リアルの世界とは、当然だけど生々しい。
温かみや湿り気、弾力。
それを素肌で感じて、密着できる間柄に悦びを覚える。
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CCを見つめ続けていられたのは、彼から生々しさが感じられなかったからだ。
だから、CCとの思い出には生々しさがない。
CCと築いた思い出に浸るものというより、CCを見上げ、追い求め続けた僕自身の感情の記憶に浸っている。
最初、あのニュースを知った時、CCと結婚が結びつかなくて混乱した。
結びつけるには、ひどい苦痛を伴った。
僕を襲った悲しい気持ちを、丁寧に解きほぐしていくと、沢山の種類の悲しいが詰まっていた。
その中のひとつに、失望感があった。
結婚したいと望むなんて...CCもただの人間だったか。
人間臭さは欲しくなかった。
ここでもやはり、ユノの言葉が僕の頭にリフレインする。
「ウンコしてるCCを見たいのか?」
ユノのたとえ話はいつも的を得ているけど、色気がない。
ー15年前の3月某日ー
僕はユノと寝た。
どうしてこうなってしまったのか、うまく説明ができない。
とても自然な行為だった。
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僕らのキスはすぐに熱を帯び、とても自然な流れでベッドに横たわった。
身体のあちこちを触る前に、ズボンを脱いでいた。
「ちょっと待って」と言って、僕から離れると、必要なものを持って戻ってきた。
「ああ、そっか、そうだよね。
ユノには恋人がいるんだもの、持ってて当然だよね」と、納得していた。
「チャンミンは?
...あるのか?」
ユノは僕に、『経験はあるのか?』と尋ねているのだ。
「ある」と答えると、ユノは「それなら、よかった」と言った。
(※相手はバイト先の3歳年上の人だった。
なんとなく好意が持てた人で、男同士の行為を経験してみたかった好奇心が大きかった。ユノと出逢う以前の話だ)
片方は未経験で、アレするのに挿れられなかったり、手間取ったり、加減したり...が邪魔だったんだ。
僕らは、思いっきりヤリたかったんだ。
とても自然な流れで、僕は受け入れる側となった。
経験があると言っても、慣れた身体じゃなかったし、久しぶりのことで手こずるかな、と心配は不要だった。
ユノがうまかったこともある。
ひとりでする時に、前よりも後ろを使っていたおかげもある。
一度目は下を出しただけの、服を着たままだった。
こんな風にユノは、恋人とヤッてるんだろうなぁ、と寂しい気持ちになったのは確かだ。
不思議なことに、恋人を思って僕とヤっているんだ、と卑屈な気持ちには一切ならなかった。
ユノは、相手が僕だったからヤッてるんだ。
僕もユノと今すぐ、ヤリたかった。
どちらの唾液か分からなくなり、つかまれた腰にユノの爪が食い込んでいた。
リアルな肉体を持ってぶつかってくる感触に、僕は溺れそうになった。
「なんだこれは?」と思った。
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手の届かない世界にいる人物に...果たして、リアルに存在するのか?...恋をし、失恋した。
僕が恋をし、追っていたのは、あくまでもイメージだったんだと、実感した。
責任を持たなくて済む恋だ。
僕が好きになろうと嫌いになろうと、CCには一向に影響はない。
とても自由で、気楽な恋だったんだ、実のところ。
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30分程の休憩ののち、僕らは再び抱き合った。
2度目は服を脱いでヤッた。
3度目は2度目より、時間をかけてヤッた。
イク瞬間、ユノは「チャンミン」と僕の名前を呼んだ。
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夜明けの時間で、白く曇った窓ガラスの外が明るくなりかけていた。
部屋の中なのに、息が白かった。
僕らはユノの小さなベッドで、身体をくっつけあっていた。
ユノの手は僕の背中やお尻をくすぐっていた。
部屋の隅にある、ファンヒーターのスイッチをどちらが入れにいくか、布団の中でじゃれていた。
床には二人分の洋服と、ゴムの空き袋が散らかっていた。
ユノには恋人がいるんだよなぁと、ユノと寝たことでややこしいことになってしまったなぁと思った。
ユノの存在が五感をともなって、グッと接近してきたことで、CCへの失恋どころじゃなくなった。
甘っちょろいこと言っていられるか、って。
以上が、1泊目の話だ。
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