黒髪と、白いトレーナー、黒のスリムパンツとレースアップブーツ。
(モノトーンが、少年のようなユノの雰囲気によく合っている)
鼓動が早くなった。
今朝はユノのおふざけと、Tさんに邪魔されて、ユノとちゃんと話ができなかった。
「ごめん、また後で話をきくよ。
用を思い出した」
カイ君に断って、回廊に向かって走る。
近づいてくる僕に気づいたユノとMが、走る僕に注目している。
(恥ずかしいな)
「チャンミン、急いじゃって何かしら?」
Mが僕に尋ねたけど、僕は「どうも」とだけ頷いてみせてから、ユノに向き直った。
ユノは、もりもりとサンドイッチを食べている。
「ユノ!
あのっ...」
「どうしたどうした?」
ユノは、口の中の物を飲み込んで言った。
「ユノ、それは食べないで」
「は?」
「いいから、食べないで。ストップ」
「おい!
これは今朝買ったばっかりだから、悪くなってないよ」
ユノは、サンドイッチのパッケージの消費期限をチェックしているようだ。
「もう半分は食べっちゃったよ」
「残りは食べないで」
「なんで?」
「いいから!
食べないで」
「う、うん。
意味わかんないけど...わかったよ」
「ちょっと待ってて」
僕は、ぽかんとしている二人を残して、事務所へ急ぐ。
(もう少しマシな言い方ができればよかったのに...!)
自分のロッカーを開けて、今朝用意しておいた袋を持って再び二人の元に戻った。
(絶対、ユノは喜んでくれる)
ユノは食べるのをやめて、僕のことを待っていてくれていた。
「ユノ。
これ...お礼です」
手にした袋をユノに渡した。
「お礼?
よくわかんないけど、ありがと」
その時、僕の顔は多分、無表情だったかもしれないけど、内心ワクワクと楽しい気持ちだった。
「なんなのさ」
ユノは袋の中を覗いている。
隣のMも、ユノの手元を覗き込んだ。
「は?」
あんぐりと口を開けてるユノ。
「チャンミン。
お前、これ一人で食べろってことか!?」
「うん、そうだよ」
「あのな。
お前さんは、限度ってものを知らんのか?」
「だって、ユノ。
中華まん食べたいって言ってたから。
あの時は買ってあげられなかったし」
ユノは迷ったら全種類買うタイプだと知って、僕は中華まんを全種類買ってきたのだ。
誰かにお礼の品を用意する経験がない僕は、正解が分からない。
「俺を豚にするつもりか?
ま、いいや。
美味そうだねぇ」
ユノは文句を言いつつも、嬉しそうだ。
僕も嬉しい。
とっても。
(つづく)
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