【15】僕を食べてくださいBL)

 

 

~指だけじゃ足らない~

 

 

ベッドに上がると、壁にもたれて座る。

 

ティッシュペーパーの箱を引き寄せて、両脚を広げた。

 

勃ち過ぎて下腹が痛いくらいだ。

 

手の平全体でゆるく握ると、前後にピストン運動させた。

 

「はっ...はっ...」

 

すぐさま股間から弾ける快感に、夢中になる。

 

ユノとの絡み合いを思い出す。

 

一歩進んで、いやらしい恰好をさせたユノを妄想した。

 

人差し指で親指の輪で、亀頭の縁を摩擦させた。

 

「あっ...」

 

息が熱い。

 

同時に、指の付け根で裏筋を刺激する。

 

妄想の中のユノは手首を縛られていた。

 

「うっ...」

 

ヤバイ...もうイキそうだ。

 

イきそうなのを堪えて、根元から手の平を離して、亀頭だけを指でつまんだ。

 

親指でカリの部分をひっかけるようにこすった。

 

この自慰行為をユノに見られているのだと想像したら、ピクリと硬くなった。

 

射精に至るまでの時間が短い僕だ。

 

あっという間にイかないよう、コントロールする。

 

弱い刺激で、ゆらめく波のような快感に浸る。

 

物足りなくなった僕は、Tシャツの下から片手を入れる。

 

「あっ...」

 

固く尖った乳首に指先が触れた途端、上半身がゾクッとのけぞった。

 

乳首に意識を集中させる。

 

指先で転がし、ひねる。

 

「は...ん」

 

むず痒い電流が走る。

 

引っぱると、手の平に包み込んだ僕のものがさらに膨張した。

 

「チャンミンは感じやすいね」

 

耳元で囁くユノの声が聴こえたような気がした。

 

「っく」

 

背を反らし、頭頂部が壁をこするたびに、壁に掛けた賞状の額がカタカタと音をたてた。

 

輪にした二本の指に、透明な粘液が垂れる。

 

「はあはあ...」

 

前だけじゃ足りない。

 

全然...足りない。

 

再び襲われた波をやり過ごした僕は、ベッドに横向きに寝っ転がった。

 

お尻に手を伸ばして、過敏な箇所に指を突き立てる。

 

1本2本と容易に、飲み込むいやったらしい穴だ。

 

昨夜、たっぷりと注ぎ込まれたローションのおかげで、滑りはよい。

 

かぎ型に曲げた指の背で、中をぐるりとかき混ぜた。

 

「...んっは...」

 

ユノのものが出し入れする錯覚を楽しんだ。

 

僕の入口は柔らかくて、女の人のあそこに触れた経験はないけれど、きっとこんな感じなんだろうと思った。

 

ユノが好きだ、好きだ。

 

無茶苦茶にされたい。

 

『今なんて言った?』

 

フラッシュが瞬いたかのように、喉を締め付けたユノの冷たい指を思い出した。

 

喉ぼとけが押しつけられて、息が詰まって、殺されるのではと恐怖が沸いた瞬間を思い出した。

 

ユノの強靭な指と握力があれば、僕の首くらい簡単にへし折ってしまえるだろう。

 

「好きだと言って、悪いのか!」

 

絶頂の際、口走ってしまった言葉を咎められた。

 

腕をついて身体を起こして、ベッドから足を下ろした。

 

「はぁ...」

 

両膝に両肘をついて、両手で両目を覆った。

 

「なんだよ...」

 

僕の気持ちのやり場はどこなんだよ。

 

僕の身体を舐めたり触ったりしてくるくせに。

 

僕の身体に突き立てるばっかりで。

 

...それに。

 

指を挿入して気付いたこと。

 

ユノは達していないのでは?...ということだ。

 

ユノが放ったものの気配は、僕の中にはない。

 

快楽に溺れるばかりで、ユノの方はどうだったのか...。

 

僕の身体じゃ、物足りないのか...。

 

「...そんな...!?」

 

悶える僕を眺めるのを、ただ愉しんでいるだけなのだろうか。

 

萎えてしまったものを下着におさめ、デニムパンツを履いた。

 

よろめいてドア枠に肩をぶつけてしまい、その痛みによって不発に終わった苛立ちが消えた。

 

二の腕は全然痛くない。

 

ほどけかけた包帯を、むしり取った。

 

恍惚としたユノの視線を浴びた傷口がなくなってしまった。

 

僕は傷の周囲を舌先でたどられた感触に、ゾクゾクと感じたんだった。

 

開いた傷口をユノの指でなぞられて、激痛の中に快感を感じたんだった。

 

快感によがる僕を、ユノの身体を求める僕を、面白がってんじゃないよ。

 

下半身に支配された自分を抑えられないんだよ。

 

前夜、3回もヤッたくせにまだまだ足りないんだよ。

 

よろけたはずみで戸口に肩をぶつけてしまったけど、気にならない。

 

僕の腕はもう、痛まない。

 

 

 

 

「おーい!

チャンミーン、いるかあ?」

 

玄関先から呼ぶ声に出てみると、近所のNさんだった。

 

「おお、チャンミン、久しぶりだなぁ。

お前が帰ってきていると聞いてな」

 

Nさんは、両親の事故の際、行方不明だった僕を血眼に探しまわった末、灌木の影にいた僕を見つけてくれた人だ。

 

血まみれの顔でぼーっとしている僕を抱きしめて、「よかった、よかった」とおいおい泣いていたことを、よく覚えている。

 

「せっかくの休みのところを、すまないな。

男手が必要になったんだ。

ちょっとだけ手を貸してくれないか?」

 

「いいですよ」

 

僕は即答して、靴を履いてNさんを追った。

 

何かしら手を動かしていないと、頭の中がユノのことでいっぱいで、爆発しそうだった。

 

Nさんの車に便乗し、舗装されていない林道を数分ほど進んで着いた先は、捕獲獣処理場だった。

 

建って間もないここはシャッターを開けると直接建物の中へ、車を乗り入れることができる構造をしている。

 

車を降りた途端、けたたましい吠え声を浴びせられて、脚がすくんだ。

 

建物脇に繋がれた4匹の猟犬が、尖った歯をむき出しに、唾液をとばしながら、僕に向かってぎゃんぎゃんと吠えたてている。

 

「近づくなよ。

食い殺されっぞ」

 

「はあ」

 

「あの檻にも近づくな。

瓜坊を連れてたから、気が荒い」

 

鉄製の檻の中に子牛ほどある猪が、己を閉じ込める鉄棒目がけて突進し、助走をつけては突進しを繰り返している。

 

「汚れるからこれをつけろ」

 

手渡されたゴム製のエプロンと、手袋をつけゴム長靴に履きかえた。

 

コンクリート床の上に、大型犬サイズの猪がころがっていた。

 

「これは...?」

 

「罠にかかってたんだ。

まさか今日捕れるとは思わなくて、連れがいなくてな。

早く血抜きをしないと、使い物にならない...」

 

Nさんは天井に取り付けられたフックの位置を調節すると、僕に手招きした。

 

「小さい方だが、重いぞ。

腰を落として持ち上げるんだ」

 

僕とNさんが抱えたその猪を、いったんステンレス製の台に置くと、後ろ脚にワイヤーを巻き付けた後、天井から下がる杭にひっかけた。

 

ハンドルを回すと、猪の身体がくいくいと持ち上がっていく。

 

僕は、猟犬の牙や、黒々とした猪の死体や、意外に清潔な造りの処理場内や、全てに圧倒されてしまって、終始無言だった。

 

猪が放つ獣臭に鼻を押さえていると、

 

「もういいぞ。

ここまできたら、あとは一人でできるから」

 

そう言って、Nさんは巨大な金属たらいを、ぶらさがる猪の真下まで足で蹴り寄せた。

 

この金属たらいを満たすのは何なのか想像して身震いした。

 

「他に手伝えることは...?」

 

「ここからは、グロいぞ。

そんなに青い顔をしてたら、無理だ」

 

血の匂いを嗅ぎつけて、興奮した犬たちが唸り声をあげ、長い爪で壁をガリガリいわせていた。

 

「あいつらには、褒美にモツを投げてやるんだ」

 

「それじゃあ...僕...帰ります」

 

Nさんは、先が曲がった刃物を持った手を上げて、「助かったよ、じゃあな」と、日に焼けた顔で笑った。

 

外に出た途端、また猟犬に吠え付かれてビクついたが、建物内の生臭い空気から解放されてホッとした。

 

ばあちゃんちからこの処理場は車だと数分かかるが、山の中を突っ切れば徒歩で10分そこそこの距離にある。

 

スニーカー履きだったし、やぶ蚊に刺されるのは嫌だった僕は、来た道を辿って帰ることにした。

 

森林管理の車が通れるよう急場ごしらえした砂利道だ。

 

帰省して4日目。

 

2日後には、街に帰らなければならない。

 

怪我を負ったはずの二の腕を、反対側の手でさすった。

 

初めからユノとは出会っていなかったのかもしれない。

 

怪我などしていなかったのかもしれない。

 

到着したあの日は、山道で転んだだけで、頭を打つかなんかしてボーっとしてたんだ。

 

僕が密かに抱いている卑猥な欲望を、夢の中で実現させていたに違いない。

 

この3日間の僕は、夢の世界に生きていたということ。

 

夢精だったんだ。

 

そうに決まっている。

 

夢だったらいいのに。

 

夢だったら、ユノを恋しがっても仕方がないと諦められる。

 

砂利道は舗装道路にぶつかり、右に行けばばあちゃんち、左に行けば廃工場だ。

 

確かめてみないと。

 

あそこを目で見て、現実だったのかどうか確かめてみないと。

 

僕は左折し、くねくねとした坂道を歩いて行った。

 

ユノとの初めての出会いまでの時を巻き戻した。

 

仰向けに突き倒された時、頬を叩いた雨水と僕を見下ろしたユノの墨色に沈んだ瞳。

 

目覚めた時の乾いたシーツの感触、噛みつかれた唇の痛み。

 

「チャンミンは、いやらしい子」と耳元で囁かれた声音。

 

ユノがしたこと、ユノにしたこと、僕が漏らした喘ぎ声、身を貫くほどの快感を、ひとつひとつ反芻してみた。

 

こんなにはっきりと五感で覚えているのに、これが夢だと言いきれるのだろうか。

 

 

 

(つづく)

 

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