義弟(24)

 

~チャンミン16歳~

 

 

Mが紹介してくれたのは40代半ばの男で、Mが付き合っている今彼の知人。

義兄さんがデザインを手がけたカフェのオーナーという彼...X氏...は、男でも女でもどちらでもイケる口とのこと。

既婚者で僕と同年代の子供がいるのに、後腐れのない『そういう関係』をあちこちに結んでいる遊び人だ。

X氏の車に乗り込んだ時、ガチガチになっている僕の緊張をほぐそうと、笑いを誘う話題を振ってくれた。

義兄さんの仕事関係の人だから、得体の知れない人物ではないはずだ。

だから、大丈夫。

どういう説明をMから受けていたのか分からないけど、X氏は僕の事情を追求することはなかったし、遊びのひとつだと捉えているみたいだったから、その点は気が楽だった。

車の中で、遠慮なく身体をまさぐられてたらどうしよう、という心配も不要だった。

身なりもきちんとしているし、手首に巻かれた腕時計もきっと高級品で、ハンドルを握る指の爪も綺麗に整えられていた。

 

(絵筆を持つ義兄さんを見つめ続けるうちに、人の指先に注意が向くようになっていたんだ)

 

カーウィンドウの外を流れ去る風景を、見るともなく眺めながら、「僕は一体、何をしようとしてるんだろう」と、自分の思いつきに愕然としてみたりして...。

X氏の野太い声は心地よく耳に響いた。

義兄さんに逢いたかった。

でも、今は未だその時じゃない。

翌日は休日で、この日学校から帰宅するとすぐ私服に着替えた。

夕飯について質問してきた母親に(塩味か味噌味か、どちらがいい?というもの)、友人の家に泊まりにいく旨を伝えた。

 

「友達って学校の?

あなたばっかり泊りに行って、向こうのご家族は迷惑じゃないの?」

 

母親がそう心配するのは当然のことだから、僕は「友達んちは両親がいないんだ」と適当なことをでっち上げた。

 

「あら...」と気の毒そうにする母親に、僕はしまったと思い、「そういう意味じゃなくて、両親とも夜は仕事でいないんだ」と、取り繕った。

 

自宅に呼んで呼ばれての、親しい友人なんて僕には一人もいない。

休み時間や選択教室へ向かう廊下で、雑談に講じる程度の級友がいるくらい。

僕の頭の中は、義兄さんのことでいっぱいだったし、義兄さんの存在を知らずにいる彼らがガキくさかった。

「一緒に食べなさい」と、母親におかずを詰めたタッパーを持たされ、「余計なお世話だ」と突き返せるほどの反抗心もない僕は、素直に受け取った。

さすがにこれを持ったまま、約束の場に行くわけにはいかない。

母親に見送られて玄関を出てすぐ、庭にまわり、サンルームの床下にそれを隠した。

待ち合わせ場所の例のカフェへは、早く到着し過ぎてしまい、飲めもしないエスプレッソを前にそわそわとしていた。

手の中にあるスマホを見つめながら、義兄さんの声が聞きたい、と、彼のアドレスを表示させた画面で、通話ボタンを押すか押すまいか迷っていた。

 

でも、今じゃない。

 

義兄さんから届いたこれまでのメールの文面を、ひとつひとつ読み返していると、ポンと肩に乗った手。

不意打ちだったから、X氏を見上げた時の僕は間抜けな顔をしていたと思う。

「食事をしていく?」の問いかけに、僕は首を横に振る。

お腹なんて全然空いていなかった。

自分が決めたことだし、覚悟は決めていたけれど、やっぱり怖気付いてしまう。

僕の不安なんて、X氏には手に取るように分かるんだろう。

 

「ユンホ君の奥さんの弟さんだって?」

 

「はい」

 

「世間は狭いなぁ」と言って、X氏は笑った。

 

X氏は縦にも横にも大きい人で、大らかな人柄っぽく見せてるけど、ぎょろりとした眼は鋭く観察するものだった。

多分、大丈夫...この人に任せていれば大丈夫。

ドキドキする胸を押さえて、内心で言い聞かせていたら、

 

「安心しなさい。

私に任せて、リラックスしていればいい」

と、僕の気持ちを見透かしているから、さすがだなぁ、と感心してしまった。

 

 

「あのっ...キスは...ダメです」

 

唇を寄せてきたX氏から顔を背けて言った。

 

「唇は好きな人のためにとっておきたい、わけね。

いいねぇ、若いなぁ」

 

大きな手...義兄さんの手よりも大きく分厚い...が、僕の裸の胸に押し当てられた。

 

「ドキドキしているね。

大丈夫?

今なら引き返せるよ?」

 

「...大丈夫です」

 

いよいよ始まるのだな、と深呼吸する。

そんな僕を見て、X氏は「ガハハハッ」と大きな声で笑うから、僕はビクッとしてしまう。

 

「君みたいな綺麗な子を前にすると、まるで犯罪者の気持ちになるよ」

 

「!」

 

「会った今日すぐに出来るわけないだろう?」

 

「え...?」

 

「君は本当に『何も知らない』んだなぁ。

可愛いね」

 

おいで、とベッドの上に手を引かれて、X氏に言われるままの姿勢になった。

ベッドの上で四つん這いになった僕の真横に、X氏は腰掛けた。

肩を上から押されて、X氏の方へお尻を突き出す姿勢にされた。

膝が震えているのが、自分でもよく分かる。

 

「大丈夫だから、リラックスして」

 

「でもっ...!」

 

「力を入れたままだと、痛いよ?」

 

「っひっ...!」

 

お尻にとろりとぬるいものが。

 

「最初は変な感じがするかもしれないが、我慢してるんだよ?」

 

「...はいっ」

 

僕の穴の周囲を、X氏の指が円を描く。

 

「...う...あっ...」

 

「息を吐いて...そうそう...いい子だ」

 

X氏の指が完全に僕の中に埋められた時、声にならない掠れた悲鳴を喉の奥で殺した。

 

 

「私の方も、気持ち良くさせてくれないかね?」

 

目の前に突き出されたモノに一瞬、たじろいだ。

嫌悪感に襲われたけれど、男を相手にするのはこういうことなんだ、と自分に言い聞かせた。

義兄さんのモノも、こんなに大きいのかな。

顔を背けたくなるのを必死でこらえて、咥え込んだ。

さんざん鑑賞したAVや、Mがしてくれた行為を思い出しながら、舌をつかった。

今の僕は、義兄さんを気持ち良くしてあげているんだ。

 

 

別れ際、X氏に握らされたものの正体が分からず首を傾げていると、彼は僕の耳元で囁いた。

 

「私からの贈り物だ。

次までに慣らしておくんだ、いいね?」

 

自宅前まで送り届けられたのはいいけれど、時刻は23:00。

早寝の両親はもう就寝した後で、見上げた窓はどれも真っ暗だ。

母親には泊まってくると出かけたのに、日付が変わる前に帰宅したら変に思うだろうな。

Mの説明通りX氏は、“そういうコト”だけしてお終い、の人のようだった。

てっきり一泊するものだと、思い込んでいた自分が恥ずかしい。

どうしようかな...。

義兄さんの顔がまた浮かんだ。

今からアトリエに行くには時刻は遅いし、もう帰宅しているに決まっている。

義兄さんが帰る場所...姉さんと暮らすマンション。

義兄さんの顔が見たかった。

今頃、義兄さんは姉さんとヤッているんだと想像すると、胸がギシギシ痛んだ。

落ち着け。

姉さんなんかとより、僕との方が断然よくなるから。

サンルームの下から母親に持たされたものを回収し、物音を立てないように家の中に忍び込んだ。

タッパーの中身を無闇に捨てるなんてことは、僕にはできない。

自分がひどくお腹を空かせていたことを思い出した。

あっという間に中身を平らげてしまった自分が誇らしかった。

X氏とのことなんて、取るに足らない事...僕は平気だ。

平気だ。

 

 

例のカフェの前で、義兄さんに呼び止められた日までに、僕はX氏と4回関係を持った。

自分でも慣らしていたけれど、いざコトに及ぶとなると難しくて。

怖がり痛がる僕を案じたX氏は、膝の上に僕をまたがらせて、時間をかけて慣らしてくれた。

X氏のものを受け入れられるようになったのは、3回目のときだ。

深く差し込んだまま、腰を前後左右に揺さぶられると、下腹の底からはじける快感の強さに悲鳴があがる。

ひんひんと喘ぐ僕の姿にたまらなくなったのか、キスしようとしたX氏の顎を押しのけた。

 

「駄目っ...駄目です」と。

 

身体の奥底がぞくぞくと痺れるこの感覚...。

 

「君は女みたいに柔らかい関節をしているね」

 

膝が床につくほど身体を折りたたまれて攻められていた時、X氏はこう言った。

 

「素質があるね」

 

「...あっ...あ...素質...って...?」

 

「『受け』の素質。

君の身体は、女みたいだ」

 

よかった、と思った。

X氏は僕を抱きかかえて立ち上がり、僕の背を壁に押しつけた。

X氏の首に両腕を、腰に両足首を巻きつけてしがみつく。

僕は目をつむり、義兄さんを想う。

僕は今、義兄さんに貫かれている。

 

「いいね。

締め付けてきている」

 

あそこが熱を帯びて、じんと痛い。

少しだけ義兄さんに近づけた気がして、僕は幸せだった。

これでよかったんだ。

僕が決めたことだ。

後悔はしていない。

 

(つづく)