「服を着ろ」
彼に命じられても、僕は湧きあがった欲情を止められない。
気付くと僕は、彼の肩を押さえて押し倒していた。
彼の首筋に唇を這わせようとした瞬間、彼の手が伸び、火照った僕の首をわしづかみにした。
僕の喉ぼとけが、冷たい手の平で圧迫される。
「このへんで止めておくんだ。
本当にお前を食べてしまう」
彼が放つ甘い香りが、僕の欲情を煽る。
僕の真下から見上げる、紺色になった彼の瞳に色気を感じていた。
瞳の色の変化を、不思議に思う余裕がなかった。
彼のボトムスを脱がせにかかる。
気が急きすぎてボタンが外せずイラついた僕は、ウエストの隙間から片手を差し込もうとした。
すると、彼は僕の手首をつかんで、僕の動きを制した。
手首の骨がきしむ。
なんて力だ。
ふりほどこうとしても、彼の力の方が勝っていた。
「どうなっても知らないよ」
「あっ!」
やすやすと僕は仰向けにされてしまった。
彼は僕の腹の上に、膝立ちでまたがる。
僕の顎は再び捉われて、斜めに頬を傾けた彼の口で塞がれた。
あまりに強い指の力に屈して、口を開けるとその隙間から彼の舌が侵入してきた。
今度は唇を甘噛みされた。
ぴりっとした痛みの後、僕の口内を出入りする彼の舌をかき混ぜられて、血の味が口いっぱいに広がる。
僕の唇が、舌でなぞられた。
僕の唾液と血でてらてらと光った彼の唇に、強烈な色気を感じてごくりと僕の喉がなった。
たまらず彼の股間に手を伸ばそうとした瞬間、僕の手はぴしゃりとはねのけられた。
「俺に触るんじゃない」
ひるんだ僕は、大人しく腕をマットレスの上に落とす。
彼は僕を見すえたまま、僕の胸の先端をもてあそび始めた。
触れるか触れないかのタッチで、乳首の上を行ったり来たりする。
じんじんと疼く。
彼の人差し指と親指が、そっとつまんだ瞬間、
「あっ...」
と声が出てしまった。
自分の口から洩れた、かすれた甘い声音に僕は驚く。
僕の反応に、彼はふり返って僕の股間を確認すると、うっとりと甘い微笑みを見せた。
そして、顔を伏せると、僕の乳首を口に含んだ。
ゆるゆると舌先で転がし始める。
「んっ」
彼の前髪がさらさらと、僕の胸や腹をかする感触さえ、怒張させる刺激になった。
彼の舌が往復するたび、じんじんと下半身が疼く。
先ほどの冷たかった彼の唇が、熱くなっていた。
ちろちろとくすぐったかと思うと、時折強く吸った。
「いっ、やぁっ!」
その度、僕の呼吸が荒くなる。
(たった...これだけで...頭が真っ白になる!)
僕のを舐めながらも、彼は僕から目をそらさない。
「...はっ...!」
きゅっと少し強めにつままれる度に、声がもれ出る。
(ヤバい...気持ちがいい)
「やっ...!」
軽く歯をあてられる度に、短い悲鳴が出てしまう。
「声出しちゃって...気持ちいいのか?」
首を縦にふる。
敏感になった乳首を、強弱をつけて執拗にいじめられた。
僕の全神経が胸の一点に集中してしまっている。
「こんなに乳首を勃たせて。
チャンミンは敏感だね。
可愛い」
そう言うと、僕の乳首をぴんとはじいた。
「はっ...」
今、自分が置かれている、奇妙で理解不能な状況のことなんか、吹っ飛んでしまった。
僕の思考は、めくるめく陶酔の泥の底。
両手足の動きを封じられてもいないにも関わらず、僕は仰向けのまま『でくの坊』になって、快感の吐息を漏らすだけだった。
胸しか触られていないのに、僕の下腹部のうずきは最高潮だった。
そこには指一本触れられていないのに、どうしてこんなに興奮してしまうんだ?
彼の神秘的な容貌と、全身から放たれる香気に酔った僕は、みだらな世界にずぶずぶと溺れてしまった。
山道で襲われ、
廃工場に連れてこられ、
脱がされ、
得体のしれない男に、馬乗りになられて、
欲情の吐息を漏らす僕。
もっと触って欲しい。
もっともっと、舐めて欲しい。
・
彼の手が背後に伸び、そっと僕のモノを握った。
「あっ...!」
僕の体が魚のようにはねる。
「素直な反応だ」
僕を見下ろしながら、くすくすと笑った。
「可愛い」
じくじくと乳首だけを攻められている間に、僕のものははち切れそうになっていた。
彼の指先が羽のように、下着の上から僕の形をなぞった。
「はぁ...っ!」
目がくらむような快感が、僕の頭のてっぺんまで突き抜けた。
「触って欲しかったんだろう?」
僕は頷く。
根元から先端までつつーっと爪先を滑らす。
「うっ...」
手のひらをくぼませて、僕の先端をくるくると撫で回す。
「やっ...」
呼吸もままならないほど、喘いでしまう。
指だけなのに。
触れられているだけなのに。
彼の手が、僕の形に沿って、強弱をつけて撫で上げたり、撫でおろしたりするだけで、身体が震えた。
彼の念入りな愛撫に、僕のいやらしい粘液があふれ出る。
「こんなに濡らしちゃって」
羽のような感触だけでは物足らなくて、知らぬ間に僕は腰を揺らしていた。
「チャンミンったら、自分から動かしちゃって」
彼の手の平に股間をこすり付けていた。
「もっと触って欲しい?」
こくこくと頷いた。
「挿れたいの?」
こくこくと頷いた。
「それとも...挿れられたい?」
「......」
ふふっと笑った彼は、僕をうつ伏せにすると腰を高く持ち上げた。
(え?)
抵抗もせず、彼になされるがまま従ってしまう僕。
四つん這いにされて戸惑った。
僕の下着を膝まで引き下ろすと、背後から手を伸ばして僕のモノを握り、ゆるゆるとその手を動かす。
「うぅ...」
直接触れた彼の手の感触が、あまりに気持ちよくて、涙が滲んできた。
僕の先端からあふれ出て濡れたもので、ぬるつかせながら上下にしごきだした。
僕の腰が勝手に前後に動きだす。
「いやらしい子」
彼の言葉に、僕は煽られる。
僕の動きに合わせて彼の指が、前後にするするとこすりあげた。
彼の指は強弱をつけて握ったり、ぬるついた先端だけを小刻みに動かした。
「っあ...」
彼の手の中で、僕のものはさらに大きく張り詰める。
僕の顔を横から覗き込み、彼はどう猛な笑みを浮かべた。
僕は彼の獲物だ。
もう片方の手を、僕の背筋を滑らせる。
「は...あぁ...」
その感触だけで、鳥肌がたつ。
あえぐたび、彼は僕の首筋に唇をあて、耳たぶまで舌を這わせる。
「チャンミン...可愛いよ」
耳元でささやかれたのに反応して、熱く硬くなる。
彼を押し倒すこともせず、僕は四つん這いのまま熱い吐息をこぼすだけだ。
金縛りにあったかのように、僕の両手、両膝は動かせない。
「はあはあ」
快感のあまり、がくりと肩を落としてしまった。
(気持ちよすぎる...)
マットレスに片頬を押し付けて、だらしなく口を開けて。
腰を突き上げた格好という、恥ずかしい姿勢で。
その背の上に彼は身体をもたせかけ、前にまわした片手で僕の胸を攻め始める。
下半身も胸も、同時進行で与えられる刺激に目がくらんで、僕はギュッと目をつむった。
(もう...限界だ)
彼は僕の尻をつかむと、前後に揺らし始めた。
「もっと腰を動かせ」
耳元でささやくと、ぴしゃりと僕の尻を叩いた。
お尻はカッと熱くなるし、
腰を動かすたび目がくらむほどの快感が全身を走るし、
乳首をさんざんいたぶられて、
もう自分が何をされているのか、分からなくなっていた。
頭がくらくらしてきた。
僕の顎をつかむと、唇を重ねてきた。
彼の舌を追いかける。
彼に触れられる唯一の入口だ。
下腹部が重ったるくしびれてきた。
彼の手の動きが、激しくなってくる。
「うっ...!」
下腹部が弓なりに、けいれんした。
「はっ...!」
僕は激しく射精した。
2度3度と続いたけいれんに合わせて、僕の精液が吐き出される。
「はあはあはあはあ」
僕は突っ伏した。
僕は彼の手の動きだけで、達してしまったのだった。
(つづく)
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