義弟(23)

 

 

 

~チャンミン16歳~

 

 

 

Mの言葉。

 

「ユノさん、盗られちゃうよ」が、あれ以来ずっと、僕の頭にこびりついたままだった。

 

それは困る、と思った。

 

ただでさえ、姉さんに義兄さんを盗られているんだ。

 

義兄さんが僕のことを「いい」と思ってくれて、姉さんと別れて僕だけを見てくれるようになったとき...。

 

あり得ない、と思った。

 

だって、僕は義兄さんと結婚ができるわけがないし、まず第一に、彼は僕を拒絶した。

 

果たして、そうだったのかな?

 

「今日はここまでだ」の意味は、その言葉通りの意味で、「続きはまた今度」だったらいいな。

 

義兄さんに全てを任せるつもりでいたけれど、男を目の前にして、彼は困ってしまったのかもしれない。

 

女の子とのセックスに関しては、Mとの関係で大体のところは知っている。

 

Mとの行為は確かに気持ちがいいし、ムラムラを発散できるけど、心と身体が伴わない。

 

ヤレばヤルほど、心と身体の距離が広がっていく。

 

「僕がしたいのはこれじゃないんだ。でも、気持ちがよ過ぎて腰は勝手に動いてしまうし、どうしたらいいいんだ!」って。

 

Mのことは好きだけれど、それは恋愛感情じゃない。

 

Mには付き合っている人がいるし(それが例え中年男だったり、2股3股していても)、義兄さんに片想いしているから、僕とMは性欲解消のためのもの。

 

こんな風にいったらセフレみたいに聞こえるだろうね。

 

Mのとの行為を通して僕が知ってしまったのは、恋愛感情がなくてもセックスはできる、ということ。

 

腰の奥が弾ける瞬間、僕の心のもやりが消えてしまう。

 

他のことがどうでもよくなってしまう...日々溜めに溜めてパンパンに膨れ上がった不快なものを、腰の痙攣と共に吐き出してしまえるんだ。

 

Mとの会話は気楽だし、興味深い。

 

義兄さんに片想いしている同志で、互いが相手を義兄さんだと想定して貫いたり、貫かれたりしているんだと思う。

 

でも、僕は貫かれたい。

 

経験がないから、どんな感覚かは想像もできない。

 

女の子を押し倒すよりも、誰かに力づくで押し倒されたい。

 

男の人に...義兄さんに。

 

僕のセックスは下手くそで、セックスに向いていない、と言ったMの真意は多分、こうだ。

 

女の子とやるんじゃなくて、男とやる方に向いている。

 

僕はそういう意味に捉えたんだけど...間違っているかな?

 

(と言いつつも、女の子の裸にムラっとくることもあるから、自分の嗜好がよくわからない)

 

Mとの会話を通して、義兄さんが僕との行為にストップをかけた理由が、僕には分かってしまったんだ。

 

僕の胸を愛撫している手つきから、男との経験がある可能性を...そうじゃなくて、義兄さんはただ、僕の身体を女の子として扱っただけなんだ。

 

だけど、いざコトに及ぼうとした時、目の前に横たわる身体が男のもので、怖気付いてしまったんだ、きっと。

 

全てにおいて経験豊富に見えた義兄さんでも、未経験のことがあるんだって。

 

それを知ってしまった僕の気分は、急上昇した。

 

なあんだ、簡単なことじゃないか。

 

義兄さんが未経験でとまどってしまうのなら、僕がリードしてあげればいい。

 

姉さんやその他の女の人たちなんか、足元にも及ばないくらい、僕の身体に溺れてしまえばいい。

 

「女とやるより、全然いい」と言わしめればいいんだ。

 

 

 

 

「経験してみたいんだけど...?」

 

Mに相談した。

 

「『経験』って...もしかして...?」

 

僕は大きく頷いた。

 

「チャンミン、必死過ぎ!

そんなことしても、ユノさんは喜ばないよ」と、怒った。

 

「黙っていればいい。

僕の身体をどうするかは、Mちゃんに関係ないよ」

 

そう言ったら、Mは傷ついたような表情をした。

 

ストレッチ素材の薄いカットソーが、Mの大きな胸を強調していた。

 

先程まで彼女の胸を揉んでいたこの手が、義兄さんのアソコに触れたくて仕方がないのだ。

 

義兄さんの指であっさり昇天してしまった自分は、幼稚だった。

 

次は僕の指で、義兄さんを昇天させたい。

 

義兄さんに滅茶苦茶にされたい思いと、義兄さんを滅茶滅茶に悦ばせたい思い。

 

それから、僕ばっかり夢中でいるのは愉快じゃない。

 

だって、こんなに若くて綺麗な子が身を任せようとしていたんだよ。

 

あんなに盛り上がっていたのに、寸止めできるなんて、ずいぶんと余裕があるもんだな、って、すごく悔しかった。

 

「関係がないって...チャンミンって口が悪いのね」

 

「ごめん」

 

僕らはわりと何でも打ち明けあえる仲ではあるけど、身体を合わせている今この瞬間、思い浮かべているのは別の人。

 

僕はMと繋がりながら義兄さんを想い、Mの方も義兄さん、もしくは別の彼氏のことを想っているのだろう。

 

「心配してくれてありがとう。

ちゃんと考えた末のことだから。

Mちゃんだって好きな人がいても、セックスは別口だろ?」

 

「別口って...ひどいわね!」

 

Mはさっきよりも顔をゆがめて、傷ついたような顔をした。

 

「心と身体は切り離せられないものよ。

私は同時進行派なだけ。

心と身体はセットよ。

チャンミンの場合は、心はユノさん、身体は誰か別な人のつもりでしょ?」

 

「違う。

今のままじゃ、義兄さんへの想いが強くなりすぎて処理できないんだ。

熱を逃そうかな、って思ったんだ」

 

「だからって、別な人とヤルだなんて...。

まだ高校生でしょ?

身体張りすぎ!」

 

「それだけじゃなくて...経験しておいた方がいいと思うんだ」

 

「ユノさんと経験すればいいでしょうに?」

 

「...多分だけど...義兄さんも経験がないと思う。

姉さんと結婚してるし...そういう趣味がある人じゃないんだ」

 

Mを納得させるには、筋の通った説明ができないといけない。

 

「僕と初めてする時、義兄さんがまごまごする姿は見たくない。

だから...せめて僕だけでも慣れていたいんだ」

 

「...チャンミン」

 

「僕は、セックスに“向いてない”んだろう?」

 

「そう言ったかも。

でも、そんなに深刻に受けとられてしまったなんて...罪悪感」

 

「ううん。

Mちゃんの言葉で、霧が晴れたみたいなんだ。

それなら、“向いている”ことをすればいいんだろ?」

 

僕の顔をあっけにとられた風に見ていたMは、しばらくの間無言だった。

 

『ユノさん、盗られちゃうよ』の言葉を受けて、僕が考えたことだ。

 

Mはため息をつくと、ベッドの下に転がったスマホを拾い上げて操作をする。

 

「...相手は誰でもいいの?」

 

「変な奴じゃなければ」

 

「結婚している人の方がいいよね。

本気になられても困るでしょ?」

 

「うん」

 

「チャンミンは綺麗で、カッコいいからねぇ」

 

スマホに視線を落としたMのまつ毛が長かった。

 

そういうツテがあるMはすごい。

 

Mの恋愛は縦割りで、同時進行ができる。

 

僕の恋情はただ一人に向けられていて、悲しいことに思い通りにいかない。

 

だから、少しでも近づけるように、自分を磨かないといけないんだ。

 

義兄さんとの初めてのキス以来、どんな顔をして会えばいいか分からなくて、モデルのバイトを2回すっぽかした。

 

行けない理由も、リアルっぽい内容にしてみたけれど、そんなの嘘だとバレているだろうな。

 

次に会う時まで、僕は変わっていないといけない。

 

僕と...男と...抱きあうことなんて、大したことないんだよ、って義兄さんの重荷を軽くしてあげないと。

 

 

(つづく)

 

 

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