~チャンミン16歳~
「でかい靴だね...モデルは男?
ははあ...チャンミン君だろ?」
玄関から最も遠いアトリエまで響く、よく通る笑い声だ。
「制作中なので、今日は勘弁してください」
義兄さんの制止など、構う人物じゃない。
「上がらせてもらうよ」
「Xさん!」
慌ててシャツに手を伸ばそうとしたが、それはアトリエの隅にあって、間に合わない。
新しい作品では、僕は上を脱いだだけの恰好だったから助かった。
僕はガウンの衿を深く合わせ、それでも足りなくて両腕で胸を抱きしめた。
・
義兄さんと結ばれた後も、X氏と関係を持っていた。
「チャンミン君...見なさい。
感じている時の君の顔...子供のくせにいやらしいね」
そう言って見せられたスマホ画面に、僕は全身の血の気が引いた。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
X氏のぎょろついた眼で見据えられると、首を横に振ることができない。
彼からはっきりと指摘されたわけじゃないけれど、僕の想い人が義兄さんだと知っているに違いない。
春先のカフェで、義兄さんと一緒にいた時のX氏の表情から、なんとなく...そう思った。
度胸と知識が欲しくて、ほんの数度だけのつもりでいたのに。
こんな状況、望んでいなかったのに。
X氏の腹の上で身をくねらせながら、僕は義兄さんを想った。
「君のそこは、私のものを簡単に飲み込むんだな。
彼氏は不思議に思わないかなぁ?」
「...え!?」
「君の彼氏はノンケなんだよね?
経験のない者でも、君のように慣れていたら、おかしいと思うけどね?」
義兄さんと初めてした時の、彼の反応を思い起こしてみた。
驚きと疑問の混じった、困ったような表情で、「平気なのか?」と僕に尋ねた。
義兄さんのことが好き過ぎるあまり、僕の身体は抵抗なく彼のものを飲み込んでしまう...そう思って欲しかった。
大胆なことができるのも、義兄さんへの恋情の深さゆえによるものだって、信じて欲しかった。
義兄さんは...疑ったんだろうか...。
妙に慣れているな、って。
僕の初めてが義兄さんじゃないことに、気付いただろうか。
その疑念が僕を不安にさせ、X氏の上で揺らしていた腰が止まってしまった。
破裂音の直後、左尻がかっと熱くなり、X氏に尻を張られたことが分かった。
「知ったら...彼氏は軽蔑するだろうね?
...もしくは、場慣れした子だって、君を軽く扱うかもしれないね」
「...そんな」
「普通の男女のお付き合いとはわけが違うことに、そろそろ気付いた方がいいんじゃないかな。
君はまだ16だろう?
16のくせに、中年オヤジの上で尻を動かしてるんだ。
...普通じゃないよ」
「義兄さんが初めてです」と言ってあげたかった。
でも、義兄さんのことだ。
僕の嘘なんてすぐに見破って、それどころか騙されたフリをし続けてくれそうだ。
義兄さんが欲しいあまりに選択した行動が、今になって僕の首を絞めてきた。
いかに軽率だったかを、今さら後悔してももう、遅い。
僕の腰をつかむX氏の腕からすり抜け、僕はバスルームへ走った。
身体の穢れを洗い流さないと...遅すぎるけれど。
(つづく)
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