(25)時の糸

 

 

 

「わっ!」

 

肩の上の手の持ち主は、ユノだった。

 

激しく収縮した体の力を抜いて、深く息を吐き、チャンミンは

 

「お願いだから...」

 

ユノを睨む。

 

「もっと『普通に』入って来てよ!」

 

チャンミンは、怒鳴っていた。

 

チャンミンの剣幕に驚くユノは、白いシャツに黒のジャケットを羽織っていて、いつもよりフォーマルなファッションだった。

 

(出張だったから、スーツを着てるんだ)

 

ユノに対して腹をたてつつも、冷静に彼の全身を観察していた。

 

(違うピアスを付けている)

 

ユノの耳には、小さな黒い石が光っている。

 

腹を立てているチャンミンの様子にも、ユノは悪びれることなく、

 

「だって、チャンミン出ないんだもの。

心配だったからさ。...」

 

クスっと笑って肩をすくめた。

 

「僕の風邪はもう治ったよ!」

 

「万が一ってことがあるじゃん」

 

すっとチャンミンの目は細くなる。

 

「違うね!

ユノは、僕を驚かせようとしたかっただけだと思うな!」

 

「バレた?」

 

チャンミンはユノを真っ直ぐ睨みつける。

 

「ユノの行動パターンは、なんとなく分かりかけてきた」

 

ユノは、ふっと真剣な表情になる。

 

「ねぇ」

 

「何?」

 

チャンミンはまだ不機嫌な声だ。

 

「大丈夫?

気分が悪かったんじゃないの?」

 

ユノは先刻、チャンミンが洗面所でうつむいていたのを案じていた。

 

「頭が痛いのか?」

 

男性のものにしては赤みを帯びたユノの唇から、目をそらしながらチャンミンは、

 

「平気だって、ただの立ちくらみだよ!」

 

チャンミンは苛立っていた。

 

この時のチャンミンは、ユノの気遣いが少しだけ、少しだけうっとおしく思えた。

 

「それなら、いいんだけど...さ」

 

「ところで、ユノ!」

 

チャンミンは、リビングへ向かおうとするユノの腕をつかんだ。

 

「な、何?」

 

チャンミンから触れてくることは初めてだったから、ユノは、つかまれた腕を強く意識してしまう。

 

「僕はユノに聞きたいことがあるんだ!」

 

 

 

 

チャンミンはユノの腕をつかんで、リビングまで引っ張っていく。

 

​「チャ、チャンミン?」

(話があるって...愛の告白か!?)

​(いきなり過ぎんか?)

ユノをソファに座らせると、チャンミンはユノと向き合った。

(真面目な顔して...「好きです」とか言い出すんか?)

「ユノ!」

ユノの胸は高まる。

「どうやって家に入ったんだよ?」

​(あれ?)

「それは~...アハハ~。

チャンミンは知らなくていいことだよ」

「そういうわけにはいかない!」

「...つまりだな。

お前んちのセキュリティの甘さが原因だ」

チャンミンは、目を細めている。

(ヤバッ。

チャンミン、怒ってる?)

「......」

(チャンミンが怒ってるとこ初めてかも...)

「あれくらい、俺の手にかかれば、赤子の手を捻るかのよう...」

「不法侵入」

チャンミンがぼそりとつぶやく。

「...だよね」

「犯罪!」

「うん、その通り」

「お願いだから、『普通に』入ってきてよ」

「ごめんなさい」

素直に謝るユノに、チャンミンもこれ以上キツく言えなくなった。

しゅんと肩を落としたユノのピアスが、きらりと光る。

(めちゃくちゃ言い訳するかと思ってたのに...)

チャンミンは声のトーンを落とす。

「...謝ってくれたから、気が済んだよ。

さぁ、仕切り直そう。

...って、えっ?」

ユノが両手で顔を覆っている。

(泣いてる?)

 

(つづく)

 

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