~触って欲しい~
「急だったから、何もご馳走を用意してやれなくてごめんな」
「ばあちゃんが作ったカレーは好物だよ」
ばあちゃんの作ったカレーは、大きめに切った野菜がごろごろ入っていて、肉の代わりにツナ缶を入れた素朴な味だ。
大食いの僕のために、大きな鍋いっぱいにカレーを作ってくれた。
「明日、ビールでも買ってこようかね?」
「いいよ、わざわざ」
ばあちゃんも年をとった。
前回帰省した時から3か月も経っていないのに、小さく縮んだように見える。
「明日、僕が買いに行ってくるよ」
ばあちゃんが買い物に使う軽自動車のことだ。
この辺りは、車がないと生活が出来ない。
「ありがとね」
「あと5日間はいるからさ、僕にできることはやるよ。
何か力作業はある?」
「そうだねぇ、
車庫の中を片付けているんだよ。
雨漏りがするんだ、屋根が。
車庫ん中に置いてたものが濡れるから、家ん中に移してる途中なんだよ」
「わかった。
僕に任せてよ」
「そうだ。
Sさんから猪肉をもらったんだよ。
冷凍庫にあるから、明日の夜、鍋にしようか?」
「猪肉?
この季節に、鍋?」
「猟師の有志で、処理場を建てたんだとさ。
最近は、ジビなんとかが流行りだそうだよ」
「ジビエ?」
「そうそう、ジビエ料理。
観光客を呼ぼうと、町も必死なんだよ」
「そうなんだ」
ばあちゃんと会話を交わしながら、僕の頭の中はセックスのことでいっぱいだった。
僕くらいの年の男なんて、こんなものなんだろうけど、今夜は度が過ぎている。
やばい。
スウェットパンツを、僕のものがくっきりと押し上げてきた。
ばあちゃんに気付かれないよう、背を向けて席を立ち食器を片付けると、まっすぐ自室へ向かった。
自慰では、足りない。
全然足りなかった。
翌朝、朝食を終えると、そそくさと僕はあの廃工場へ向かっていた。
雨の山道で突き倒された時の僕はまさしく獲物で、廃工場で指だけでイかされた僕もやっぱりユノの獲物だった。
恐怖におののくどころか、滅茶苦茶にされたいと望んでいた。
僕は喜んでユノに身体を差し出すよ。
貪られたかった。
快楽に狂いかけていた。
僕は車を停めると、廃工場に向かって大股に歩く。
自宅から車で5分、徒歩だと15分もかからなかった。
繁殖力旺盛なつる草が、割れた窓ガラスから工場内に侵入している。
1メートルほど開いたシャッターの下を、僕は膝をついてくぐって入った。
(自分はどうかしてる。
もの欲し気に、訪れたりして)
「ユノ!」
(でも、自分を抑えられないんだ)
僕の声だけが、広い空間に響く。
床はコンクリート敷で、鉄骨に吹き付けた際に漏れた塗料が赤く染めている。
「ユノ!」
もう一度大声で叫ぶと、
「こっちだよ!」
声がした工場の裏手に回る。
「おはよう」
サングラスをかけたユノが、僕に向かって手を上げた。
この日のユノは、朱色の半袖Tシャツと濃灰色のパンツといった装いだった。
細身のそれは、ユノのスタイルのよさを際立たせていた。
ユノは全身のバランスが、素晴らしくよかった。
血の気のない肌がTシャツの色のおかげで、心なしか血色があるように見えた。
洗濯ロープに、真っ白なシーツがはためいていた。
「昨日、チャンミンが汚しちゃっただろ?」
「ごめん」
恥ずかしくなって僕はうつむいた。
工場の裏手は谷になっていて、下には谷川が涼し気な水音をたてている。
風に飛ばされないよう、シーツを洗濯ピンチでとめ終えたユノが、僕のそばにゆっくりとした足取りで近づく。
「俺に会いたかったの?」
ユノは僕の真ん前に立つ。
サングラスが瞳の色と目の下の隈を隠していた。
僕は頷いた。
ユノを前にすると、僕はとたんに無口になってしまう。
事実、昨日も喘ぐ声しか漏らしていなかった。
僕の喉がごくりと鳴る。
これから何が始まるのか期待が膨らんだ。
それも、エロティックな期待に。
ユノは僕の全身を上から下へと眺めまわすと、腕をすっと持ち上げた。
僕の視線は、ユノの指先に釘付けになる。
ユノの指先が、僕の手の甲から二の腕に向かって撫で上げる。
腕の産毛だけをかするような、羽のようなタッチで、それだけでぞわっと鳥肌がたち、ため息が出てしまった。
僕の胸が大きく上下した。
「ここじゃなんだから、中に入ろうか?」
ユノは僕の腕から手を離すと、親指を立てて工場裏手のドアの方を指した。
「......」
・
明るい外から室内に入ったため視界は暗く、僕は戸口に立って目が慣れるのを待つ。
ユノは歩調をゆるめることなく、あちこちに放置された鉄骨の間をすり向けて行った。
サングラスを外したユノは、遅れて来た僕に対面した。
(やっぱり...)
気が動転し、欲情に支配されていた昨日は、後回しにしていた疑問。
(ユノとどこかで会ったことがある)
ユノに襲われた時、僕の胸をかすめた考えが確信に変わる。
(どこで会ったんだろう...?
そんなことより、今は...)
これから何が始まるかは、分かりきっている。
僕の胸に、欲の炎がともる。
ユノの片頬に手を添えて、唇を重ねた。
今日は拒まれなかったことに安心しながら、ユノの唇の柔らかさを楽しんだ。
触れた時はひやりとしていたユノの唇は、何度も顔の向きを変えて重ねているうちに、温かくなってきた。
半分閉じられたユノの長いまつ毛や、短い前髪の下の形のいい眉毛が間近に迫っている。
(美しい人だ)
うっすら開けたユノの唇の隙間から、僕は舌を侵入させた。
ユノの舌を追いかけながら、これも拒まれなかったことに安堵していた。
口腔を舌先でくすぐられるたび、僕の下腹に熱い疼きが走る。
ねっとりと舌をからめ合い、味わい尽くす。
ユノとのキスは甘い味がした。
ユノは僕の首に、腕をまわす。
興奮で火照った首筋に、ユノの冷たい腕が心地よかった。
ふっとあの甘い香りが漂ってきた。
その香りを胸いっぱいに吸い込んだ僕の頭に、陶酔の壺に後ろ向きでダイブする映像が浮かんだ。
いつしかキスは激しくなり、僕の全身はますます熱く火照ってきた。
ユノは僕の耳元に唇をよせ、ささやいた。
「こんなに勃たせちゃって」
「あ...」
僕の股間は、デニムパンツの中で圧迫されてはちきれそうだった。
痛いくらい窮屈だった。
僕らはキスを再開する。
(たまらない)
僕らはもつれるように、隅に敷かれた真っ白なマットレスに倒れこんだ。
マットレスの上を壁際まで下がった僕に、ユノがのしかかる。
ねっとりとしたキスと同時進行に、Tシャツの上からユノの背に腕を回した。
これも拒まれなかった。
その手をユノの尻まで落とし、引き締まった弾力を楽しんだ。
ところが、例の場所に手を這わそうとした時、手首をつかまれ耳の高さに押さえつけられた。
僕の力では抗えない、鋼鉄のような力。
もう片方の手も、同じように押さえつけられた。
ユノは手首から手を離すと、僕のベルトを外しパンツのファスナーを下げた。
ユノの拘束から解かれても、僕の両手は万歳のポーズのままだ。
パンツの裾を持って、一気に引き下ろした。
そしてユノは、下着の上から僕の膨張した部分に手を当てた。
腰がかすかにぴくりとする。
「今日もこんなに濡らしちゃって」
下着の一点が、ジュクジュクに濡れているのが分かる。
ユノは満足そうに口角を上げると、僕の最後の場所を覆っていた下着を、一気に引き下ろした。
のどがごくごくと鳴る。
僕は上はTシャツを着たまま、下半身はむき出しの裸にされた。
こんな恥ずかしい恰好も、僕の興奮を煽った。
そして、これからはじまるであろうことを思うと、それだけで猛々しくなってしまう。
「脚を広げて」
「え?」
壁にもたれた状態の僕の両膝を、ユノは軽く押す。
素直に従い、僕の両腿は大きく開かれた。
欲の色が浮かんだユノの瞳は群青色に輝いて、そこから目がそらせなかった。
行き止まりまで追いつめられ、あとは襲われるのを覚悟して待つ被捕食者のように。
「どこを触ってほしい?」
「え...?」
「触って欲しいところを教えて」
(そんなこと...恥ずかしくて言えないよ)
僕は目を反らす。
開いた僕の両腿の前に、ユノは腰を下ろした。
陶器のようななめらかな白い頬をゆがませて微笑する。
「言えないのか?」
ユノは僕の睾丸を手の平にのせると、やさしくもみほぐし始めた。
「は...あぁ...」
深い吐息を漏らす。
やわやわと壊れやすいものを扱うように、その動きは優しい。
ユノの手が、僕の陰毛を逆立てるように指ですく。
ユノは身を伏せると、僕のふくらはぎに唇をつけた。
そして、膝裏からつつーっと舌を這わせ、脚の付け根に到達すると、内ももに戻る。
その道筋から、さざ波のような震えが広がった。
膝裏から内ももをたどり、脚の付け根まで舌を這わせると、またふくらはぎに戻ってしまった。
脚の付け根まで到達すると、膝裏まで戻ってしまう。
「もっと...」
焦らすような動きに、耐えられなくなった僕は口走ってしまった。
「もっと...上」
「ここ?」
「そう、そこを」
ユノはそそり立った僕のものに人差し指を当てると、揺らした。
指を離した弾みで、バネのように下腹を叩く。
「触って」
「ふふふ」
「あっ...駄目っ」
シャワーを浴びていないことに気付いて、自分の股間に顔を近づけたユノを押しとどめた。
「汚いから...」
「可愛いね」
くすっと笑うとユノは僕の先端に、チュッと音をたてて軽いキスをした。
「うっ」
快感がはじける。
昨日から僕が求めていた行為が始まった。
ユノはゆっくりと、根本から上に向かってゆっくり舌を動かしていった。
「は...あっ...」
全身が粟立つ。
次は僕の硬さを楽しむようについばむように、唇を動かした。
ユノはまだ、咥えない。
僕のものの先からは、とめどなく先走りが流れ出る。
根元から這ったユノの舌が、先端に戻った。
「うっ...」
尿道口をちろちろと、舌先で遊ぶ。
「あっ...はぁ...」
僕の淫らな声が、しんとした工場内に響く。
ユノの舌先が離れた瞬間、唇から糸がひいて、僕の興奮は増していった。
「可愛い...チャンミン、可愛いよ」
先走りとユノの唾液で、僕のものはてらてらと光っている。
「いやらしい...濡れ過ぎだ」
その言葉に煽られて、全身の血流が沸騰しそうだった。
(たまらない。
僕は...はしたない男だ)
ふとユノは顔を上げると、身を起こした。
首をそらして喉をみせていた僕は、顔を戻す。
途中で止められて、お預けをくった僕は、恨めしそうな表情をしているに違いない。
「ここからは、自分でやれ」
「え...?」
「続きはチャンミンがやるんだ」
ユノは僕の手をとって、握るよう促した。
「俺に見せて」
(なんて恥ずかしいことを...)
ユノは僕に命じた。
「オナニーしているところを、俺に見せろ」
(つづく)
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