義弟(22-2)

 

~ユノ33歳~

 

出来上がったラフ案を見せるため、例のカフェに来ていた。

 

このカフェのオーナーX氏との打ち合わせを終え、「自由にオーダーしてくれ」に甘えて遅い昼食をとっていた。

 

店内一番奥の窓際が気に入りの席で、店内をぐるりと見渡せる。

 

5月の午後の陽光が、天井まである窓から降り注いでいた。

 

チャンミンと1か月以上、会っていなかった。

 

絵のモデルを4回、用事があるとか、体調が悪いとか、試験勉強とか理由を述べていた。

 

その連絡も、電話ではなくメールだったことに、がっかりしていた。

 

あんなことがあったから、仕方がない...か。

 

あの夜の記憶を思い起こしてみる。

 

チャンミンの唇の柔らかさ、そこから漏れる掠れた声。

 

女にはないもので、興奮と快感を俺の指に熱く伝えていた。

 

多分、最後まで進めてしまうのが正解だったのかもしれない。

 

途中で止めてしまったことに、チャンミンは傷ついただろう。

 

俺からの拒絶だと捉えたに違いない。

 

だから、俺の元を尋ねてこなくなった。

 

でも。

 

それでよかったのかもしれない。

 

結婚生活は壊したくない。

 

人生を複雑にしてしまうのは、御免だった。

 

テーブルに頬杖をついて、ガラス向こうの薄着になった人並みを眺めていた。

 

若い男も通り過ぎるが、チャンミンほどの端正な奴は当然、ひとりもいない。

 

若い女性に観察対象を移してみても、同様だ。

 

16歳の男子高校生に、想い煩うなんてなぁ。

 

夕方にはまだ早い時間、学生服姿が目立つから多分、テスト期間か何かなのだろう。

 

「あ...」

 

俺は席を立ち、店内の客に注目されるくらいバタバタと、店を出た。

 

十数メートル先の背中に向かって、俺は走る。

 

「チャンミン!」

 

振り向く前に、チャンミンの肘をつかんだ。

 

真ん丸の眼とは、こういうのを言うのだろう。

 

髪を切ったのか、前髪が短くなっていた。

 

濃いグレーのスラックスに黒のローファー、襟章のついた白いシャツとえんじ色のネクタイ。

 

高校生のチャンミン。

 

美しすぎる高校生。

 

「...義兄さん」

 

肘をつかんだ俺の手の上に、チャンミンの指がかかった。

 

放して下さいと...今度は俺の方が...拒絶されるのと思った。

 

ところが、チャンミンはふっと身体の力を抜き、小さく笑った。

 

「驚かさないで下さい」

 

「ごめん...見かけたから...」

 

チャンミンの肘から手を放そうとしたら、彼の指に力がこもった。

 

「久しぶりです」

 

「あ、ああ」

 

俺がどもってしまったのは、チャンミンの優しい笑顔を、初めて目にしたからだった。

 

まずいな。

 

やっぱり俺は、チャンミンが欲しい。

 

 


 

~チャンミン16歳~

 

 

Mの言葉。

 

「ユノさん、盗られちゃうよ」が、あれ以来ずっと、僕の頭にこびりついたままだった。

 

それは困る。

 

ただでさえ、姉さんに義兄さんを盗られているんだ。

 

義兄さんが僕のことを「いい」と思ってくれて、姉さんと別れて僕だけを見てくれるようになったとき...。

 

あり得ない、と思った。

 

だって、僕は義兄さんと結婚ができるわけがないし、まず第一に、彼は僕を拒絶した。

 

果たして、そうだったのかな?

 

「今日はここまでだ」の意味は、その言葉通りの意味で、「続きはまた今度」だったらいいな。

 

義兄さんに全てを任せるつもりでいたけれど、男を目の前にして、彼は困ってしまったのかもしれない。

 

女の子とのセックスに関しては、Mとの関係で大体のところは知っている。

 

Mとの行為は確かに気持ちがいいし、ムラムラを発散できるけど、心と身体が伴わない。

 

ヤレばヤルほど、心と身体の距離が広がっていく。

 

「僕がしたいのはこれじゃないんだ。でも、気持ちがよ過ぎて腰は勝手に動いてしまうし、どうしたらいいいんだ!」って。

 

Mのことは好きだけれど、それは恋愛感情じゃない。

 

Mには付き合っている人がいるし(それが例え中年男だったり、2股3股していても)、義兄さんに片想いしているから、僕とMは性欲解消のためのもの。

 

こんな風にいったらセフレみたいに聞こえるだろうね。

 

Mのとの行為を通して僕が知ってしまったのは、恋愛感情がなくてもセックスはできる、ということ。

 

腰の奥が弾ける瞬間、僕の心のもやりが消えてしまう。

 

他のことがどうでもよくなってしまう...日々溜めに溜めてパンパンに膨れ上がった不快なものを、腰の痙攣と共に吐き出してしまえるんだ。

 

Mとの会話は気楽だし、興味深い。

 

義兄さんに片想いしている同志で、互いが相手を義兄さんだと想定して貫いたり、貫かれたりしているんだと思う。

 

でも、僕は貫かれたい。

 

経験がないから、どんな感覚かは想像もできない。

 

女の子を押し倒すよりも、誰かに力づくで押し倒されたい。

 

男の人に...義兄さんに。

 

僕のセックスは下手くそで、セックスに向いていない、と言ったMの真意は多分、こうだ。

 

女の子とやるんじゃなくて、男とやる方に向いている。

 

僕はそういう意味に捉えたんだけど...間違っているかな?

 

(と言いつつも、女の子の裸にムラっとくることもあるから、自分の嗜好がよくわからない)

 

Mとの会話を通して、義兄さんが僕との行為にストップをかけた理由が、僕には分かってしまったんだ。

 

僕の胸を愛撫している手つきから、男との経験がある可能性を そうじゃなくて、義兄さんはただ、僕の身体を女の子として扱っただけなんだ。

 

だけど、いざコトに及ぼうとした時、目の前に横たわる身体が男のもので、怖気付いてしまったんだ、きっと。

 

全てにおいて経験豊富に見えた義兄さんでも、未経験のことがあるんだって。

 

それを知ってしまった僕の気分は、急上昇した。

 

なあんだ、簡単なことじゃないか。

 

義兄さんが未経験でとまどってしまうのなら、僕がリードしてあげればいい。

 

姉さんやその他の女の人たちなんか、足元にも及ばないくらい、僕の身体に溺れてしまえばいい。

 

「女とやるより、全然いい」と言わしめればいいんだ。

 

 

(つづく)

 

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