~チャンミン16歳~
女の子には人並みに興味がある。
僕には相応しくないと散々馬鹿にしているけれど、やっぱり興味がある。
学校で、街で、それからメディアで、可愛い女の子や綺麗な女の人を見れば、じっと見てしまう。
腰の奥にぐんと力がこもって、抑えきれない波を隠すのに必死だった。
自室で、風呂場でトイレでと、彼女たちを想像の中で裸にして、自身の先をいじっている。
四六時中、セックスのことばかり考えている。
女の子相手にエッチなことをする妄想が、近ごろはおかしな方向にいってしまっているんだ。
・
変な夢を見た。
僕と義兄さんが裸になって抱きあっていた。
義兄さんの肌の温かさや匂い、弾力が夢の中にしてはリアルだった。
僕は、義兄さんを抱いたらいいのか、抱かれたらいいのか分からなくてパニックを起こしていた。
僕と義兄さんはただ、抱き締めあうだけだ。
義兄さんのものが僕の腹に触れていて、僕はそっとそれを握った。
でも、その先が分からない。
僕の方も下腹の底が痛いくらいに疼いていて、そこに手を伸ばす。
そこにはあるべきものがなくて、僕は再びパニックを起こしかけた。
義兄さんは「それでいいんだよ」と、僕の背を撫ぜた。
そっか、僕は女の子になったんだ。
おかげで義兄さんとセックスができるようになった、と安堵と喜びで胸がいっぱいになった。
義兄さんを受け入れられる身体になれた僕は、義兄さんを受け止める。
どくどくと、たぎっていたものを開放させた直後、僕は目を覚ました。
くちゃりと濡れた不快な感触に、舌打ちし、唸るようなため息をついた。
何やってんだ?
浅ましい自分が恥ずかしい。
家族が起き出してこない早朝で助かった。
汚れた下着を洗いながら、僕は情けない気持ちと、開き直った清々しい気持ちの両方を抱えていた。
夢の中の僕は、どう動いたらよいか流れが分からずに、戸惑っていた。
そんな僕をリードした義兄さん。
何も知らない僕と、慣れている義兄さん。
未だ童貞の僕と、経験豊富な義兄さん。
...フェアじゃない。
「好きだ、付き合いたい」と僕に近づいてくる者は多くても、そのうちの誰とも付き合ったことがない。
僕の方から想いを告げるに価する者と出逢ったこともない。
付き合うとはイコール、ヤルことだろう?
チャンスはいくらでも転がっていたのに、意にそぐわないと全員退けてきた。
「チャンミンはもう済ませたクチ?」
「そんなところ」
「だろうなぁ。
いいなぁ、チャンミンは選びたい放題だもんなぁ」
スカした顔してて、実はそれの経験がない僕は、カッコ悪すぎる。
エロい想像力ばかりたくましくさせていて、実体験がない。
夢の中とはいえ、まごついていた自分はダサすぎる。
なんとかしないと。
経験の数ばっかりは越えられないけど、全てにおいて経験不足のガキだと思われたくなかったんだ。
義兄さんの上になるのか、それとも下になるのか、どっちに転ぶのだろう。
彫刻のように美しく逞しい義兄さんを四つん這いにさせるのか。
それとも...僕が女の子になればいいのか。
夢の中で僕は義兄さんのものを受け入れていた。
思い出していたら、僕のものが首をもたげてきた。
たまらず僕は下ろした右手で包み込み、しごく。
家族がいつ起き出してくるか、ヒヤヒヤしながらの自慰は、僕を異常に興奮させた。
自身の手で与える快感しか知らない僕は、カッコ悪すぎる。
早くなんとかしないと。
・
答えを出すのが怖くて、認識したら最後、本当のことになってしまうと避けていた考え。
もう認めてしまおうと、腹を決めた。
僕に色めき立った視線を送る女子学生、ときどき男子学生。
僕に色めき立った視線を送る教諭をはじめとする、大人たち。
僕に相応しくないと、露とも心惹かれなかった。
僕に相応しいか相応しくないかの線引きとは、一体何なのか?
答えは、僕がその人に興味を持っているか持っていないか。
興味を持っている、なんてぬるい言い方をやめて、もっとストレートに言う。
その人の側に近づきたいと、望むか望まないか。
もっともっと、はっきり言う。
義兄さんのことが気になって仕方がない。
それだけじゃなく、義兄さんにはもっと僕に興味を持って欲しい。
義兄さんは僕に相応しい人だ。
だって、僕は義兄さんのことが嫌いだから。
僕よりもうんと年上で、成功している大人な義兄さんが嫌いだ。
僕の何倍も綺麗な顔をしていて、天使の笑顔を見せる義兄さんがずるい。
よりによって僕の姉さんと結婚している義兄さんが憎い。
うっとりと目を潤ませて、男の僕を見る義兄さんが嫌いだ。
見て欲しい、触って欲しいと僕にそう思わせる義兄さんが嫌いだ。
姉さんと結婚している義兄さんが大嫌いだ。
嫌いなのに、義兄さんが恋しい。
この感情が恋ならば、僕は義兄さんに恋をしている。
だから、義兄さんは僕に相応しい人なんだ。
(つづく)