~チャンミン17歳~
義兄さんのものを頬張った。
僕が知っている限りの舌づかいで、義兄さんをイカせてやろうと必死だった。
渦巻く不安感に押しつぶされそうで、胸が苦しい。
どうしてだろう。
義兄さんは僕のことを「大事」だと言ってくれたのに、なぜだか不安がつのるんだ。
「好き」じゃなくて、「大事」と言ったことに、こだわった。
・
切羽詰まった思いにかられて、義兄さんの部屋へ駆けつけてしまったのは、どうして?
目覚めた時、義兄さんがいるはずの場所の白いシーツがいやに眩しく映った。
義兄さんは忙しい身、イベント会場に向かわなければならなくて、眠り込んでいる僕を起こさないように気遣ってくれたことは分かっていたけれど。
僕を起こさずに帰ってしまったことを不当に感じたのだ。
ほんの2時間前まで、僕は義兄さんの腕の中という安心感に包まれて、うとうととしていた僕。
義兄さんは僕に語りかけていた。
眠りに落ちる直前、確かに聞こえていたのがこの部分。
『俺とチャンミンとは、親子ほどじゃないけど、年が離れている。
チャンミンとXさんは親子以上に年が離れている。
俺とチャンミンの付き合いを、冷静に第三者の目で見てみたんだ』
夢うつつの中、この台詞から何か不穏な空気を感じ取っていたんだろう。
X氏との対峙や、義兄さんに捨てられるかもしれない不安、荒々しく抱かれて2度も達して疲れ切っていた僕は、この台詞の意味を深く考えてみる余裕がなかった。
でも、この話の結末は決して前向きなものではないのでは?と。
義兄さんの話を最後まで聞いてしまったら、現実として受け止めなければならなくなる。
僕の深層は敏感に察して、義兄さんの話を聞くまいと、睡魔を襲わせたのだ。
第三者の立場から見た僕らは、真っ当な恋人同士じゃない。
大人な関係にスリルを感じていられたのも最初のうちで、近頃は好きなだけ会えない関係に不満を感じるようになってきた。
でも、僕は不満を口にしないように、我慢していた。
だって、不満をこぼしたりなんかしたら、義兄さんの性格からして、
「俺は結婚をしているんだ。
もっと会いたいと言われても、俺は困ってしまう。
我が儘を言って俺を困らせるなら、止めようか?
別れよう」
...と、結論を出してしまいそうで。
1年以上もX氏と会っていた僕を、義兄さんは許してくれた。
その上、僕を責めるのでななく、義兄さん自身を責めていた。
これは予想外だった。
義兄さんが責任を感じる必要なんてないのに。
僕らの関係が内緒なのは、常識的に許されない仲だからだ。
『第三者の目で見てみたんだ...』
この後に続いてゆく台詞は、簡単に想像がつくよ。
『俺たちは、関係を持ってはいけなかったんだ。
世間的に間違っている。
だから俺たち...」
目覚めた時、隣にいるはずの義兄さんが消えていて、僕はぞぅっとした。
脱ぎ散らかした服を着て、義兄さんの部屋に駆けていた。
僕の思い過ごしでありますように!
・
姉さんがもうすぐこの部屋にやってくる。
エレベータに乗ってこの部屋まで2、3分?
カードキーを持っているだろうから、チャイムを鳴らした後すぐに部屋に入ってくるだろう。
姉さんが来る前に終わらせなければならない。
急がないと。
義兄さんを早くイカせないと。
焦った僕は、喉奥で締め付けながら頭を前後に振った、可能な限り早く。
僕の口の中で、義兄さんのものが一回り膨らんだような気がした。
張り詰めたそれはより固くなって、血管のふくらみまで舌でたどれるくらいだ。
僕の後頭部に回った義兄さんの手の平に力がこもった。
押しのけられるかと思っていたから、それが嬉しくって。
喉の奥に先端が当たって、えずきそうになったけどぐっと堪えた。
唇から顎へとだらだらと唾液が垂れる。
義兄さんはつかんだ僕の頭を上下にシェイクする。
吸い上げながら同時に、握った手も素早く動かす。
横になっている義兄さんの腰も揺れる。
早く、急いで!
えずきに耐えるごとに、僕の目尻から涙がこぼれ落ちる...。
・
吐き出されたものを、飲み込んだ。
義兄さんのものを...1滴残らず舐めとって綺麗にしたものを、スウェットパンツの中に納めてやった。
そして、横になったままの義兄さんに手を貸して起き上がらせた。
「......」
義兄さんも僕も肩で息をしていた。
ベッドに腰掛けた義兄さんは、前かがみになって何度も髪をかきあげている。
怒っているみたいな、悲しんでいるみたいな苦し気な表情だった。
二人とも無言だった。
僕は涙で濡れた両目を拳でこすった。
1度だけチャイムが鳴り、遅れて荷物を運んできたスタッフに「ありがとう」と言う声。
ハッとしたような義兄さんの表情。
眉間のシワが消え、頬のこわばりが解けた。
そうだった...義兄さんには奥さんがいる。
よりにもよって、僕の姉さんという。
喉元で息が詰まって、苦しくなった。
すくっと立ち上がり、ベッドルームを出ていく義兄さんの背中。
ラフな格好だから、義兄さんの美しく均整がとれた後ろ姿がより際立っていた。
Tシャツもスウェットパンツも脱がせてしまった義兄さんの後ろ姿なんて、簡単に想像できる。
だって、僕は全部、知っているんだもの。
義兄さんは部屋を出る間際、僕の方を振り向いて頷いてみせたけど、どういう意味なのか僕は分からなかった。
隠れていろ、ってこと?
まさか...ね。
乱れた髪を整え、濡れた口元を拭った。
勃ちあがりかけたままのそこの位置を直した。
「久しぶり~。
何日ぶり?」
姉さんの甘えた声。
「相変わらずだな、B。
荷物がすごい」
慣れ親しんだ者に対する、義兄さんの優しく寛いだ声。
口の中は義兄さんの匂いと味でいっぱいなのに、心が寒い。
「もうすぐ出かけなくちゃいけないんでしょ?
着替えていないじゃないの」
どんな顔をして二人の前に出てゆけばいいんだろう。
クローゼットの中に隠れようかと、本気で思ったくらいだ。
「...チャンミンが来てるんだ」
僕の名前が出て、ドキンと心臓が大きく打った。
幸せそうな夫婦っぷりを見せつけようとする義兄さんを、残酷だと思った。
でも。
ここには誰もいないと、僕を隠そうとされる方よりはマシだった。
僕は観念して、ベッドルームを出た。
惨めだった。
(つづく)
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