義弟(32-1)

 

~チャンミン16歳~

 

 

「でかい靴だね...モデルは男?

ははあ...チャンミン君だろ?」

 

玄関から最も遠いアトリエまで響く、よく通る笑い声だ。

 

「制作中なので、今日は勘弁してください」

 

義兄さんの制止など、構う人物じゃない。

 

「上がらせてもらうよ」

 

「Xさん!」

 

慌ててシャツに手を伸ばそうとしたが、それはアトリエの隅にあって、間に合わない。

新しい作品では、僕は上を脱いだだけの恰好だったから助かった。

 

僕はガウンの衿を深く合わせ、それでも足りなくて両腕で胸を抱きしめた。

 

 

義兄さんと結ばれた後も、X氏と関係を持っていた。

 

「チャンミン君...見なさい。

感じている時の君の顔...子供のくせにいやらしいね」

 

そう言って見せられたスマホ画面に、僕は全身の血の気が引いた。

 

どうしてこんなことになってしまったんだろう。

 

X氏のぎょろついた眼で見据えられると、首を横に振ることができない。

 

彼からはっきりと指摘されたわけじゃないけれど、僕の想い人が義兄さんだと知っているに違いない。

 

春先のカフェで、義兄さんと一緒にいた時のX氏の表情から、なんとなく...そう思った。

 

度胸と知識が欲しくて、ほんの数度だけのつもりでいたのに。

 

こんな状況、望んでいなかったのに。

 

X氏の腹の上で身をくねらせながら、僕は義兄さんを想った。

 

「君のそこは、私のものを簡単に飲み込むんだな。

彼氏は不思議に思わないかなぁ?」

 

「...え!?」

 

「君の彼氏はノンケなんだよね?

経験のない者でも、君のように慣れていたら、おかしいと思うけどね?」

 

義兄さんと初めてした時の、彼の反応を思い起こしてみた。

 

驚きと疑問の混じった、困ったような表情で、「平気なのか?」と僕に尋ねた。

 

義兄さんのことが好き過ぎるあまり、僕の身体は抵抗なく彼のものを飲み込んでしまう...そう思って欲しかった。

 

大胆なことができるのも、義兄さんへの恋情の深さゆえによるものだって、信じて欲しかった。

 

義兄さんは...疑ったんだろうか...。

 

妙に慣れているな、って。

 

僕の初めてが義兄さんじゃないことに、気付いただろうか。

 

その疑念が僕を不安にさせ、X氏の上で揺らしていた腰が止まってしまった。

 

破裂音の直後、左尻がかっと熱くなり、X氏に尻を張られたことが分かった。

 

「知ったら...彼氏は軽蔑するだろうね?

...もしくは、場慣れした子だって、君を軽く扱うかもしれないね」

 

「...そんな」

 

「普通の男女のお付き合いとはわけが違うことに、そろそろ気付いた方がいいんじゃないかな。

君はまだ16だろう?

16のくせに、中年オヤジの上で尻を動かしてるんだ。

...普通じゃないよ」

 

「義兄さんが初めてです」と言ってあげたかった。

 

でも、義兄さんのことだ。

 

僕の嘘なんてすぐに見破って、それどころか騙されたフリをし続けてくれそうだ。

 

義兄さんが欲しいあまりに選択した行動が、今になって僕の首を絞めてきた。

 

いかに軽率だったかを、今さら後悔してももう、遅い。

 

僕の腰をつかむX氏の腕からすり抜け、僕はバスルームへ走った。

 

身体の穢れを洗い流さないと...遅すぎるけれど。

 

 

(つづく)


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