~チャンミン~
「チャンミンさん、ため息ばっかりっすよ」
僕は砂利をならしながら、知らず知らずのうちため息を漏らしていたらしい。
カイ君はスポーツドリンクを喉をならして飲むと、口元を手首で拭った。
今日で、第3植栽地の復旧作業は終わりだ。
カイ君が助っ人で入ってくれたおかげで、作業は随分とはかどった。
カイ君は線が細そうにみえるが、タフで、暑い重い作業にも関わらず、弱音を吐かず楽しそうに仕事をしていたのが、好印象だった。
僕がため息をついていた理由は、ユノがいないから。
2泊3日の出張で不在だという。
職場が一緒だからと言っても、顔は合わせはしても、案外会話ができる機会は少ないものだ。
だから、ユノがいてもいなくても変わりはしないのだろうけど、無意識で彼を探している自分がいた。
近頃は自分の心境の変化に、いちいち驚かなくなっていた。
(ユノに会いたい。
顔が見たい!)
素直にそう思う。
ユノは今夜帰ってくるとのこと。
昨夜、僕は一大決心をして、あることをした。
思い出すだけで、汗が出てくる。
「チャンミンさん、顔が赤いですよ、恋わずらいっすか?」
カイ君が、冷たい飲み物を僕に渡しながら言った。
「えっ?」
「今の言葉で動揺したみたいだから、当たりでした?
チャンミンさんが、心ここにあらずなとこは、元々ですけどね」
僕はよっぽど驚いた顔をしていたんだろう。
「かまかけてみたら、図星だったんですね」
カイ君は、やれやれと首を振って、
「いつもポーカーフェイスだから、チャンミンさんって分かりにくいけど、
僕って、けっこう人のこと観察してますから、変化に敏感なんです」
僕の肩を叩く。
「スピードが大事です、チャンミンさん!」
(恋わずらい...なのか、これは?)
僕は、薬局の売場で立ち尽くしていた。
これは、3日前の仕事帰りのこと。
ネット注文してもよかったが、香りを確認できないのがネックだ。
実際に手に取って購入できる実店舗は少ないから、職場の近くのこの薬局は珍しい。
カラフルなボトルを手に取ったり、元に戻したりしているから、防犯カメラは僕にピントを合わせていたに違いない。
どれがいいのだろう?
『高原を吹き抜ける風のように爽やかで、フレッシュな香り』って?
全然イメージがわかない。
頭を抱えていると、見かねて近くにいた買い物客の女性が、「どうしました?」と声をかけてくれた。
「どれを選んだらいいのか、分からなくて...」
候補の3本を指し示す。
「香りで迷っているのね」
「はい」
「甘ったるくて色っぽいのと、お花のように華やかなもの、ハーブ系のリラックスできるもの、の中から選べばいいのね?」
彼女は、説明書きを読んで、僕にも分かりやすいようかみくだいて説明してくれた。
「うーん」
(この3つとも、何か違う...イメージに合わない)
黙り込んでしまった僕を見て、彼女は助け舟を出してくれる。
「これはどうかしら?」
商品棚から別の1本を手に取って、僕に渡した。
「これは柑橘系だから、レモンやグレープフルーツの香りね。
ただ、香りは残りにくいわよ?」
「これです、これにします!」
僕が求めていたイメージにぴったりだった。
「よかったわね」
「ありがとうございます」
深々とお辞儀をする僕に、その女性は「いいのよ」と笑って、自分の買い物に戻っていった。
レジに通して、僕は足取り軽く家路を急いだ。
(つづく)
[maxbutton id=”23″ ]