~ユノ~
すぅっと、チャンミンの顔が近づいてきた時。
不意打ちだった。
驚く間もなく、チャンミンにキスされていた。
でも、目の前にある、閉じられた彼のまぶたを見て、「ああ、そういうことか」と思った。
自分の唇にそっと優しく重ねられた、チャンミンの唇の感触。
唇の感触で分かる。
チャンミンは、リラックスしていて全然緊張していない。
かといって、慣れた感じでもない。
いやらしさのない、素直なキスだった。
うまく説明ができないけれど、腑に落ちた。
うぬぼれじゃなく、チャンミンは俺を想ってくれていると。
俺も彼のことを想っていると。
そして、チャンミンとこうなることは、当然のことだと。
次から次へと、あらわになっていくチャンミンの真の姿に、俺はついていけない。
だんまりむっつり君かと思っていたけど、そうではない。
チャンミンとの距離が近くなって、まだ一週間。
たった一週間の間で、チャンミンは芽吹いた若葉のようにのびのびと本来のキャラクターを出してきているみたいだ。
きっかけは何だっていい。
俺はチャンミンがこうなってくれることを、ずっと望んでいたから。
・
「...今も、頭が痛いことあるんか?」
スプーンですくった、とろっと柔らかいレアチーズケーキを口にほおばった後、チャンミンに尋ねた。
冷たくなめらかな舌ざわりと、ブルーベリージャムの酸味、甘さ控えめのチーズクリームが絶妙でスプーンの手が止まらない。
チャンミンは、少しの間を置いた後、
「...あるといえばあるし。
...なんともないよ」
軽く笑って、そう言った。
「どっちだよ!」
「うーん...支障はあるかな、日常生活に」
チャンミンはスプーンをくわえたまま、ぐるっと視線を天井に向けた。
チャンミンが注文したチーズケーキは、ケーキというよりプリンに近くて、切り分けることもできず、そのままスプーンですくって食べている。
床に直接座って、一つのケーキを二人で分け合ってる。
(全く、俺たちはいつも、何かを食べている。
一週間前は、ヨーグルトを食べてたんだっけ?
一週間!?
まだそれだけしか経っていないんだ!)
「週明けには、病院へ行くんだよ」
チャンンミンが淹れてくれた濃くて美味しいコーヒーをすする。
「薬を処方してもらわないと」
チャンミンは、口角を下げる。
「直接行かないとだめなのかなぁ。
ネットで済ませようと考えてたんだけど?」
「駄目だめ!
ちゃんと診てもらわんと」
「面倒だなぁ」
「自分の身体のことだろ?
俺が一緒についていってやらんと怖いのか、チャンミン?」
「...ユノ!
僕を小学生みたいに扱うのはやめて欲しい」
他愛のない会話をしているうち、大きなチーズケーキはあっという間になくなった。
「俺らって、大食いなんだね」
「8割はユノが食べた」
「逆だよ逆!
食いまくったのはお前の方だ」
「ユノは運動はしていないの?」
「してない。
毎日がエクササイズだ」
「そうなんだろうと思った」
「どういう意味だよ」
「体型がどうこうじゃなくて、ユノの性格的に」
「ストイックじゃないって意味か、こら?」
「深く考えないで」
「チャンミン。
お前こそ、何かやってんの?」
「どうして?」
「細いのに、ぺらっとしてないじゃん」
「そうかなぁ」
「も一回見せて」
「何を?」
「とぼけるな、チャンミン!
見せろ見せろ」
「やめろって、ユノ!」
「ペロッとめくってみせるだけでいいから!」
「恥ずかしいから!」
「今さらなんだよ!
お前の大事なとこも、もう見ちゃってるんだぞ、こっちは!」
「あの時の話はするなー!」
(あっ!)
リストバンドが震える。
(電話だ)
つかんでいたチャンミンの腕を放した。
(このタイミングに、これだもの)
「ごめん、電話に出ていいかな?」
俺はチャンミンに身振りで、部屋の外へ出ることを伝えた。
チャンミンの部屋のドアを開けて、廊下へ出る。
着信をボタンをタップして、通話状態にした。
「はい」
『こんばんは、ユノ』
思わず舌打ちしてしまう。
「夜遅く、何なんなのさ?」
(つづく)
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