「初めまして」
ユノが差し出した手を握るYKを、チャンミンは無表情に眺めていた。
「俺はユノ。
カイ君の後輩です。
さすが姉弟、似てるねぇ」
この頃にはユノの顔色も戻っていて、ソファから立ち上がるとカイとYKを交互に見て言った。
無言で突っ立ったままのチャンミンを、ユノは見かねて脇をつつく。
チャンミンは「何だよ?」と眉をひそめてユノを睨む。
「あんたも自己紹介するんだよ」と、ユノはチャンミンの耳に囁く。
チャンミンは、YKの刺すような視線に居心地の悪い思いをしていたのだ。
(僕を見るなよ。
この人...YKとか言う人が、カイ君の姉だったなんて...)
そんな二人を興味深げに眺めていたカイは、くすっと笑ってチャンミンを手で差し示した。
「この方は、チャンミンさん」
「!」
ひっ、と息をのむ音は、YKのものだった。
片手で口を覆い、目を見開いている。
「嘘...でしょ?」
驚きを隠せないでいる姉の姿に、弟のカイはチャンミンに問うような視線を送った。
「あれ?
チャンミンさん、姉ちゃんと知り合いだったの?」
「え、ええ」
チャンミンの返答を待たずに答えたYKに、彼は激しく首を横に振った。
YKの傷ついたような表情に、チャンミンは内心で「止めてくれよ」とつぶやく。
「あれ?
そうだったの!?」
まっすぐにチャンミンを見るYKの真剣みに、ユノは気付かれないようチャンミンの脇腹をつつく。
チャンミンの方も助けを求めるように、ユノのニットの裾を引っ張った。
(チャンミンの知り合いが登場するなんて...!
調査に漏れがあったのか!?)
平静を装っていたが、ユノは慌てていた。
(まずいな...。
ひとまずチャンミンをここから連れ出そう)
「姉ちゃん、まだ食べるものは残ってるだろうし、あっちで食べておいでよ。
酒もいっぱいあるよ」
YKのただならぬ様子に、気をきかせたカイはドームの方へ親指を立てた。
「え、ええ」
YKは「あなたも行くでしょ?案内して」と、カイの二の腕をつかんだ。
「オッケ。
ユノさんも元気になったみたいだし。
僕らはあっちへ行ってるから。
欲しいものがあったら、適当に見繕ってきましょうか?」
「ありがと。
今んとこ腹はいっぱいだ」
事務所を出るまで、YKはチャンミンの方を何度も振り返るから、彼は顔を背けていた。
・
事務所にチャンミンとユノの二人きりになった。
チャンミンは大きくため息をつくと、どかっとソファに座り込んだ。
いつにないチャンミンの荒々しい行動。
「なあ、チャンミン。
カイ君のお姉さん...YKさんとどっかで会ったことがあるのか?」
「ない。
...でも」
「でも?」
ユノの心臓の鼓動が早くなっていた。
(チャンミンの行動は見張っていたんだが...。
チャンミンと彼女と、どこで接点があったんだ?)
「さっき...。
僕に抱きついてきて...」
「なんだってぇ!?」
(抱きついてきた...だと!?
センターに戻って、直ぐに調べないと!
Sは?
まずはSに相談だ!)
リストバンドを素早く操作して、Sにメッセージを送る。
「ユノ...帰ろう。
今すぐ...」
「お、おう!
そうしよう!」
チャンミンの顔色は真っ青になっていた。
「気分悪いのか?」
「......」
「Mに声をかけてくるから、あんたはここで待ってなさい」
ユノはチャンミンにそう言いおいて、ドームの方へ向かいかけた。
(また火のそばに行くのは気がすすまないが...)
「!」
チャンミンの腕が素早く伸ばされて、力いっぱい引っ張り寄せられた。
「危ないなぁ!」
ユノは抗議の声をあげた直後、背後からチャンミンの腕にくるまれた。
「...チャンミン」
「......」
ユノは後ろ手にチャンミンの頭を撫ぜてやる。
「あの人...僕のことを『マックス』って、呼んだ」
「マックス!!!」
思いがけず大声を出してしまい、焦ったユノは「マックスって誰だろうな...」と取り繕った。
(まずい...まずいぞ!
ここで『マックス』が登場するなんて!)
(つづく)
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