(45)時の糸

 

 

~チャンミン~

 

 

ユノは抵抗もせず、おとなしく僕の腕の中におさまっていた。

僕は小刻みにふるえるユノの背中をさすった。

憎まれ口を叩く、いつも元気なユノの声が今では弱弱しくて、僕の胸は痛くなる。

​​

(ごめん、ユノ。

僕がぼんやりしていたばっかりに…)

気温も低くお互いずぶ濡れで、さすったくらいじゃ彼を十分に温めてあげられないけど。

今はこうしてあげるのが精いっぱいだ。

僕のせいでユノをこんな目に遭わせてしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

さっきまで興奮状態で寒さどころじゃなかった僕も、Tシャツ1枚で足元から這い上がる寒気で震えていた。

ユノのニット越しに、ユノの体温がじわじわと、凍り付きそう僕の身体にじわじわと伝わってくる。

くっついているとあったかいな。

僕のあごの下にユノの濡れた髪があって、視線を横に移すと鳥肌の立った白い首。

知らず知らずのうちに、ユノを観察してしまう。

ユノの耳たぶには、ピアスの穴。

先週、僕の家にユノを招いた時、綺麗な石のついたピアスをしていたっけ。

そのピアスがマフラーにひっかかってしまって、不器用なユノを見かねて僕が代わりに取ってあげようとして、それから...。

それから...?

瞬間、首と頬が熱くなってきた。

ユノにキスしたこと思い出してしまった。

「俺たちはいい年した大人なわけ!いちいち謝るな」って怒ってたよな。

キスひとつでしつこく思い出してみては赤面している僕は、ユノの言う通り「お子様」なんだろうな。

水中に浸かった太ももから足先までは、じんじんと痛いほどなのに、胸や腕はこのように温かくて。

そういえば、ユノを抱きしめるのはこれが初めてだ。

換気ダクト口から放水していた水の勢いが、若干弱まってきたようだ。

ユノは身体の前で固く交差していた手をほどいた。

(お!)

ユノのほどいた手が、そのまま僕の背中にまわされる。

そして、ユノの温かい息が僕の首筋の一か所を温めた。

僕の背中に回されたユノの手を意識した。

(なんだか感動する)

僕を子供扱いばかりしているユノが僕を頼っている。

ちょっと嬉しかったりして。

どうか僕の体温が、ユノのかじかんだ手の平を温めますように。

ユノに対して腹を立てていた気持ちは、どこかへ行ってしまっていた。

あの時、ユノはカイ君の隣を歩いていたけど、今はこうして僕の腕の中にいる。

「少しはマシになった?」

「うん」

ユノは僕の肩に、額をぴったりとくっつけたまま頷いた。

「落ちてくる水も落ち着いてきたみたいだよ」

「うん」

「水が引かないとドアを開けられないからさ。

ユノ、ちょっとだけ頑張ってくれるかな?」

「動かすんだろ?」

「少しは身体は動く?」

「うーん、5分位なら」

「ぷっ、5分って...根拠は?」

「あのな、下半身の感覚がないわけ。

キンキンに凍り付いてるわけ」

「そうだよね、ごめん」

僕の腕の中で、ユノは僕と目を合わせた。

「あらら。

チャンミン君、顔が赤いよ」

いつもは目を細めてニヤニヤ顔で僕をからかうユノなのに、今の彼はかすかにほほ笑んだだけ。

「そうかな?」

寒さで震えているユノが可愛らしい。

新鮮な思いでユノを見ていると、

「すごいね、こんな時にTシャツ1枚でさ。

やっぱ鍛えてると、熱量が違うのかな」

「寒いに決まってるだろ!」

まだ少し勢いが足りないけれど、いつものユノに戻っている。

もうしばらくの間、こうしていたかったのに。

少しだけ残念。

我ながら大胆な行動をしてしまったことに考えが及んだら、カッと首が熱くなってきた。

「意味わかんないこと言ってないで。

ほら、手伝って!」

僕は腕を開いて、ユノの肩を押し出した。

「ちぇっ」

ユノは口をゆがめて、渋々といった風に発電機の脇に立つ。

僕もユノの向かい側に立って、フレームを握る。

相当重い。

持ち上げるのは無理だけど、引きずれば何とかなりそうだ。

氷のように冷えた鉄に、ユノからもらった体温が吸い取られるようだ。

「チャンミン」

「ん?」

「ありがとな」

「何が?」

「あのなぁ、チャンミン。

​毎度のことだが、いちいちすっとぼけるのはおやめ」

あきれた表情のユノの顔が赤くなっていた。

「ユノも顔が赤くなってるよ」

ユノも照れていることがわかって、僕はなぜか嬉しかった。

「チャンミンのくせに生意気だぞ」

「ははっ」

 

 

(つづく)

 

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