(14)僕の失恋日記

 

ー15年前の5月某日ー

 

休講になる。

ぽっかり空いた午後。

気温27度。

湿度45%。

晴れ。

 

ユノは何をしているかなぁ。

真っ先にユノのことが思い浮かんだ。

空を見上げて歩いていたから、車止めにつまづいて転んでしまった。

手の平を擦りむいた。

胸の奥に何かが詰まっているような感じは相変わらずだ。

その鈍痛よりも、手の平の擦り傷がズキズキ痛む方がマシだと思った。

 

 

(※ユノがその場に居合わせたら、こう言うだろう。

傷にふうふう息を吹きかける僕に、

「今どきの治療法は傷を乾かさない方がいいそうだぞ。

なんでかって言うとな、自分の身体から出る汁に秘密があるらしい...うんぬんかんぬん」)

 

 

帰宅したら、ファンクラブ会報誌が届いていた。

封筒を開ける指が震えていた。

 

『CC、再始動!

Newアルバムの制作秘話と思いを、ファンクラブの皆さんだけに語ります』

昨年の10月以降、CCは活動らしい活動をしてこなかった。

プライベートを充実させたからお仕事に戻りましょう、って?

『デビュー以来、これほど長期の休暇をいただいたのは初めてでした。

リフレッシュし、新たな力を得たこれからの僕を見てください...うんぬんかんぬん』

日焼けしたCCの写真を見つめる。

―奥さんと南の島にでも行ってきたんだろう?

『...初めて作詞に挑戦しました。

僕の愛の形をファンの皆さんにお届けしたく...うんぬんかんぬん』

ーふざけるな。

どうせ、奥さんを想って描いた曲なんだろう?

他人のラブレターなんて読みたくない。

これ以上読んでいられなくなって、くしゃくしゃに破って捨てようかと思った。

『リリース記念。

握手会、抽選で〇〇名様ご招待!』

この一文に、僕の心臓はバクバクだ。

CCに会える。

何枚買えばいいかな?

10枚?

20枚?

30枚?

でもさ、冷静に考えろ。

奥さんに触れた手で握手したいのか、チャンミン?

握手したいから欲しくもないCDを買うのか?

CCの曲が聴きたいのか?

どっちだ?

 

 

CCから気持ちが離れてきたことに喜んだ束の間、あっさりと引き戻されてしまった僕。

僕のハートに根付いたCCはしぶとい。

決定的なネタを前にしたのに、スパッと諦めきれていない僕。

CCの物はほとんど捨ててしまったのに、気持ちだけは思い通りにコントロールできない。

半年以上経つのに、CCに関するニュースは、僕を動揺させる。

こんな自分がい、や、だ!

二度と顔を合わせる機会がない相手なら、忘れるまでの時間も短縮できたかもしれない。

あいにくCCは、これからも十分売ってゆける芸能人だ。

慎重にテレビやラジオを避けていても、街中の広告などでうっかり目にしてしまいそうだ。

店内BGMで、CCの曲を聴いてしまうかもしれないし、不意打ちに...例えば、信号や次の電車を待つ僕の後ろで、CCの話題で盛り上がる人々がいるかもしれない。

僕が完全に忘れてしまうまで、CCなんて無人島にでも行ってくれたらいいのに...。

 

 

【封筒の中身】

・会報誌

・ポストカード

(CCのサインが印刷されている)

・年会費振込用紙

(ファンクラブの有効期限が迫っている)

ファンクラブは更新しない!!

 

 

(※今だからわかること。

お知らせが来ると、Caution Cautionの赤ランプが点滅して、平静でいられなくなるのは、クセに近いものだ。

長らく何度も繰り返されて条件反射のようなものだ。

CCのことを色濃く引きずっているせいで敏感に反応してしまったと、20歳の僕は思い込んでいる。

堂々と「CCが好きだ」と言っている反面、ユノのことはあいまいなままだ。

ユノのことにほとんど触れていないこの日記。

僕らの将来を知っているから、当時の僕の心境はバレバレだ。

答えを出すまでに時間がかかる僕。

答えが出ているのに、気付かないフリも上手い。

アイドル相手の恋であの熱量。

恋の相手が生身の存在になった暁には...!?

その分、その気になった時の僕は凄いのだ)

 

BL小説TOP「僕らのHeaven's Day」