【4】僕を食べてください(BL)

 

~触って欲しい~

 

 

 

「急だったから、何もご馳走を用意してやれなくてごめんな」

 

「ばあちゃんが作ったカレーは好物だよ」

 

ばあちゃんの作ったカレーは、大きめに切った野菜がごろごろ入っていて、肉の代わりにツナ缶を入れた素朴な味だ。

 

大食いの僕のために、大きな鍋いっぱいにカレーを作ってくれた。

 

「明日、ビールでも買ってこようかね?」

 

「いいよ、わざわざ」

 

ばあちゃんも年をとった。

 

前回帰省した時から3か月も経っていないのに、小さく縮んだように見える。

 

「明日、僕が買いに行ってくるよ」

 

ばあちゃんが買い物に使う軽自動車のことだ。

 

この辺りは、車がないと生活が出来ない。

 

「ありがとね」

 

「あと5日間はいるからさ、僕にできることはやるよ。

何か力作業はある?」

 

「そうだねぇ、

車庫の中を片付けているんだよ。

雨漏りがするんだ、屋根が。

車庫ん中に置いてたものが濡れるから、家ん中に移してる途中なんだよ」

 

「わかった。

僕に任せてよ」

 

「そうだ。

Sさんから猪肉をもらったんだよ。

冷凍庫にあるから、明日の夜、鍋にしようか?」

 

「猪肉?

この季節に、鍋?」

 

「猟師の有志で、処理場を建てたんだとさ。

最近は、ジビなんとかが流行りだそうだよ」

 

「ジビエ?」

 

「そうそう、ジビエ料理。

観光客を呼ぼうと、町も必死なんだよ」

 

「そうなんだ」

 

ばあちゃんと会話を交わしながら、僕の頭の中はセックスのことでいっぱいだった。

 

僕くらいの年の男なんて、こんなものなんだろうけど、今夜は度が過ぎている。

 

やばい。

 

スウェットパンツを、僕のものがくっきりと押し上げてきた。

 

ばあちゃんに気付かれないよう、背を向けて席を立ち食器を片付けると、まっすぐ自室へ向かった。

 

自慰では、足りない。

 

全然足りなかった。

 

 

 


 

 

翌朝、朝食を終えると、そそくさと僕はあの廃工場へ向かっていた。

 

雨の山道で突き倒された時の僕はまさしく獲物で、廃工場で指だけでイかされた僕もやっぱりユノの獲物だった。

 

恐怖におののくどころか、滅茶苦茶にされたいと望んでいた。

 

僕は喜んでユノに身体を差し出すよ。

 

貪られたかった。

 

快楽に狂いかけていた。

 

僕は車を停めると、廃工場に向かって大股に歩く。

 

自宅から車で5分、徒歩だと15分もかからなかった。

 

繁殖力旺盛なつる草が、割れた窓ガラスから工場内に侵入している。

 

1メートルほど開いたシャッターの下を、僕は膝をついてくぐって入った。

 

(自分はどうかしてる。

もの欲し気に、訪れたりして)

 

「ユノ!」

 

(でも、自分を抑えられないんだ)

 

僕の声だけが、広い空間に響く。

 

床はコンクリート敷で、鉄骨に吹き付けた際に漏れた塗料が赤く染めている。

 

「ユノ!」

 

もう一度大声で叫ぶと、

「こっちだよ!」

声がした工場の裏手に回る。

 

「おはよう」

 

サングラスをかけたユノが、僕に向かって手を上げた。

 

この日のユノは、朱色の半袖Tシャツと濃灰色のパンツといった装いだった。

 

細身のそれは、ユノのスタイルのよさを際立たせていた。

 

ユノは全身のバランスが、素晴らしくよかった。

 

血の気のない肌がTシャツの色のおかげで、心なしか血色があるように見えた。

 

洗濯ロープに、真っ白なシーツがはためいていた。

 

「昨日、チャンミンが汚しちゃっただろ?」

 

「ごめん」

 

恥ずかしくなって僕はうつむいた。

 

工場の裏手は谷になっていて、下には谷川が涼し気な水音をたてている。

 

風に飛ばされないよう、シーツを洗濯ピンチでとめ終えたユノが、僕のそばにゆっくりとした足取りで近づく。

 

「俺に会いたかったの?」

 

ユノは僕の真ん前に立つ。

 

サングラスが瞳の色と目の下の隈を隠していた。

 

僕は頷いた。

 

ユノを前にすると、僕はとたんに無口になってしまう。

 

事実、昨日も喘ぐ声しか漏らしていなかった。

 

僕の喉がごくりと鳴る。

 

これから何が始まるのか期待が膨らんだ。

 

それも、エロティックな期待に。

 

ユノは僕の全身を上から下へと眺めまわすと、腕をすっと持ち上げた。

 

僕の視線は、ユノの指先に釘付けになる。

 

ユノの指先が、僕の手の甲から二の腕に向かって撫で上げる。

 

腕の産毛だけをかするような、羽のようなタッチで、それだけでぞわっと鳥肌がたち、ため息が出てしまった。

 

僕の胸が大きく上下した。

 

「ここじゃなんだから、中に入ろうか?」

 

ユノは僕の腕から手を離すと、親指を立てて工場裏手のドアの方を指した。

 

「......」

 

 

 

 

明るい外から室内に入ったため視界は暗く、僕は戸口に立って目が慣れるのを待つ。

 

ユノは歩調をゆるめることなく、あちこちに放置された鉄骨の間をすり向けて行った。

 

サングラスを外したユノは、遅れて来た僕に対面した。

 

(やっぱり...)

 

気が動転し、欲情に支配されていた昨日は、後回しにしていた疑問。

 

(ユノとどこかで会ったことがある)

 

ユノに襲われた時、僕の胸をかすめた考えが確信に変わる。

 

(どこで会ったんだろう...?

そんなことより、今は...)

 

これから何が始まるかは、分かりきっている。

 

僕の胸に、欲の炎がともる。

 

ユノの片頬に手を添えて、唇を重ねた。

 

今日は拒まれなかったことに安心しながら、ユノの唇の柔らかさを楽しんだ。

 

触れた時はひやりとしていたユノの唇は、何度も顔の向きを変えて重ねているうちに、温かくなってきた。

 

半分閉じられたユノの長いまつ毛や、短い前髪の下の形のいい眉毛が間近に迫っている。

 

(美しい人だ)

 

うっすら開けたユノの唇の隙間から、僕は舌を侵入させた。

 

ユノの舌を追いかけながら、これも拒まれなかったことに安堵していた。

 

口腔を舌先でくすぐられるたび、僕の下腹に熱い疼きが走る。

 

ねっとりと舌をからめ合い、味わい尽くす。

 

ユノとのキスは甘い味がした。

 

ユノは僕の首に、腕をまわす。

 

興奮で火照った首筋に、ユノの冷たい腕が心地よかった。

 

ふっとあの甘い香りが漂ってきた。

 

その香りを胸いっぱいに吸い込んだ僕の頭に、陶酔の壺に後ろ向きでダイブする映像が浮かんだ。

 

いつしかキスは激しくなり、僕の全身はますます熱く火照ってきた。

 

ユノは僕の耳元に唇をよせ、ささやいた。

 

「こんなに勃たせちゃって」

 

「あ...」

 

僕の股間は、デニムパンツの中で圧迫されてはちきれそうだった。

 

痛いくらい窮屈だった。

 

僕らはキスを再開する。

 

(たまらない)

 

僕らはもつれるように、隅に敷かれた真っ白なマットレスに倒れこんだ。

 

マットレスの上を壁際まで下がった僕に、ユノがのしかかる。

 

ねっとりとしたキスと同時進行に、Tシャツの上からユノの背に腕を回した。

 

これも拒まれなかった。

 

その手をユノの尻まで落とし、引き締まった弾力を楽しんだ。

 

ところが、例の場所に手を這わそうとした時、手首をつかまれ耳の高さに押さえつけられた。

 

僕の力では抗えない、鋼鉄のような力。

 

もう片方の手も、同じように押さえつけられた。

 

ユノは手首から手を離すと、僕のベルトを外しパンツのファスナーを下げた。

 

ユノの拘束から解かれても、僕の両手は万歳のポーズのままだ。

 

パンツの裾を持って、一気に引き下ろした。

 

そしてユノは、下着の上から僕の膨張した部分に手を当てた。

 

腰がかすかにぴくりとする。

 

「今日もこんなに濡らしちゃって」

 

下着の一点が、ジュクジュクに濡れているのが分かる。

 

ユノは満足そうに口角を上げると、僕の最後の場所を覆っていた下着を、一気に引き下ろした。

 

のどがごくごくと鳴る。

 

僕は上はTシャツを着たまま、下半身はむき出しの裸にされた。

 

こんな恥ずかしい恰好も、僕の興奮を煽った。

 

そして、これからはじまるであろうことを思うと、それだけで猛々しくなってしまう。

 

「脚を広げて」

 

「え?」

 

壁にもたれた状態の僕の両膝を、ユノは軽く押す。

 

素直に従い、僕の両腿は大きく開かれた。

 

欲の色が浮かんだユノの瞳は群青色に輝いて、そこから目がそらせなかった。

 

行き止まりまで追いつめられ、あとは襲われるのを覚悟して待つ被捕食者のように。

 

「どこを触ってほしい?」

 

「え...?」

 

「触って欲しいところを教えて」

 

(そんなこと...恥ずかしくて言えないよ)

 

僕は目を反らす。

 

開いた僕の両腿の前に、ユノは腰を下ろした。

 

陶器のようななめらかな白い頬をゆがませて微笑する。

 

「言えないのか?」

 

ユノは僕の睾丸を手の平にのせると、やさしくもみほぐし始めた。

 

「は...あぁ...」

 

深い吐息を漏らす。

 

やわやわと壊れやすいものを扱うように、その動きは優しい。

 

ユノの手が、僕の陰毛を逆立てるように指ですく。

 

ユノは身を伏せると、僕のふくらはぎに唇をつけた。

 

そして、膝裏からつつーっと舌を這わせ、脚の付け根に到達すると、内ももに戻る。

 

その道筋から、さざ波のような震えが広がった。

 

膝裏から内ももをたどり、脚の付け根まで舌を這わせると、またふくらはぎに戻ってしまった。

 

脚の付け根まで到達すると、膝裏まで戻ってしまう。

 

「もっと...」

 

焦らすような動きに、耐えられなくなった僕は口走ってしまった。

 

「もっと...上」

 

「ここ?」

 

「そう、そこを」

 

ユノはそそり立った僕のものに人差し指を当てると、揺らした。

 

指を離した弾みで、バネのように下腹を叩く。

 

「触って」

 

「ふふふ」

 

「あっ...駄目っ」

 

シャワーを浴びていないことに気付いて、自分の股間に顔を近づけたユノを押しとどめた。

 

「汚いから...」

 

「可愛いね」

 

くすっと笑うとユノは僕の先端に、チュッと音をたてて軽いキスをした。

 

「うっ」

 

快感がはじける。

 

昨日から僕が求めていた行為が始まった。

 

ユノはゆっくりと、根本から上に向かってゆっくり舌を動かしていった。

 

「は...あっ...」

 

全身が粟立つ。

 

次は僕の硬さを楽しむようについばむように、唇を動かした。

 

ユノはまだ、咥えない。

 

僕のものの先からは、とめどなく先走りが流れ出る。

 

根元から這ったユノの舌が、先端に戻った。

 

「うっ...」

 

尿道口をちろちろと、舌先で遊ぶ。

 

「あっ...はぁ...」

 

僕の淫らな声が、しんとした工場内に響く。

 

ユノの舌先が離れた瞬間、唇から糸がひいて、僕の興奮は増していった。

 

「可愛い...チャンミン、可愛いよ」

 

先走りとユノの唾液で、僕のものはてらてらと光っている。

 

「いやらしい...濡れ過ぎだ」

 

その言葉に煽られて、全身の血流が沸騰しそうだった。

 

(たまらない。

僕は...はしたない男だ)

 

ふとユノは顔を上げると、身を起こした。

 

首をそらして喉をみせていた僕は、顔を戻す。

 

途中で止められて、お預けをくった僕は、恨めしそうな表情をしているに違いない。

 

「ここからは、自分でやれ」

 

「え...?」

 

「続きはチャンミンがやるんだ」

 

ユノは僕の手をとって、握るよう促した。

 

「俺に見せて」

 

(なんて恥ずかしいことを...)

 

ユノは僕に命じた。

 

「オナニーしているところを、俺に見せろ」

 

 

 

(つづく)

 

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