(70)時の糸

 

 

「初めまして」

 

ユノが差し出した手を握るYKを、チャンミンは無表情に眺めていた。

 

「俺はユノ。

カイ君の後輩です。

さすが姉弟、似てるねぇ」

 

この頃にはユノの顔色も戻っていて、ソファから立ち上がるとカイとYKを交互に見て言った。

 

無言で突っ立ったままのチャンミンを、ユノは見かねて脇をつつく。

 

チャンミンは「何だよ?」と眉をひそめてユノを睨む。

 

「あんたも自己紹介するんだよ」と、ユノはチャンミンの耳に囁く。

 

チャンミンは、YKの刺すような視線に居心地の悪い思いをしていたのだ。

 

(僕を見るなよ。

この人...YKとか言う人が、カイ君の姉だったなんて...)

 

そんな二人を興味深げに眺めていたカイは、くすっと笑ってチャンミンを手で差し示した。

 

「この方は、チャンミンさん」

 

「!」

 

ひっ、と息をのむ音は、YKのものだった。

 

片手で口を覆い、目を見開いている。

 

「嘘...でしょ?」

 

驚きを隠せないでいる姉の姿に、弟のカイはチャンミンに問うような視線を送った。

 

「あれ?

チャンミンさん、姉ちゃんと知り合いだったの?」

 

「え、ええ」

 

チャンミンの返答を待たずに答えたYKに、彼は激しく首を横に振った。

 

YKの傷ついたような表情に、チャンミンは内心で「止めてくれよ」とつぶやく。

 

「あれ?

そうだったの!?」

 

まっすぐにチャンミンを見るYKの真剣みに、ユノは気付かれないようチャンミンの脇腹をつつく。

 

チャンミンの方も助けを求めるように、ユノのニットの裾を引っ張った。

 

(チャンミンの知り合いが登場するなんて...!

調査に漏れがあったのか!?)

 

平静を装っていたが、ユノは慌てていた。

 

(まずいな...。

ひとまずチャンミンをここから連れ出そう)

 

「姉ちゃん、まだ食べるものは残ってるだろうし、あっちで食べておいでよ。

酒もいっぱいあるよ」

 

YKのただならぬ様子に、気をきかせたカイはドームの方へ親指を立てた。

 

「え、ええ」

 

YKは「あなたも行くでしょ?案内して」と、カイの二の腕をつかんだ。

 

「オッケ。

ユノさんも元気になったみたいだし。

僕らはあっちへ行ってるから。

欲しいものがあったら、適当に見繕ってきましょうか?」

 

「ありがと。

今んとこ腹はいっぱいだ」

 

事務所を出るまで、YKはチャンミンの方を何度も振り返るから、彼は顔を背けていた。

 

 

事務所にチャンミンとユノの二人きりになった。

 

チャンミンは大きくため息をつくと、どかっとソファに座り込んだ。

 

いつにないチャンミンの荒々しい行動。

 

「なあ、チャンミン。

カイ君のお姉さん...YKさんとどっかで会ったことがあるのか?」

 

「ない。

...でも」

 

「でも?」

 

ユノの心臓の鼓動が早くなっていた。

 

(チャンミンの行動は見張っていたんだが...。

チャンミンと彼女と、どこで接点があったんだ?)

 

「さっき...。

僕に抱きついてきて...」

 

「なんだってぇ!?」

 

(抱きついてきた...だと!?

センターに戻って、直ぐに調べないと!

Sは?

まずはSに相談だ!)

 

リストバンドを素早く操作して、Sにメッセージを送る。

 

「ユノ...帰ろう。

今すぐ...」

 

「お、おう!

そうしよう!」

 

チャンミンの顔色は真っ青になっていた。

 

「気分悪いのか?」

 

「......」

 

「Mに声をかけてくるから、あんたはここで待ってなさい」

 

ユノはチャンミンにそう言いおいて、ドームの方へ向かいかけた。

 

(また火のそばに行くのは気がすすまないが...)

 

「!」

 

チャンミンの腕が素早く伸ばされて、力いっぱい引っ張り寄せられた。

 

「危ないなぁ!」

 

ユノは抗議の声をあげた直後、背後からチャンミンの腕にくるまれた。

 

「...チャンミン」

 

「......」

 

ユノは後ろ手にチャンミンの頭を撫ぜてやる。

 

「あの人...僕のことを『マックス』って、呼んだ」

 

「マックス!!!」

 

思いがけず大声を出してしまい、焦ったユノは「マックスって誰だろうな...」と取り繕った。

 

(まずい...まずいぞ!

ここで『マックス』が登場するなんて!)

 

 

(つづく)

 

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