(2)僕を食べてください(BL)

 

 

「服を着ろ」

 

彼に命じられても、僕は湧きあがった欲情を止められない。

 

気付くと僕は、彼の肩を押さえて押し倒していた。

 

彼の首筋に唇を這わせようとした瞬間、彼の手が伸び、火照った僕の首をわしづかみにした。

 

僕の喉ぼとけが、冷たい手の平で圧迫される。

 

「このへんで止めておくんだ。

本当にお前を食べてしまう」

 

彼が放つ甘い香りが、僕の欲情を煽る。

 

僕の真下から見上げる、紺色になった彼の瞳に色気を感じていた。

 

瞳の色の変化を、不思議に思う余裕がなかった。

 

彼のボトムスを脱がせにかかる。

 

気が急きすぎてボタンが外せずイラついた僕は、ウエストの隙間から片手を差し込もうとした。

 

すると、彼は僕の手首をつかんで、僕の動きを制した。

 

手首の骨がきしむ。

 

なんて力だ。

 

ふりほどこうとしても、彼の力の方が勝っていた。

 

「どうなっても知らないよ」

 

「あっ!」

 

やすやすと僕は仰向けにされてしまった。

 

彼は僕の腹の上に、膝立ちでまたがる。

 

僕の顎は再び捉われて、斜めに頬を傾けた彼の口で塞がれた。

 

あまりに強い指の力に屈して、口を開けるとその隙間から彼の舌が侵入してきた。

 

今度は唇を甘噛みされた。

 

ぴりっとした痛みの後、僕の口内を出入りする彼の舌をかき混ぜられて、血の味が口いっぱいに広がる。

 

僕の唇が、舌でなぞられた。

 

僕の唾液と血でてらてらと光った彼の唇に、強烈な色気を感じてごくりと僕の喉がなった。

 

たまらず彼の股間に手を伸ばそうとした瞬間、僕の手はぴしゃりとはねのけられた。

 

「俺に触るんじゃない」

 

ひるんだ僕は、大人しく腕をマットレスの上に落とす。

 

彼は僕を見すえたまま、僕の胸の先端をもてあそび始めた。

 

触れるか触れないかのタッチで、乳首の上を行ったり来たりする。

 

じんじんと疼く。

 

彼の人差し指と親指が、そっとつまんだ瞬間、

 

「あっ...」

 

と声が出てしまった。

 

自分の口から洩れた、かすれた甘い声音に僕は驚く。

 

僕の反応に、彼はふり返って僕の股間を確認すると、うっとりと甘い微笑みを見せた。

 

そして、顔を伏せると、僕の乳首を口に含んだ。

 

ゆるゆると舌先で転がし始める。

 

「んっ」

 

彼の前髪がさらさらと、僕の胸や腹をかする感触さえ、怒張させる刺激になった。

 

彼の舌が往復するたび、じんじんと下半身が疼く。

 

先ほどの冷たかった彼の唇が、熱くなっていた。

 

ちろちろとくすぐったかと思うと、時折強く吸った。

 

「いっ、やぁっ!」

 

その度、僕の呼吸が荒くなる。

 

(たった...これだけで...頭が真っ白になる!)

 

僕のを舐めながらも、彼は僕から目をそらさない。

 

「...はっ...!」

 

きゅっと少し強めにつままれる度に、声がもれ出る。

 

(ヤバい...気持ちがいい)

 

「やっ...!」

 

軽く歯をあてられる度に、短い悲鳴が出てしまう。

 

「声出しちゃって...気持ちいいのか?」

 

首を縦にふる。

 

敏感になった乳首を、強弱をつけて執拗にいじめられた。

 

僕の全神経が胸の一点に集中してしまっている。

 

「こんなに乳首を勃たせて。

チャンミンは敏感だね。

可愛い」

 

そう言うと、僕の乳首をぴんとはじいた。

 

「はっ...」

 

今、自分が置かれている、奇妙で理解不能な状況のことなんか、吹っ飛んでしまった。

 

僕の思考は、めくるめく陶酔の泥の底。

 

両手足の動きを封じられてもいないにも関わらず、僕は仰向けのまま『でくの坊』になって、快感の吐息を漏らすだけだった。

 

胸しか触られていないのに、僕の下腹部のうずきは最高潮だった。

 

そこには指一本触れられていないのに、どうしてこんなに興奮してしまうんだ?

 

彼の神秘的な容貌と、全身から放たれる香気に酔った僕は、みだらな世界にずぶずぶと溺れてしまった。

 

山道で襲われ、

廃工場に連れてこられ、

脱がされ、

得体のしれない男に、馬乗りになられて、

欲情の吐息を漏らす僕。

 

もっと触って欲しい。

 

もっともっと、舐めて欲しい。

 

 

 

 

 

彼の手が背後に伸び、そっと僕のモノを握った。

 

「あっ...!」

 

僕の体が魚のようにはねる。

 

「素直な反応だ」

 

僕を見下ろしながら、くすくすと笑った。

 

「可愛い」

 

じくじくと乳首だけを攻められている間に、僕のものははち切れそうになっていた。

 

彼の指先が羽のように、下着の上から僕の形をなぞった。

 

「はぁ...っ!」

 

目がくらむような快感が、僕の頭のてっぺんまで突き抜けた。

 

「触って欲しかったんだろう?」

 

僕は頷く。

 

根元から先端までつつーっと爪先を滑らす。

 

「うっ...」

 

手のひらをくぼませて、僕の先端をくるくると撫で回す。

 

「やっ...」

 

呼吸もままならないほど、喘いでしまう。

 

指だけなのに。

 

触れられているだけなのに。

 

彼の手が、僕の形に沿って、強弱をつけて撫で上げたり、撫でおろしたりするだけで、身体が震えた。

 

彼の念入りな愛撫に、僕のいやらしい粘液があふれ出る。

 

「こんなに濡らしちゃって」

 

羽のような感触だけでは物足らなくて、知らぬ間に僕は腰を揺らしていた。

 

「チャンミンったら、自分から動かしちゃって」

 

彼の手の平に股間をこすり付けていた。

 

「もっと触って欲しい?」

 

こくこくと頷いた。

 

「挿れたいの?」

 

こくこくと頷いた。

 

「それとも...挿れられたい?」

 

「......」

 

ふふっと笑った彼は、僕をうつ伏せにすると腰を高く持ち上げた。

 

(え?)

 

抵抗もせず、彼になされるがまま従ってしまう僕。

 

四つん這いにされて戸惑った。

 

僕の下着を膝まで引き下ろすと、背後から手を伸ばして僕のモノを握り、ゆるゆるとその手を動かす。

 

「うぅ...」

 

直接触れた彼の手の感触が、あまりに気持ちよくて、涙が滲んできた。

 

僕の先端からあふれ出て濡れたもので、ぬるつかせながら上下にしごきだした。

 

僕の腰が勝手に前後に動きだす。

 

「いやらしい子」

 

彼の言葉に、僕は煽られる。

 

僕の動きに合わせて彼の指が、前後にするするとこすりあげた。

 

彼の指は強弱をつけて握ったり、ぬるついた先端だけを小刻みに動かした。

 

「っあ...」

 

彼の手の中で、僕のものはさらに大きく張り詰める。

 

僕の顔を横から覗き込み、彼はどう猛な笑みを浮かべた。

 

僕は彼の獲物だ。

 

もう片方の手を、僕の背筋を滑らせる。

 

「は...あぁ...」

 

その感触だけで、鳥肌がたつ。

 

あえぐたび、彼は僕の首筋に唇をあて、耳たぶまで舌を這わせる。

 

「チャンミン...可愛いよ」

 

耳元でささやかれたのに反応して、熱く硬くなる。

 

彼を押し倒すこともせず、僕は四つん這いのまま熱い吐息をこぼすだけだ。

 

金縛りにあったかのように、僕の両手、両膝は動かせない。

 

「はあはあ」

 

快感のあまり、がくりと肩を落としてしまった。

 

(気持ちよすぎる...)

 

マットレスに片頬を押し付けて、だらしなく口を開けて。

 

腰を突き上げた格好という、恥ずかしい姿勢で。

 

その背の上に彼は身体をもたせかけ、前にまわした片手で僕の胸を攻め始める。

 

下半身も胸も、同時進行で与えられる刺激に目がくらんで、僕はギュッと目をつむった。

 

(もう...限界だ)

 

彼は僕の尻をつかむと、前後に揺らし始めた。

 

「もっと腰を動かせ」

 

耳元でささやくと、ぴしゃりと僕の尻を叩いた。

 

お尻はカッと熱くなるし、

腰を動かすたび目がくらむほどの快感が全身を走るし、

乳首をさんざんいたぶられて、

もう自分が何をされているのか、分からなくなっていた。

 

頭がくらくらしてきた。

 

僕の顎をつかむと、唇を重ねてきた。

 

彼の舌を追いかける。

 

彼に触れられる唯一の入口だ。

 

下腹部が重ったるくしびれてきた。

 

彼の手の動きが、激しくなってくる。

 

「うっ...!」

 

下腹部が弓なりに、けいれんした。

 

「はっ...!」

 

僕は激しく射精した。

 

2度3度と続いたけいれんに合わせて、僕の精液が吐き出される。

 

「はあはあはあはあ」

 

僕は突っ伏した。

 

僕は彼の手の動きだけで、達してしまったのだった。

 

 

(つづく)

 

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