義弟(66)

 

 

~チャンミン17歳~

 

 

胃からこみ上げるものに耐えられず、僕は洗面所へ走った。

 

うつむいて直ぐに、胃の中のものを全部戻してしまった。

 

出し切ってもえずきはおさまらず、全身を痙攣させていた。

 

「はあはあはあはあ...」

 

全部吐き出して、僕の中で渦巻く不快な感情まで出し切ってしまった爽快感があった。

 

涙と鼻水、胃液でべたべたの酷い顔をしているだろう。

 

僕は汚い。

 

X氏の侵入を1年以上許してきた僕は汚い。

 

「チャンミンは汚くないよ」と義兄さんがどれだけ否定しても、この気持ちを消すことができなかった。

 

僕はこれからどうすればいいんだろう?

 

まずはどろどろになった顔をどうにかしないと、とシャワーの蛇口をひねり、洋服を脱いだ。

 

ほとばしり出るシャワーの下に立った。

 

仰いで顔全体で熱いシャワーを受け、ボディソープをつけた手の平を身体のすみずみまで滑らせた。

 

昨夜も念入りに洗ったけれど、全然足りない。

 

汚い身体を綺麗にしないと。

 

義兄さんに愛された身体であっても、今の僕は汚れている。

 

昨夜のX氏の行為を思い出してしまいそうになり、僕は意識を即シャットアウトさせた。

 

代わりに義兄さんを想った。

 

...身体じゅうキスの雨を降らし、吸って舐めて、時間をかけて念入りにほぐし広げる指。

 

下腹の緊張が高まり、後ろの奥がうずうずしてきた。

 

2本の指で押し広げたそこに、、水量をあげたシャワーヘッドを近づけた。

 

熱をもってじんじん痛いそこに、指を侵入させた。

 

...義兄さんのものが埋められる...深く侵入させたまま僕の腰を小刻みに揺する。

 

...義兄さんのものを離さないとばかりに、僕の中はうごめきそれを締め付ける。

 

「...っはぁ...んんっ...」

 

バスタブに片手をつき、後ろにまわした片手で自身を慰める。

 

人差し指だけじゃ足りない、中指を足した。

 

全開にしたシャワーが僕の背中を叩く。

 

湯気とシャンプーのいい香りに包まれ、感じ入る僕の視界は真っ白なバスタブだけ。

 

腸壁を3本の指でかきまわし、弱いところばかり狙って刺激した。

 

「...あっ...あ、ああぁっ...」

 

膝の力が抜け、僕はバスタブの中にしゃがみ込んだ。

 

しゃがんだ姿勢で、再度指を突っ込んだ。

 

子供のくせに馴れた身体だと言われた。

 

X氏にも...それから義兄さんからも同じことを言われた。

 

X氏の顔が浮かびそうで、僕はぎゅっと目をつむり、義兄さんの顔とすりかえた。

 

僕の身体は...特にそこは浅ましくいやらしいのだ。

 

だから今も、自分で慰めないといけないほどなんだ。

 

前を刺激しなくても、後ろだけで容易に達せられるんだ。

 

「...あっ...あっ...」

 

出入りさせるちゅぽちゅぽいう音も、僕の背とバスタブに打ちつけるシャワーの音でかき消されている。

 

がくがくと顎が痙攣する。

 

目をつむっても視界は白い、目をあけても湯気で真っ白で、白に囲まれた僕はまっさらに清潔なんだ。

 

タイル張りの浴室に、こもった僕の喘ぎがよく響き、自分の喘ぎで興奮度が増した。

 

膝が震えてしゃがんでいられなくなった僕は、バスタブの底に卵みたいにうずくまった。

 

僕の指の動きは止まらない。

 

...両膝を抱えた僕にのしかかった義兄さん。

 

...真上から鋭く刺し貫かれて、強烈な快感でしゃくりあげる僕。

 

手首のスナップをきかせて、出し入れさせるスライドを大きくした。

 

いいところばかりこすりあげた。

 

股間の昂ぶりに耐えられないところまでいった瞬間。

 

...裸で抱き合う義兄さんと姉さんの姿が思い浮かんだ。

 

僕の想像力が、今まで見たことのない光景を見せたのだ。

 

指を引き抜いた。

 

「はあはあはあはあ...」

 

冷水にしたシャワーで、赤く火照った顔と身体、それからそこを冷却した。

 

苦しい、この恋は苦しい。

 

恋は苦しい。

 

じわっと浮かんだ涙を手の甲で、乱暴にごしごしこすった。

 

2日前、ウキウキ気分でこの地を訪れ、スタイリッシュにまとめられたこの部屋に、心躍っていた自分が遠い。

 

たった2日で、ここまでの雲泥の差を作ってしまった原因ってなんだろう。

 

...僕だ、僕のせいだ。

 

まっさらな立場になりたくて、体当たりでX氏に迫ったことが失敗してしまった。

 

義兄さんにバレてしまった。

 

義兄さんは赦してくれた。

 

浴室を出た僕は、ぞんざいに身体を拭き身支度をした。

 

熱いシャワーを浴び過ぎたせいで暑い、汗がひくまでトップスは身に付けずにいた。

 

バッグをベッドの上に放り出すなんて乱暴な動作が、僕らしくなかった。

 

ファスナーを開けた時、

 

「...あ」

 

触れたものは、バッグの底に忍ばせていた小さな紙袋。

 

義兄さんへの誕生日プレゼントだ。

 

結局、渡せずじまいになってしまった。

 

「......」

 

僕はそれをバッグの底に戻すと、クローゼットに納めた洋服、ほとんど開くことのなかった参考書、洗面用具をバッグに詰めた。

 

今すぐ帰ろうと心に決めたのだ。

 

義兄さんは夜、会おうと言ってくれたけど、その時まで僕は待てなかった。

 

待つ時間が辛い。

 

だから、帰ってしまおうと思ったのだ。

 

そんな僕を...義兄さんに心配してもらいたかった。

 

荷造りを終え忘れ物がないか、室内をまわってチェックした。

 

最後に、トレーナーを着ようとした時。

 

...なかった。

 

急いで荷造りしたから、今日着るつもりのトレーナーも一緒に詰め込んでしまったんだ、きっと。

 

バッグの中身をひっくり返した。

 

...ない!

 

クローゼットには何もかかっていないハンガー、空っぽの引き出し。

 

ベッドの下を覗き、枕の下もシーツの隙間も、部屋中すみずみまで探した。

 

ない!

 

義兄さんに買ってもらった、大事なトレーナーがなかった。

 

昨日もそれを着ていた。

 

イベント会場に行くつもりだったから。

 

それがどこにあるか、僕にはわかっていた。

 

X氏の部屋だ。

 

あの部屋で服を脱いで、それから...。

 

僕の部屋に戻ってきた時、僕は半袖Tシャツ姿だった。

 

X氏の部屋に、大事な洋服を置いてきてしまったんだ。

 

 

(つづく)

 

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