「もう怒ってないから、ね?
ユノ、ごめん」
「......」
ユノは顔を覆ったまま、無言だ。
チャンミンはすっかり動揺してしまって、ソファまですり寄ってユノの膝に手を置く。
「ごめん、ユノ!」
「......」
ソファに座るユノを見上げる。
「機嫌を直して。
ほら、もう怒っていないから、な?」
「......」
ユノの口角が、上がってきた。
「クククク...」
「え?」
「アハハハハハ!」
堪えきれず笑い出したユノに、チャンミンの口はポカンと開いたまま。
ユノが自分をからかっていることに、気づくチャンミン。
「ちょっ、ひどいよ、ユノ!」
ふくれるチャンミンに、ユノはチャンミンの肩をポンポン叩いた。
「ユノさんは何のこれきし、簡単には泣かないんだな」
ユノは、再び機嫌を悪くしたチャンミンを覗き込む。
「機嫌を直して、チャンミン、ね」
自分の言動に、すぐさま反応するチャンミンを可愛らしく思えて、ユノは思わずチャンミンの頭をなぜていた。
「さぁ、一緒にご飯を食べようか。
腹が減ってるから機嫌が悪いんだね、僕ちんは?」
「子供扱いするな」
ユノの手を払って立ち上がったチャンミンだったが、耳まで真っ赤だった。
ユノに触れられてゾクゾクしていた、全身。
(だから、ユノのスキンシップに弱いんだって!)
キッチンに向かいながら、チャンミンは、感情をあらわにした自分に驚いていた。
感情が自分の胸内に激しく渦巻いていた。
胸の鼓動が早い。
(ユノといると、新しい僕が次から次へと、発見される)
~ユノ~
「美味しそうな匂い!」
「グラタンだよ」
チャンミンは、パッケージを見ながら答える。
「ほぉ、グラタンなんて凝ったものを」
「焼くだけだから」
白いキッチンカウンターの上は、オーブンと真新しい炊飯ジャーのみ置かれていて、スッキリとしている。
(チャンミンっぽいなぁ)
俺は、キャビネットの扉を開けたり、冷蔵庫の中を覗き込んでいると、チャンミンは
「ユノは邪魔だから、あっちに座ってて」
と、俺の背中を押した。
「はいはい」
リビングのソファに座って、キッチンに立つチャンミンを眺める。
(一週間前は、むっつり、モジモジ君だったのに、この変わりようは!)
ボヤキながらも、俺はチャンミンに見惚れていた。
(カッコいい奴やな)
実際、チャンミンは通り過ぎる人が思わず振り向いてしまうくらい、美しい容姿の青年だった。
ドームの中で、もの思いにふけっているチャンミンを見かけた時も、そう思っていた。
今は身近な存在になったからか、よりリアルに彼の美しさが分かる。
手足が長く、動作も冴えている。
鼻梁の額から伸びるラインが美しい横顔。
何度もオーブンを開け閉めしてみたり、冷蔵庫から飲み物を取り出して、テーブルに並べたりする動作が微笑ましい。
グラタンのパッケージを読む、くそ真面目な目元。
眉根を寄せて、タブレットを取り出し調べ物をしながら、つぶやいているところ。
グラタンの焼き具合をチェックして、「よし」と口に出してるところ。
それから、「不法侵入」をした俺に腹を立てて怒った表情。
チャンミンの気持ちが、表情に現れているところを見ることができて、幸せだと思った。
明らかに、彼の中で変化が起こったらしい。
嬉しくもあり、同時に「寂しい」と思った。
チャンミンに渡す予定の、お土産の入った袋を意識した。
(チャンミン、ごめんな)
心の中で、彼に謝った。
(つづく)
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