義弟(10)

 

~ユノ33歳~

 

 

「欲しい物、ある?」

 

夕飯の食卓で、俺はBに尋ねた。

 

「急にどうしたの?」

 

Bはサラダをつつくフォークを止めた(体重管理に情熱を燃やしている)。

 

う...似てる、とドキリとした。

 

きょとんとした顔が、チャンミンに似ていた。

 

そっくりとまではいかないが、例えばやや離れ気味の目だとか、太めの鼻筋といった顔のパーツの造りが似ていた。

 

Bも美人だが、チャンミンのような凄みのある端正さに欠けていた。

 

「もうすぐ誕生日だろう?

リクエストがあれば、と思って。

俺が勝手に選ぶより、Bが欲しいものをピンポイントで贈った方が、嬉しいだろう?」

 

「そんなこと言っちゃって、本当はもう用意してるくせに」

 

「えっ!?」

 

思い当たることが全くなかったから、Bが言うことにクエスチョンマークだった。

 

「私、見ちゃった」

 

Bには無邪気なところがあって、そこが彼女の美点であり、俺が惹かれた理由のひとつだ。

 

Bをモデルにした絵画の制作過程で、濃密な時間を共有した。

 

差し込む日差しを逆光にして窓辺に立たせたり、チャンミンに見せたもののように、あのソファに横たわらせたりもした。

 

憑かれるように制作に没頭し、小作品も含めれば、5点ほど完成させた。

 

Bを手に入れて俺は、幸福のはずだった。

 

ところが、初対面から俺をじとりと湿った睨みをきかせたチャンミンに、俺はショックを受けた。

 

ただのガキ相手にムキになる必要はないし、姉弟仲もイマイチなようだったから、親戚づきあいでも大した接点はないだろうと、放っておけばよかった。

 

妻の弟...チャンミンを無視できなかった。

 

幸福な新婚生活から、意識が反れている自分がいて、その度に自分で自分を叱り飛ばす。

 

当初のじとりと湿った睨み目が、最近ではほとんどお目にかからなくなり、微笑してみせることもあり、俺は嬉しかった。

 

怪我して保護した野良猫が、背中を逆立てて唸っていたのが、徐々に気を許し俺の手から餌を食べるようにまでなった...そんな感覚。

 

「見ちゃった、って?」

 

Bの思わせぶりなひと言が気になって尋ねたら、彼女は椅子から立ち上がった。

 

食卓テーブルを回って俺の背後に立つと、俺の首に腕を巻きつける。

 

「ユノ...優しいあなたが好きよ」

 

Bもチャンミンもすらりと痩せていて、押しつけられた薄い胸を背中いっぱいに感じて、俺の胸が苦しくなる。

 

もちろん、Bの場合は二つの膨らみはあるが、チャンミンの場合はそうじゃない。

 

妻の弟に手を出すなんて淫らなことはしていないし、そもそもチャンミンは子供で、男だ。

 

そうであっても、後ろからチャンミンの姉に抱きつかれて、同じ行為をチャンミンがしたら...なんて想像をしてしまった。

 

チャンミンとどうにかなりたい願望を抱いていることの発見に、困惑していた。

 

Bだけを愛していればよかったのに、俺の心にもう一人加わってしまった。

 

その人物の存在感が増してきた。

 

Bへの罪悪感も増してきた。

 

物事が複雑になってしまった。

 

 

「ユノの耳たぶが好き。

こんなに沢山、いくつピアスを付けていたの?」

 

俺の耳たぶを食みながら、Bはふぅっと熱い息をふきかける。

 

チャンミンと血のつながった女なんだと意識すると、一瞬で湧きあがった欲情は強いものとなる。

 

俺はどうかしている。

 

軽々と抱きかかえられる小柄なBと、長々とソファに横たわったチャンミンの身体。

 

Bの首筋に舌を這わせながら、チャンミンの浅黒く滑らかな肌を想った。

 

可愛らしい声で喘ぐBに、俺の指示に従って浅く開いたチャンミンの唇が浮かんだ。

 

俺の動きに合わせて揺れるBの胸と、振動に合わせて音をたてる真珠の首飾りと、のけぞったチャンミンの喉。

 

Bの中をしつこく荒々しく貫きながら、同様のことがチャンミン相手にできそうな気がした。

 

 

翌朝、Bに見送られ、振り返ると俺に手を振るBが満ち足りた表情で、「そうだった、俺たちは新婚だった」と思い至る。

 

胸がきしんだわけは、もちろん罪悪感によって。

 

車に乗り込んだ時、昨夜のBの「見ちゃった」の言葉の訳を知った。

 

Bに車を貸したんだった。

 

助手席に置いたままだった、某ブランドの紙バッグ。

 

艶やかなネイビーのリボンでラッピングされたその中身は、Bのためのものじゃない。

 

誕生日をとっくに迎えていたチャンミンのために用意したものだった。

 

このことを失念していなければ、「悪い、あれはチャンミンへのものなんだ」と答えていたのに。

 

チャンミンと毎週顔を合わせている俺たちの仲だし、彼はBの弟で子供で男だから、Bが不信がる余地なしだ。

 

でも。

 

どうってことない風に、「チャンミン宛のものなんだ」とさらりと言えただろうか。

 

わずかな動揺の色に、チャンミン宛のものじゃなく、どこかの女宛のものなんじゃないかと、Bは疑うかもしれない。

 

そこまで考えが及んでしまうのは、義弟へ贈るにしては高価なもので、贈り物に込めた想いが決してカジュアルなものじゃないせいだ。

 

チャンミンに何かを贈りたかった。

 

誕生日といういい口実に、のっかってみた。

 

「16になりました」とむすりと答えたチャンミン。

 

チャンミンの誕生日なんて全然頭になかったことに、彼に対して悪いことをしたと思った。

 

馴染みのショップで、じっくり時間をかけて選んだ。

 

大人の男のプライドにかけて選び抜いた、とっておきのものを。

 

ムキになっていたんだ。

 

揃って帰っていったチャンミンとMちゃんの後ろ姿に、お似合いだと思った。

 

制服姿のチャンミンとカラフルなMちゃんとでは、ちぐはぐな感じはしたが、私服になればしっくりとくるだろう。

 

年も近い。

 

「あの」チャンミンがMちゃんと連れだって行くとは、彼女から何か通じるものを感じとったのかもしれない。

 

悔しいが、2人はお似合いに見えた。

 

あらためて、俺とチャンミンとの歳の差を思い知らされた。

 

21の女の子に、妙な対抗意識を抱く俺はやっぱり、どうかしてる。

 

 


 

 

~ユノ35歳~

 

 

「義兄さん、どうでした?」

 

チャンミンは俺の肩や耳たぶを、ふざけて甘噛みしながらそう尋ねた。

 

「新しいクリーム、どうでした?」

 

「いいんじゃないかな?

乾きにくいし」

 

「ふふふ。

そうでしょう?」

 

チャンミンが言うクリームとは、男同士のアレに使うもののことだ。

 

なんでも、知人から手に入れたからぜひ試してみたいと、放課後に尋ねてきたチャンミン。

 

いつものように、事務所のソファの上で絡み合う。

 

俺に揺さぶられて揺れるチャンミンの胸が、ブラインドが作る夕日で縞模様になっている。

 

「俺はもうギブだ」

 

チャンミンは、弛緩した俺の股間に顔を埋めている。

 

「ふふふ。

そう言わないで」

 

チャンミンは10代らしく、溢れんばかりの体力と精力を持ち合わせていて、会えば毎回求められる。

 

「チャンミン」

 

「はい」

 

「知人って...そっち関係のか?」

 

「義兄さんには関係ないことです」

 

どこで覚えてきたのか、舌を巧みに使って俺のものを育てていく。

 

「関係ないって言ってもなぁ...」

 

チャンミンにはチャンミンの、俺の知らない世界がある。

 

過去に、チャンミンのプライベートを垣間見ることがあり、多少なりとも俺も関わることもあって、あの時は辛かった。

 

チャンミンは放っておけない。

 

危なっかしい。

 

チャンミンは、俺が放っておけないことを知っている。

 

知ってて俺を煽るようなことをする。

 

最初はそうとは知らず、無鉄砲で世間知らずな子供だと呆れていたのだ。

 

「今日はマジでもう、ギブなんだ。

指で勘弁してくれ」

 

18歳のくせに、どこからそんな色っぽい、女みたいな甘い声を出せるのか。

 

驚きと満足感を味わいながら、チャンミンの中を荒すのだった。

 

 

 

義弟(BL)

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