20歳になったばかりの僕。
「好きだから付き合おうか」の合図無しで、いわゆる深い仲になった。
僕らは友人同士だった。
それぞれが、失恋中だった。
映画やドラマで見る、寂しさを紛らわすための、慰め合いの行為。
僕らの行為も、この類のものだったんだろうか?
いよいよ、この疑問に取り掛かることにしたようだ。
1度や2度なら、成り行きと勢い任せのもので、深い意味はなかったと、ぎりぎり忘れることができた。
さすがに、4度、5度となると、明確な理由が欲しくなる。
「なぜ、僕らは抱き合ってしまうのか?」
最初のうちは、戸惑っていたんじゃないかなぁ。
僕もユノも軟派じゃない。
関係性に名前をきちっと付けたいタイプだと思う。
僕らは『いい子』過ぎて、身体だけの関係だと割り切ることができなかった。
ユノの場合は特に、未だ彼氏と別れていないうちに、僕と寝てしまったんだ。
それなのに、罪悪感を抱いてもおかしくないのに、ユノの表情からその片鱗を見つけることができなかった。
罪悪感どころか、僕との行為をとても楽しんでいる様子で、僕は嬉しかった。
CCのことで落としどころを見つけようと、さんざん使ってきた頭を、ユノのことに使う時がきたようだね。
ー15年前の4月某日ー
僕の失恋はリアル恋愛のそれと同じくらい、真剣で辛いものだと見なしていた。
僕はCCが好きで好きでたまらなかった。
でも、この好きは常に一方通行のものだ。
告白する機会は現れないし、僕がCCをもっと好きになろうと冷めようと、彼には影響を与えない。
リアクションを得られないということはつまり、CCの反応をドキドキ窺う必要がないのだ。
このことに気づけたのは、もちろん...ユノのおかげだ。
『僕らの関係って...何だろう?
どうして抱き合っているんだろう?』
ユノの気持ちを知りたい。
その前に、僕の思いも紐解いておかないと。
僕の言葉にユノはどんな反応を見せるのかな。
僕の言動と表情は、ユノに影響を与えるし、その逆も同様。
ここがCCへの恋愛とは大きく異なる点だ。
ー15年前の4月某日ー
生温かい夜。
雲で半分隠れた月。
ベランダの床にあぐらをかいて、二人でビールを飲んだ。
350ml缶ビール
計5本(うち僕3本)
おつまみ
ポテトチップス
キュウリ丸かじり
・
【ユノとの会話】
僕
「彼氏はどんな人だった?」
ユノ
「見た目は熊で、性格はリス」
僕
「彼のどこが好きだった?」
ユノ
「悲しいかな、過去形。
そうだなぁ...好きだったところかぁ。
...どこかなぁ。
う~ん...全体。
全体、かな」
僕
「全部好き、ってこと?」
ユノ
「それとはちょっと違うなぁ。
どこが好きとは言えないけど、
嫌いになる理由がない、と言った方が近いかなぁ」
僕
「へえぇ」
ユノ
「チャンミンはCCのどこが好きなんだ?」
僕
「...顔」
ユノ
「はははっ!
正直でいいねぇ」
僕
「だって...判断材料がそこしかないんだ。
会ったことがないんだ、性格や気質なんて分かんないよ。
薄っぺらいかな?
歌声も好きだけど、演技は下手だと思う」
ユノ大笑い。
ユノ
「好きな理由が、顔であってもいいんじゃないの?
その『好き』が上っ面なものだなんて、俺は思わないよ」
僕
「ユノって、考えをしっかり持ってるね」
ユノ
「それは自分のことじゃないから、冷静に俯瞰して見られるだけの話だ。
...で、俺が思うには、惚れた理由がルックスだった場合、そのルックスの劣化が、その恋の終わりを早めるかもしれないね。
誰でも老化には逆らえないだろ?
シワやたるみ、シミ、白髪、禿げに萌えられるのなら話は別だけど。
好きなポイントがルックスだけだと、関係の持続は難しいなぁ。
そいつの人柄や、そいつと作った思い出で補強していかないと、長らく好きでい続けるのは難しいなあ」
僕
「でもさ、僕も一緒に年を取っていくんだから、見た目の許容範囲もスライドしていくんじゃないかな?」
ユノ
「そっか!」
僕
「ユノが今言ったみたいに、人柄や思い出で補強していかないと、好きでい続けるのは難しいかもね。
...CCとの思い出を思い浮かべるとね、登場人物は片方だけなの。
ステージの上でキラッキラなCCの姿か、うわぁ~ってCCに見惚れている僕の感情のどちらか一方。
僕とCCが並んで立つシーンは一切ないんだ」
ユノ
「そっかぁ...。
CC相手じゃ、人柄を知っていくとか、心と心の通わせ合いは難しいよなぁ。
向こうからのリターンが無い以上、チャンミンの恋は完全自家発電だね。
どこまで恋し続けるかどうかは、チャンミンの判断次第だ。
CCが好きだ~っていうエネルギーを、せっせと発電してるの。
チャンミンが主導権を握ってるんだ。
CCはチャンミンをフルことは出来ない...ざまあみろだ。
だってさ、チャンミンの隣に立つことができないんだぞ?
この辺が生身の人間相手の恋愛とは違うなぁ。
あ!
チャンミンの恋を軽く見てるわけじゃないからな。
そこは誤解するなよ?」
僕
「分かってる。
ユノ...ありがとう」
ユノは僕が楽になれるよう、少しでも気のきいた言葉をかけてやろうと、僕に協力してくれる。
・
今夜はやらずに帰宅する。
ユノも僕もそのことにホッとしていたと思う。
(※あいまいなものをあいまいなままにしておけるほど、15年前の僕らは大人じゃない。
そろそろ、はっきりさせようとするのでは?)