【3】僕を食べてください(BL)

 

 

~甘い余韻~

 

 

快感の余韻と虚脱感で力が入らない僕の腰を、彼は引き上げた。

 

再び僕は四つん這いにされた。

 

肩を落として、荒い息を繰り返す僕をそのままに、彼は僕の割れ目に指をあてると、すーっと前から後ろへ撫でる。

 

「あっ」

 

指先で、敏感な箇所をつついた。

 

経験したことのない痺れが下腹部を襲う。

 

「開発のしがいがあるな」

 

そう言って彼はくすくす笑った。

 

 

 

 

くったりとマットレスの上で、クの字になって横になっていた。

 

さんざんいたぶられた胸の先端が、熱を帯びていた。

 

全裸の僕と、着衣の彼。

 

僕の脇に座った彼は、僕の髪を何度もかきあげていた。

 

彼の指の間に、髪がすかれる感じが気持ちがいい。

 

膝まで下げられたショーツを、引き上げてくれる。

 

さっき僕が濡らした箇所が、冷やりと張り付いた。

 

「風邪ひくぞ」

 

マットレスの足元で丸まっていた僕のTシャツを背中にかけてくれた。

 

「自己紹介が遅れたな。

俺はユノ」

 

僕の前に片手が差し出され、その手を握った。

 

「よろしく」

 

群青色に澄み、凪いだ湖のように穏やかなユノの瞳に、僕は魅入られていた。

 

 

 


 

 

 

手のひらで湯面をなでる音だけが、狭い浴室に響く。

 

半日前の出来事は、夢みたいだったけれど、熱いお湯にしみる胸の先端が、あれは現実だったと教えてくれる。

 

透明なお湯の中で、赤く色づいたそこは自分のものなのに色っぽい。

 

腫れあがってひりひりする痛みすら、甘い余韻だ。

 

「あ」

 

疼きを覚えて股間に目をやると、ゆらめくお湯の中で僕のものが、軽く勃ちあがっていた。

 

あの時の余韻を思い出しただけで、これだもの。

 

強烈過ぎた。

 

我慢できずに、ゆるゆるとしごきはじめた。

 

ユノの手の感触を思い出そうとする。

 

僕のものを握った、ひんやりとした白い指を思い出す。

 

ユノは僕の背後から手を伸ばしていたから、姿は見えなかった。

 

巧みに指をうごめかせて、僕のものを前後させていたあの手を思い出す。

 

「はぁ...」

 

刺激が足りなくて、湯船から上がる。

 

大きく張り詰めたものを、ボディソープを広げた手の平で上下する。

 

滑りがよくなって、快感が増した。

 

「あ...」

 

あの時の刺激を再現しようとした。

 

目をつむって、思い出す。

 

身をよじって、はしたない声を漏らしていた僕を。

 

ユノの爪先が胸の突先にひっかけられて、きゅんと走った疼きを。

 

叩かれた尻の熱さを。

 

「可愛いよ」

「チャンミン、いやらしい子だ」

 

耳元でささやかれた言葉。

 

ゾクゾクした。

 

往復するごとに、大きく硬く育ってきた。

 

「は...あ...」

 

シャツに覆われていた身体を想像する。

 

ボトムスを脱がせてあらわになった、彼の裸を想像した。

 

僕を組み敷く逞しい胸、つんと尖って固くなったその先端を僕は口に含む。

 

僕を舌なめずりするかのように見ていた目が、快楽に酔ってとろんとしたものに変化して。

 

突き出したユノのあそこに、僕のものが深く埋められていく...。

 

「んっ...」

 

往復する僕の手の加速が増した。

 

「んっ!」

 

目をつむって天井を仰ぐ。

 

無音の浴室では、僕がたてる、くちゅくちゅいう音だけが響いている。

 

「んっ!」

 

絶頂の末、吐き出した。

 

「はぁはぁ」

 

肩を揺らして息を整えた後、シャワーで泡やら白濁した粘液やら洗い流していると...。

 

突然、脱衣所から声をかけられた。

 

「チャンミン、着替えを置いとくよ」

 

一気に現実に引き戻された。

 

「あ、ありがとう」

 

「はあ」

 

前髪から汗混じりの水が、ぽたぽた落ちていた。

 

駄目だ。

 

まだまだ、足りない。

 

全然、足りない。

 

 

 

 

突然帰省してきた僕に、ばあちゃんは目を丸くして、その後くしゃくしゃにした笑顔で僕を家に招き入れてくれた。

 

ばあちゃんの家は、すぐ側まで木々が迫る山すそにある。

 

褪せたトタン屋根と、ペンキの剥げた羽目板の壁の古い建物だ。

 

ばあちゃんの家でもあるし、僕の家でもあるこの古い家が、子供の頃恥ずかしかった。

 

僕は18歳でこの家を出るまで、ばあちゃんと2人暮らしだった。

 

僕が小学生だった時、両親を交通事故で亡くして以来、ばあちゃんが僕を育ててくれた。

 

ばあちゃんが唯一の家族なんだ。

 

「チャンミン、口をどうした?」

 

「あ...」

 

僕の唇を指さすばあちゃんの心配そうな表情を見て、ちょっとした罪悪感に襲われた。

 

「ぶつけたんだ。

大丈夫だよ」

 

まさか、見ず知らずの男の人に噛まれたなんて言えないよ。

 

ユノに噛まれた唇は、出血は止まっているけれど、喋るたびピリッと痛みが走る。

 

 

 

 

「ごめんな」

 

そう言って帰り際、ユノが唇に軟膏を塗ってくれたんだっけ。

 

僕の唇に触れるユノの薬指が色っぽくて、ごくりと喉を鳴らしてしまった。

 

湿ったままの洋服を身に着ける間、ユノはマットレスに腰かけ、じーっと僕を観察していた。

 

テーブル代わりのケーブルドラムの上に置いた、紙カップのストローを時おりくわえていた。

 

ごくごくと動く白い喉に目を離せなくて、僕の方もちらちらとユノを観察していた。

 

いくつ位だろうか。

 

僕と同じくらいか、ちょっと上か。

 

身体が泳ぐくらいだぼっとしたシャツを着ているけれど、のしかかれた僕の背中はユノ胸板の筋肉の弾力を感じとっていた。

 

僕に触れさせなかった身体。

 

恐らく、とても逞しい身体をしているのだろう。

 

僕と視線がぶつかると、ユノはあでやかな笑顔を見せた。

 

「そんなに見つめられると溶けちゃうよ」

 

つい30分前まで、このマットレスの上で行われていたことが、夢みたいだった。

 

それくらい、ユノの表情は穏やかだった。

 

あの時の獰猛なぎらついた目が信じられない。

 

今の瞳の色は、青みがかった墨色。

 

最中の時、もっと明るい青色だったような...気のせいだったか?

 

ユノを見て、異常なまでの性欲に襲われて押し倒そうとした。

 

僕ひとりが裸で、大の字になったり、四つん這いになったり。

 

僕ひとりが、嬌声をあげて、ユノに導かれるまま射精した。

 

あられもない姿を晒した。

 

そして、めちゃくちゃ興奮した。

 

とにかく気持ちよかった。

 

「気をつけて帰るんだぞ」

 

シャッター前まで見送りに出たユノは優しくそう言って、何度もふり返る僕に手を振ってくれた。

 

雨は上がっていた。

 

時刻はまだ夕方前だったから、廃工場にいたのはわずか3時間ほど。

 

ばあちゃんの家への続く、下草はびこる小道を湿ったスニーカーで歩きながら、思いを巡らす。

 

廃工場の外に出て、そこが近所の見知った建物であったことを知った。

 

何年も前に廃業した鉄工所で、山道から繋がる砂利道が生い茂る雑草で覆われている。

 

ユノはここに住んでいるのか?

 

まさか。

 

電気も通っていないはず。

 

野宿するよりも、雨露しのげるここを一晩の宿代わりに?

 

わざわざここに?

 

クエスチョンが、次々と湧いてくる。

 

今になって、常識的な思考が戻ってきた。

 

ユノって一体、何者なんだ?

 

「美味しそう」だったから拉致して、僕を弄ぶという形で『食べた』のか?

 

じゃあ、『育てる』って?

 

僕の中に潜むマゾっ気を育てるってことかな。

 

まさか!

 

なんだか、頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。

 

ひとつだけはっきり言えるのは、このことを僕が望んでいるってことだ。

 

もう一度、味わいたい。

 

ユノに触られ、舐められて、僕は恍惚の世界を縁から覗きこんだ。

 

身を乗り出して、その世界に飛び込んで、底まで沈みたい。

 

そんな考えを悶々と巡らしているうちに、ばあちゃんちの前にたどり着いていた。

 

 

 

(つづく)

 

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