(14)僕の失恋日記

 

20歳になったばかりの僕。

「好きだから付き合おうか」の合図無しで、いわゆる深い仲になった。

僕らは友人同士だった。

それぞれが、失恋中だった。

映画やドラマで見る、寂しさを紛らわすための、慰め合いの行為。

僕らの行為も、この類のものだったんだろうか?

いよいよ、この疑問に取り掛かることにしたようだ。

1度や2度なら、成り行きと勢い任せのもので、深い意味はなかったと、ぎりぎり忘れることができた。

さすがに、4度、5度となると、明確な理由が欲しくなる。

「なぜ、僕らは抱き合ってしまうのか?」

最初のうちは、戸惑っていたんじゃないかなぁ。

僕もユノも軟派じゃない。

関係性に名前をきちっと付けたいタイプだと思う。

僕らは『いい子』過ぎて、身体だけの関係だと割り切ることができなかった。

ユノの場合は特に、未だ彼氏と別れていないうちに、僕と寝てしまったんだ。

それなのに、罪悪感を抱いてもおかしくないのに、ユノの表情からその片鱗を見つけることができなかった。

罪悪感どころか、僕との行為をとても楽しんでいる様子で、僕は嬉しかった。

CCのことで落としどころを見つけようと、さんざん使ってきた頭を、ユノのことに使う時がきたようだね。

 


 

ー15年前の4月某日ー

 

僕の失恋はリアル恋愛のそれと同じくらい、真剣で辛いものだと見なしていた。

僕はCCが好きで好きでたまらなかった。

でも、この好きは常に一方通行のものだ。

告白する機会は現れないし、僕がCCをもっと好きになろうと冷めようと、彼には影響を与えない。

リアクションを得られないということはつまり、CCの反応をドキドキ窺う必要がないのだ。

 

このことに気づけたのは、もちろん...ユノのおかげだ。

 

『僕らの関係って...何だろう?

どうして抱き合っているんだろう?』

 

ユノの気持ちを知りたい。

その前に、僕の思いも紐解いておかないと。

僕の言葉にユノはどんな反応を見せるのかな。

僕の言動と表情は、ユノに影響を与えるし、その逆も同様。

ここがCCへの恋愛とは大きく異なる点だ。

 


 

ー15年前の4月某日ー

 

生温かい夜。

雲で半分隠れた月。

ベランダの床にあぐらをかいて、二人でビールを飲んだ。

350ml缶ビール

計5本(うち僕3本)

おつまみ

ポテトチップス

キュウリ丸かじり

 

 

【ユノとの会話】

「彼氏はどんな人だった?」

 

ユノ

「見た目は熊で、性格はリス」

 

「彼のどこが好きだった?」

 

ユノ

「悲しいかな、過去形。

そうだなぁ...好きだったところかぁ。

...どこかなぁ。

う~ん...全体。

全体、かな」

 

「全部好き、ってこと?」

 

ユノ

「それとはちょっと違うなぁ。

どこが好きとは言えないけど、

嫌いになる理由がない、と言った方が近いかなぁ」

 

「へえぇ」

 

ユノ

「チャンミンはCCのどこが好きなんだ?」

 

「...顔」

 

ユノ

「はははっ!

正直でいいねぇ」

 

「だって...判断材料がそこしかないんだ。

会ったことがないんだ、性格や気質なんて分かんないよ。

薄っぺらいかな?

歌声も好きだけど、演技は下手だと思う」

 

ユノ大笑い。

 

ユノ

「好きな理由が、顔であってもいいんじゃないの?

その『好き』が上っ面なものだなんて、俺は思わないよ」

 

「ユノって、考えをしっかり持ってるね」

 

ユノ

「それは自分のことじゃないから、冷静に俯瞰して見られるだけの話だ。

...で、俺が思うには、惚れた理由がルックスだった場合、そのルックスの劣化が、その恋の終わりを早めるかもしれないね。

誰でも老化には逆らえないだろ?

シワやたるみ、シミ、白髪、禿げに萌えられるのなら話は別だけど。

好きなポイントがルックスだけだと、関係の持続は難しいなぁ。

そいつの人柄や、そいつと作った思い出で補強していかないと、長らく好きでい続けるのは難しいなあ」

 

「でもさ、僕も一緒に年を取っていくんだから、見た目の許容範囲もスライドしていくんじゃないかな?」

 

ユノ

「そっか!」

 

「ユノが今言ったみたいに、人柄や思い出で補強していかないと、好きでい続けるのは難しいかもね。

...CCとの思い出を思い浮かべるとね、登場人物は片方だけなの。

ステージの上でキラッキラなCCの姿か、うわぁ~ってCCに見惚れている僕の感情のどちらか一方。

僕とCCが並んで立つシーンは一切ないんだ」

 

ユノ

「そっかぁ...。

CC相手じゃ、人柄を知っていくとか、心と心の通わせ合いは難しいよなぁ。

向こうからのリターンが無い以上、チャンミンの恋は完全自家発電だね。

どこまで恋し続けるかどうかは、チャンミンの判断次第だ。

CCが好きだ~っていうエネルギーを、せっせと発電してるの。

チャンミンが主導権を握ってるんだ。

CCはチャンミンをフルことは出来ない...ざまあみろだ。

だってさ、チャンミンの隣に立つことができないんだぞ?

この辺が生身の人間相手の恋愛とは違うなぁ。

あ!

チャンミンの恋を軽く見てるわけじゃないからな。

そこは誤解するなよ?」

 

「分かってる。

ユノ...ありがとう」

ユノは僕が楽になれるよう、少しでも気のきいた言葉をかけてやろうと、僕に協力してくれる。

 

 

今夜はやらずに帰宅する。

ユノも僕もそのことにホッとしていたと思う。

 

(※あいまいなものをあいまいなままにしておけるほど、15年前の僕らは大人じゃない。

そろそろ、はっきりさせようとするのでは?)