義弟(23)

 

~チャンミン16歳~

 

 

「経験してみたいんだ」

 

Mに相談した。

 

「『経験』って...もしかして...?」

 

僕は大きく頷いた。

 

「チャンミン、必死過ぎ!

そんなことしても、ユノさんは喜ばないよ」と、怒った。

 

「黙っていればいい。

僕の身体をどうするかは、Mちゃんに関係ないよ」

 

そう言ったら、Mは傷ついたような表情をした。

 

ストレッチ素材の薄いカットソーが、Mの大きな胸を強調していた。

 

先程まで彼女の胸を揉んでいたこの手が、義兄さんのアソコに触れたくて仕方がないのだ。

 

義兄さんの指であっさり昇天してしまった自分は、幼稚だった。

 

次は僕の指で、義兄さんを昇天させたい。

 

義兄さんに滅茶苦茶にされたい思いと、義兄さんを滅茶滅茶に悦ばせたい思い。

 

それから、僕ばっかり夢中でいるのは愉快じゃない。

 

だって、こんなに若くて綺麗な子が身を任せようとしていたんだよ。

 

あんなに盛り上がっていたのに、寸止めできるなんて、ずいぶんと余裕があるもんだな、って、すごく悔しかった。

 

「関係がないって...チャンミンって口が悪いのね」

 

「ごめん」

 

僕らはわりと何でも打ち明けあえる仲ではあるけど、身体を合わせている今この瞬間、思い浮かべているのは別の人。

 

僕はMと繋がりながら義兄さんを想い、Mの方も義兄さん、もしくは別の彼氏のことを想っているのだろう。

 

「心配してくれてありがとう。

ちゃんと考えた末のことだから。

Mちゃんだって好きな人がいても、セックスは別口だろ?」

 

「別口って...ひどいわね!」

 

Mはさっきよりも顔をゆがめた。

 

「心と身体は切り離せられないものよ。

私は同時進行派なだけ。

心と身体はセットよ。

チャンミンの場合は、心はユノさん、身体は誰か別な人のつもりでしょ?」

 

「違う。

今のままじゃ、義兄さんへの想いが強くなりすぎて処理できないんだ。

熱を逃そうかな、って思ったんだ」

 

「だからって、別な人とヤルだなんて...。

まだ高校生でしょ?

身体張りすぎ!」

 

「それだけじゃなくて...経験しておいた方がいいと思うんだ」

 

「ユノさんと経験すればいいでしょう?」

 

「...多分だけど...義兄さんも経験がないと思う。

姉さんと結婚してるし...そういう趣味がある人じゃないんだ」

 

Mを納得させるには、筋の通った説明ができないといけない。

 

「僕と初めてする時、義兄さんが手こずる姿は見たくない。

だから...せめて僕だけでも慣れていたいんだ」

 

「...チャンミン」

 

「僕は、セックスに“向いてない”んだろう?」

 

「そう言ったかも。

でも、そんなに深刻に受けとられてしまったなんて...罪悪感」

 

「ううん。

Mちゃんの言葉で、霧が晴れたみたいなんだ。

それなら、“向いている”ことをすればいいんだろ?」

 

僕の顔をあっけにとられた風に見ていたMは、しばらくの間無言だった。

 

『ユノさん、盗られちゃうよ』の言葉を受けて、僕が考えた結果がこれだった。

 

Mはため息をつくと、ベッドの下に転がったスマホを拾い上げて操作をする。

 

「...相手は誰でもいいの?」

 

「変な奴じゃなければ」

 

「結婚している人の方がいいよね。

本気になられても困るでしょ?」

 

「うん」

 

「チャンミンは綺麗で、カッコいいからねぇ」

 

スマホに視線を落としたMのまつ毛が長かった。

 

そういうツテがあるMはすごい。

 

Mの恋愛は縦割りで、同時進行ができる。

 

僕の恋情はただ一人に向けられていて、悲しいことに思い通りにいかない。

 

だから、少しでも近づけるように、自分を磨かないといけないんだ。

 

義兄さんとの初めてのキス以来、どんな顔をして会えばいいか分からなくて、モデルのバイトを2回すっぽかした。

 

行けない理由も、リアルっぽい内容にしてみたけれど、そんなの嘘だとバレているだろうな。

 

次に会う時まで、僕は変わっていないといけない。

 

僕と...男と...抱きあうことなんて、大したことないんだよ、って義兄さんの重荷を軽くしてあげないと。

 

 

(つづく)

 

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