~チャンミン16歳~
「...あの...お風呂...」
義兄さんに声をかけたが事務所には姿がなく、アトリエも覗いてみたけど、やっぱりいない。
出掛けているのかな、と事務所に引き返しかけたところ、声が聞えてきた。
それは窓の外からで、片面のブラインドが引き上げられたサッシ窓がわずかに開いていた。
窓の外がバルコニーになっていると、初めて知った。
電話中...?
「...ああ...遅くなるから」
姉さんと?
シャワーで温まった身体が一瞬で冷えた。
背後にいる僕に気付いて、義兄さんは「じゃあ」と言って通話を終らせた。
「帰ります」
もやもや重苦しい気持ちでいっぱいで、きびすを返してそこを立ち去ろうとした。
「送っていくよ」
「結構です!」
「チャンミン!」
力任せに肘をつかまれ、引き留められた。
「...っ放して...下さいっ!」
義兄さんの手を振りほどく。
「義兄さんはっ...結婚してるんですよ!」
「ああ、そうだよ」
「その通りだ」
「姉さんと結婚してるんですよ?」
「俺はお前の姉と結婚している。
でも、お前とキスをした」
「義兄さんはっ...!
僕にキスをして...。
後悔してるでしょう?
面白半分でしょ?」
大丈夫だと言い聞かせていたけど、本当は不安で仕方がなかったことだ。
「俺とお前のことは...。
結婚してるとかしてないとか、関係ないんだ」
「意味が分かりません...」
「分かってて誘ったんだろ?
それとも、からかっていたのか?」
「誘うだなんてっ...!
からかってなんていません!」
確かに僕は、知っている限りの色っぽいとされる表情や仕草を総動員させた。
振り向いて欲しい一心によるもので、義兄さんをからかうつもりは一切なかった。
だから、義兄さんの言葉は心外で、悲しかった。
義兄さんを睨みつける。
「その眼だよ!
そんな眼で俺を見るなよ...」
眉根を寄せた苦し気な義兄さん。
「僕はっ...キスしたかったから。
義兄さんとしたかったんだ...ずっと」
悔しくて悲しくて、じわっと涙が浮かんだ。
僕の肘をつかむ義兄さんの手が緩んだ。
「おかしいですよね?
僕は男なのに。
ずっと、義兄さんに触ってもらいたかった。
だから、『キスして下さい』って言ったんです。
からかってません。
本当のことを言ってたんです」
「...チャンミン」
ぐいっと引き寄せられて、義兄さんの固い胸に抱きとめられた。
~ユノ33歳~
「義兄さんは結婚してるんです!
僕は、『おとうと』です...!」
俺を思いとどまらせようとしての言葉なのか、それとも敢えて煽っているのか。
もし後者ならば、とんだ小悪魔だと思った。
だけど、必死な様子のチャンミンに、あらためて「この子は本気だ」と確信した。
「からかっているのか?」の質問で、チャンミンの本心を確かめた。
だから俺も、本気になると決意した。
「帰りは遅くなる」とBへ電話したのも、そのつもりでいた証しだ。
チャンミンの唇を塞いで黙らせる。
俺の腕と肩でチャンミンの頭を包み込み、唇を割って性急に舌を侵入させた。
「っん...っん...」
先ほどまでの彼の台詞が本心とは裏腹なものだった証拠に、チャンミンは俺の首にかじりつき喉を鳴らしている。
裸婦画ばかり描くアーティストで、デザイン関連の仕事をしていることもあって、異性関係が盛んそうに誤解されることも多い。
俺は今までもそうだったが、軽々しく浮気ができる質ではないのだ。
新婚の俺が、よりによって妻の弟と...それも未だ16歳のチャンミンと、そういう関係になりたいと、心の底から望んでいる。
頭のネジがゆるんでいるには違いないけれど、止められなかった。
チャンミンをモノにしたい。
この欲求は、単なる肉欲によるものだけなのか。
分からない。
大した会話を交わしたことはなく、お互い知らない事だらけだ。
それなのに、チャンミンと目と目が合うと、言葉を発しなくても互いに求め合っている心が通じ合っているのだ。
これまでの恋愛では体験したことのない...もちろんBと出逢った時でも...欲求だった。
チャンミンをモノにしたい。
生意気な美少年を貫いて、屈服させたい。
その後のことは...後で考えればいい。
妻がいる立場と、チャンミンとどうこうなるのは、別問題だ。
ずるい男だと、大いに責めてもらって結構だ。
チャンミンが欲しい。
(つづく)
[maxbutton id=”23″ ]