「わっ!」
肩の上の手の持ち主は、ユノだった。
激しく収縮した体の力を抜いて、深く息を吐き、チャンミンは
「お願いだから...」
ユノを睨む。
「もっと『普通に』入って来てよ!」
チャンミンは、怒鳴っていた。
チャンミンの剣幕に驚くユノは、白いシャツに黒のジャケットを羽織っていて、いつもよりフォーマルなファッションだった。
(出張だったから、スーツを着てるんだ)
ユノに対して腹をたてつつも、冷静に彼の全身を観察していた。
(違うピアスを付けている)
ユノの耳には、小さな黒い石が光っている。
腹を立てているチャンミンの様子にも、ユノは悪びれることなく、
「だって、チャンミン出ないんだもの。
心配だったからさ。...」
クスっと笑って肩をすくめた。
「僕の風邪はもう治ったよ!」
「万が一ってことがあるじゃん」
すっとチャンミンの目は細くなる。
「違うね!
ユノは、僕を驚かせようとしたかっただけだと思うな!」
「バレた?」
チャンミンはユノを真っ直ぐ睨みつける。
「ユノの行動パターンは、なんとなく分かりかけてきた」
ユノは、ふっと真剣な表情になる。
「ねぇ」
「何?」
チャンミンはまだ不機嫌な声だ。
「大丈夫?
気分が悪かったんじゃないの?」
ユノは先刻、チャンミンが洗面所でうつむいていたのを案じていた。
「頭が痛いのか?」
男性のものにしては赤みを帯びたユノの唇から、目をそらしながらチャンミンは、
「平気だって、ただの立ちくらみだよ!」
チャンミンは苛立っていた。
この時のチャンミンは、ユノの気遣いが少しだけ、少しだけうっとおしく思えた。
「それなら、いいんだけど...さ」
「ところで、ユノ!」
チャンミンは、リビングへ向かおうとするユノの腕をつかんだ。
「な、何?」
チャンミンから触れてくることは初めてだったから、ユノは、つかまれた腕を強く意識してしまう。
「僕はユノに聞きたいことがあるんだ!」
・
チャンミンはユノの腕をつかんで、リビングまで引っ張っていく。
「チャ、チャンミン?」
(話があるって...愛の告白か!?)
(いきなり過ぎんか?)
ユノをソファに座らせると、チャンミンはユノと向き合った。
(真面目な顔して...「好きです」とか言い出すんか?)
「ユノ!」
ユノの胸は高まる。
「どうやって家に入ったんだよ?」
(あれ?)
「それは~...アハハ~。
チャンミンは知らなくていいことだよ」
「そういうわけにはいかない!」
「...つまりだな。
お前んちのセキュリティの甘さが原因だ」
チャンミンは、目を細めている。
(ヤバッ。
チャンミン、怒ってる?)
「......」
(チャンミンが怒ってるとこ初めてかも...)
「あれくらい、俺の手にかかれば、赤子の手を捻るかのよう...」
「不法侵入」
チャンミンがぼそりとつぶやく。
「...だよね」
「犯罪!」
「うん、その通り」
「お願いだから、『普通に』入ってきてよ」
「ごめんなさい」
素直に謝るユノに、チャンミンもこれ以上キツく言えなくなった。
しゅんと肩を落としたユノのピアスが、きらりと光る。
(めちゃくちゃ言い訳するかと思ってたのに...)
チャンミンは声のトーンを落とす。
「...謝ってくれたから、気が済んだよ。
さぁ、仕切り直そう。
...って、えっ?」
ユノが両手で顔を覆っている。
(泣いてる?)
(つづく)
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