(30)時の糸

 

 

~チャンミン~

 

 

目を開けると、ユノと目が合った。

​ユノの真っ黒な瞳に映る僕と目が合う。

(わっ!)

彼のうなじから手を離して、身を引いた。

​(僕は...何をしたんだ?)

絶対に、ユノは「馬鹿野郎!」って怒鳴るに違いない。

 

(もしかしたら、平手打ちを食らうかもしれない)

​固唾をのんで、ユノを見守った。

(あれ...?)

口を両手で覆ったユノは、パタンとソファの背もたれに倒れた。

「......」

​ユノは、そのまま身動きしない。

「......」

「...ユノ?」

​ユノはソファの背もたれに頭をもたせかけて、天井をあおいだ格好のままだ。

「ごめん」

不安になった僕はユノの横に座って謝った。

​「ホントに、ごめん」

ユノの瞳がキョロリと動いて、僕と目が合う。

「えっと...そんなつもりはなくて...」

​へどもどする僕。

(やっぱり、殴られるかもしれない)

「ユノ...?」

ソファの上に膝立ちをして、ユノを見下ろした。

「チャンミン」

「う、うん!」

​​

(怒ってるよな......ん?)

まだ口を覆ったままのユノの瞳が三日月の形になった。

「チャンミン!」

「うわっ!」

名前が呼ばれた直後、僕の頭はユノの腕にタックルされていた。

​「ちょっ...!」

僕の首に巻かれたユノの腕は力強い。

「また、僕を絞め殺すつもりか?」

「......」

髪をぐちゃぐちゃにされた。

「ストップ!」

​​

​僕の頭はユノの脇に挟まれているわけで、押し付けられた固い胸を意識してしまう。

(参ったなぁ...)

「ストップだって......って、わっ!」

いきなりパッと解放された僕は、反動でソファから転げ落ちてしまった。

「ったいなぁ!」

​「おい、チャンミン君!」

見上げると、ユノは腕を組んで仁王立ちしている。

​「なんだよ?」

​ふくれて答える。

ユノに振り回されっぱなしの僕。

​「ごめん、とはどういうことだよ!」

​「えっ?」

 

「ごめんとはどういうことだよ!」

僕には、ユノの言葉の意味が分からなかった。

​「それは...ユノに、悪いことしたなって」

「ほほぅ」

「だから、ごめん」

​「悪いことしたって、チャンミン君、何しちゃったの?」

「ぐっ」

(口に出して言えないよ、そんな恥ずかしいこと)

「悪いことって、な~に?」

ユノは小首を傾けて、にっこり笑った。

「教えて、チャンミン?」

​「ユノに...その...キ、キスしちゃって...悪かったなって」

ユノはニヤニヤ笑っている。

(ユノはまた、僕をからかっている!)

「ねぇ、チャンミン」

仁王立ちしていたユノは、再び僕の隣に座った。

「後で謝るくらいなら、キスなんてするな!」

「え?

どういう意味?」

 

(つづく)

 

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